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ひとつになれた、ひとつになれないわたしたち ー劇団『打』『林檎』の感想ー

劇団 『打』の『林檎』が世に放たれてから、一週間近く経とうとしている。『林檎』とは、演劇ドラフトグランプリという演劇イベントに出場した4チームのうちの1チーム、劇団『打』が発表した作品のこと。その物語の緻密さと余白の多さにたくさんの解釈が溢れている。わたしも考えをめぐらすのがとても楽しいです。この状況、幸せだなと思う。

個人差はあるものの、皆の解釈のおおすじはこう。物語の象徴的な言葉、「あなたを誘拐します!」。この「誘拐」は「融解」とも取ることができる。人間がいない世界で「あなた」と呼びかけて人を求め、人でありたいと願う、人のカタチをした5つの世界。彼らは性格もバラバラで、時に奪い合い、時に求め合う。善と悪は表裏一体で、立場が違えば善は悪に、悪は善にもなりうる。物語はさまざまなものを連想させ、ダブルミーニングにもトリプルミーニングにもなる。そして解釈に正解はなく、観た人の数だけ解釈が存在していい。というもの。

ゆう‐かい 【誘拐】
〘名〙 巧みに人を誘い出し、連れ去ること。かどわかすこと。

ゆう‐かい【融解】
〘名〙
① 物質がとけること。また、とかすこと。
② 固体が加熱によって液体になる変化。溶融。
③ ものごと、気分などが、とけあってひとつになることや、ひとつにすること。また、やわらかくほぐれること。ほぐして理解すること。

出典 精選版 日本国語大辞典

私の解釈もこのおおすじと変わらないから、今さら改めて文章にする必要性も感じていない。こうして、たくさんの解釈が溢れる中で「ああ、その解釈わたしも同じだな」と思うということは、わたしたちは“ひとつになれた”のだと思う。それと同時に、おおすじは同じでも細部まで完全一致という解釈はなくて、個人の経験や知識量で当然、違いがあって「なるほどな」と思う。だからやはり「ひとつになることなどこの世にはありえない」のだと思う。わたしたちは人だから。あの20分間でひとつになれなずに倒れた彼らに、そう伝えたい。

流司さんのいちファンとしては、いままで彼が演じてきた様々な役の雰囲気をたくさん観ることができて嬉しかったです。モリールも機械伯爵もサスケもロミオも泰志もいましたね。きっとそのほかにも、いろいろな役がいたことでしょう。狂気的な場面も哀しい場面も感情表現が豊かだったので、もしかしたらあの5つの世界の中では、人と接した時間が最も長かった世界なのかもと思いました。

優勝作品の感想はこちら。

※2023.09.12 追記
第2回の開催に伴い、第1回の映像が再配信されています。年末まで劇団打の林檎が、ある!(2023/12/4(月)23:59まで)