舞台『私立探偵 濱マイク』感想
舞台『私立探偵 濱マイク』の感想です。観劇からしばらく経って記憶がだいぶ美化されているうえに、長文の書き方を忘れている。
百蘭の歌とダンスとお芝居
まず彼女のことを言いたい。奏音ちゃん演じる百蘭の歌もダンスもお芝居も衣装もなにもかもが本当にすてきだった……!彼女は歌と踊りが好きで、場面ごとに変わるチャイナドレスも、毎日着る服を選ぶ楽しさを知っている人なんだろうと思う。奏音ちゃんの百蘭を観ていていいなあと思う瞬間がたくさんあった。徳健と出会った頃の楽しい姿、徳健の持つ闇に少しずつ気づいていく表情の移り変わり、そして徳健を見送った後に歌うMoon River。クライマックスでは両手を縛られたまま銃を撃ち、高く上げた脚で蹴りあげ、縛られた腕を差し出して縄を切ってもらい……と流れるような星野君との連携プレーも凄かった。そしてその流れを美しく盛り上げる音楽。百蘭が持つ芯のある強さと西田さんの美しい演出がとてもよく合っていました。百蘭は徳健との日々を、きれいな記憶としてこの先も生きていくのだろうと、最後に振り返る場面ではそんなふうに思いました。
冒頭の映画館のお婆さんから奏音ちゃんに変身する瞬間も見どころの一つだと思う。最初は本当に奏音ちゃんが演じていると気づかなかった!初日は本当にびっくりして拍手しちゃいました。このお婆さんの場面と、百蘭と徳健の出会いの場面だけで使用されるステンドグラスのような照明もとてもきれいでした。1階後方や2階席からじゃないと見えない照明。あの光に照らされた人物が、きれいな記憶を思い出しているような光だった。時系列的にありえないのだが、映画館のお婆さんが思い出す若き日の自分が百蘭だったように思えてくる。
観劇後しばらくの間はばら色の人生やMoon River、蘇州夜曲を聴いてすごしました。余韻に浸ったまま、彼女の歌唱曲とイメージした曲でプレイリストまで作っちゃった。
西田さんの美しい演出と余白
西田さん作品特有の演出も音楽もきれいでした。特に好きなのは、愛の賛歌が流れるなかのスローのアクション。あの優雅なメロディと暴力が似合うなんて。劇団打の林檎でも好きだったシリアスな場面のきれいなピアノの曲に、きれいな記憶を思い出すかのような照明。シャッター音とともに展開していく人物紹介もおしゃれだし、映画のコマ送りのようなオープニングもかわいい。オープニングだけはヤン兄弟がジャグリングしたりして楽しそうなんですよね。違うだろうけど想像の余地がある配置もよかったです。奥でマイクが寝ているせいで兄弟のやりとりが夢に見えたり、死に際の徳健が手を伸ばした先にいる百蘭が走馬灯に見えたりした。ヤン兄弟の最期の場面、実際の死に際の二人の場面と、その場にいなかったマイクと百蘭たちが二人を想う場面とが入れ代わるように展開していくのがよかった。二人の跡を見て「じゅうぶん夢をもらったから」と微笑む百蘭が、徳健が死ぬ直前に見た幻のようにも見える。美しい瞬間がたくさんあった。上手・下手・前方・後方と座りましたがどこから観ても楽しかったです。
マイクのかっこよさの正体
私が感じた朗読劇版との違いは「マイクが結構ただのヒトっぽい」ところでした。褒めてる。
朗読劇では登場しただけでスターが出てきたような華やかさがあったけど、舞台は煙草の吸い方から妹への態度などなど、細かいしぐさに人となりが出ていた。なので、マイクの良いところを語ろうとすると、たばこの加え方だとか大声を出すタイミングだとか、細部をたくさんあげることになってしまう。普段のしぐさの連続が、マイクのハードボイルドなかっこよさを作っている。インタビューでも「かっこよくあろうとしない(逆にそれはかっこわるい)」という主旨のことを話していたので、あれがそうだったのかなと今は思います。華やかさを出すより地道なやり方だと思うけど、お芝居の本質のような気がする。
そして、アクションがとてもいきいきしていた。流司さんが「舞台に向いてると思っていて、自分から希望した」と言うだけのことはあって、本当に思う存分動いていました。西田さん舞台なのでアクションの量も多いし、最終的には百蘭まで暴れていて最高でしたね。当たり前のように清光ともサスケとも泰志とも違うマイクの喧嘩だった。回転技が多くて、右腕で殴った直後に半回転して左腕で殴る技を繰り返していてすごかった。治安の悪い街で培った野良犬の暴れ方だった。
客降り演出と飲食
役者が客席を歩きまわる演出が復活し、舞台上では飲食までしてたのでいろいろと戻ってきたんだな……と思いました。飛んでった親指を探すマイクさん、マンガみたいな困り顔でかわいい。
食事をともにするということは口を開けて腹の底を相手に見せる行為だから腹を割って話すのと同義だと言うけれど、マイクは冒頭のうどんで観客に腹の底を見せて、ヤンさんとおでん食べて友だちになる。本人はそんな難しいことも考えずに酒飲めばもう仲間だくらいに思ってそうだけど、いまの人にはめずらしい豪快さがかっこいいなと思いました。東京千穐楽では、いつもマイクとヤンさんで食べていたおでんを茜にまで食べさせるアドリブが楽しかったです。茜がマイクにとって扶養して守る存在であり、口うるさい親代わりみたいな存在なのも好きだった。
旨そうな喫煙、縋るような喫煙
マイクの喫煙、呼吸をするのと同じような当たり前さがある。ワルの煙草であり、ファッションとしての煙草であり、中学生から吸っててすっかり板についた、そんな喫煙な気がする。麻雀しながら呼吸するように吸う煙草、おでんと一緒に旨そうな煙草、友を亡くして縋るように吸う煙草。たまらね~~ くゆる煙で顔が半分かすむ様子も、ふーーっと長く煙を吐く横顔も絵になる。煙草を持つ、黒くて短い爪の手も毎回いいアクセントでした。
東京公演の初日と最終日にマチソワしましたが、初日のカテコで達成感のある顔をみて、やっぱり初日っていいなと思いました。千穐楽も楽しかったですけどね。自分たちであたためてきたものを、お客さんにわっと出した時の達成感って、いいでしょうね。
(12.31 追記)大阪公演も無事に終わったようでよかったです。流司さんの舞台で、やっと全公演完走できた。よかったよかった。今年もお疲れさまでした。