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希望的観測 ー劇団『ズッ友』『天を推し歩く』の感想ー

演劇ドラフトグランプリの中で、『林檎』と同じくらいこの作品も大好き!テンポのいい掛け合いと360度のステージを存分に使った成功物語。2.5の中でも先生役や上司役を演じることが多いベテランの俳優を主人公に持ってきたのも良かった。まずタイトルを見て「てんをおしあるく」と読んでしまったのが、実は「すいしあるく」だった(というかそっちの方が自然な読みだよね)時点で始まっていた気がするし、松平定信の「推してやる、とことんやってこい!」を聞いた瞬間「あ、これ優勝するんだろうな」と思いました。3人が測量しながら八角形の舞台の淵をずいずい歩いていくのも、客席で観てたら楽しかっただろうな。
「己の位置がわかる、つまりそれは何かを成そうとする時に必ず役に立つものだ」という言葉がぐっと刺さった観客も多かったんじゃないでしょうか。仕事でも勉強でも、人生と趣味の距離の取り方にも言える。
クライマックス、この物語の主題を一人ずつ叫びながら、最後は全員で声を合わせて、完成した大きな日本地図をふわっと広げる。これぞ集大成。客席で見おろして(アリーナ席なら見あげて)いたら、さぞ感動したことでしょう。アーカイブでは、息子たちが広げた大きな日本地図を見上げる推歩先生の横顔が、達成感と喜びと感動でなんとも眩しかったです。地図の完成までその死を伏せられた推歩先生が成仏した瞬間かな。すーっと地図の布が推歩先生の横顔に下りていって、物語も幕が下りる。アーカイブのカメラワーク完璧でしょ。優勝おめでとう!

イベントを締めくくる荒牧さんの挨拶に頷いていた染谷さんと唐橋さん。本来、人によって受け止めかたが違ってよしとされる演劇に優劣をつけてしまうのは、私もどうかと思う。自分の好きと結果が伴わなくておかしくなっていく人をたくさん見てきたので、「自分の好きを大切にして、自分の感性を信じて進んで」という主旨のことを最後に荒牧さんが言ってくれたのは、このイベントにおいてとても重要なことだったと思っています。

きっといろいろと思うところがありながらも、4劇団にはこうして演じて見せてくれたことに拍手をおくりたい。私はフィギュアスケートや新体操などといったアーティスティックスポーツの観戦も好きなのですが、数分おきに全く異なる世界が展開される進行といい、360度客席に囲まれた会場といい、見終わった後の自分の感覚といい、アーティスティックスポーツの試合とよく似たイベントだったな~と思います。見せてもらえたのは、己との対話の末に見えてくるもの。表彰台の上で「お前すごいな!俺もすごかったけど」と言い合うようなスポーツマンシップ。この感じが好きだった、そう気づかせてくれました。そういえば、スケートのエキシビションやバンドのフェスのように、一つの会場で一度にいろんな演目が見られるイベントって演劇ではありそうでなかった気がする。

ここ10~15年くらいの間で勢いがついた業界に対して私が個人的に感じているのが、「ブームを文化にするにはどうしたらいいか」を考えられる人が先頭を走っている業界は長続きするのではという希望的観測。いちファンとしてできることは、自分の好きを信じて、足を運び、感想を言う。この全部ができれば尚良いが、どれかひとつでもいい。足を運ぶ理由は推しが見たいからでも、原作が好きだからでも、なんでもいい。そして、「支えたい」と思うことは立派だけど、いちファンなので使命感は背負わない方がいい。自立できる足をつくるのは、中の人たちの仕事のような気がする。イベントを締めくくる荒牧さんの挨拶にはこれと同じような意図がつまっていたので、希望的観測の光みたいだなと、そう思いました。

推しの感想はこちら。