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舞台「呪術廻戦」感想

帳に包まれてきました!身に覚えのあるけんさくさん演出の中でいかんなく発揮される個々人の演技とパフォーマンス、そして音楽。どれを取っても全部楽しくて、気づけば毎週銀劇に通い、大阪までとんでいました 笑
一回限りの観劇のつもりがそこそこ通った部類に入ってしまった舞台「呪術廻戦」たいへん楽しく通いました感想です。

@天王洲 銀河劇場
2022.07.18 マチネ/07.23 マチネ/07.31 マチネ

舞台全体について

あらかじめ原作を読んでしまうと正解か不正解かの視点で観てしまう気がして、登場人物の名前すらろくに知らないような状態でマイ初日を迎えました。いま思えばこれが結構よかった気がする。

ミリしらで観劇してまず面白かったのは、特殊能力としての「呪力」と、生きる上での信念に囚われている意味での「呪い」がダブルミーニングになっていたこと。祖父の遺言を全員で読み上げるのも、虎杖の心にそれがどれだけのしかかっているかが伝わってくる。そして、子どもと子どもを導く大人の対比もしっかりしていて、これが現代のジャンプの人気マンガ……!と感慨深かった。役者個々人の表現はもちろん、舞台全体の構成からしてこの二つを物語を何も知らなかった私にも一発で伝わるように作っていたので、大正解だと思います。

そして細部でウワ~けんさくさんの舞台だなあ^^となるのが言わずもがな楽しかったです。開演してすぐ段ボールのマダニが登場して「 は じ ま っ た 」と思わされ、極彩色で交互に光る照明、音の塊みたいな音楽にしっかり口で言う効果音。原作ミリしらで来たのに身に覚えがある。校長先生が登場した瞬間これ絶対変な曲始まって盛り上がったら合格なんだろと察したり、生き様で後悔はしたくない〜の良い音楽と良い声なのにぬいぐるみが舞ってたり、キラキラの音楽に逆ギレする歌詞が乗ってたり、面談から六本木到着までの間で炸裂しすぎでしょ。

もうひとつ面白かったのが観劇後に原作を読んでいて、演出やお芝居による再現度の巧みさにどんどん気づいたとき。大きなコマをスクリーンそのまま使って大きく見せるというのを、すごくやっていたことに気づきました。事件の日時や結果が出るのも、原作の漫画の再現だったんですね。私は2.5のオタクのくせに映像に頼りきった演出されると冷めるという特異体質なんだけど、じゅじゅステは映像がしっかり効果を発揮していたのも良かった。漫画のコマの再現にしても、背景にしても。真人の歌の背景で極彩色のマーブリングが回ってたのなんてすごいかっこよかった。わあきれい!というより魑魅魍魎的な極彩色だったのも。
そして、原作で絵としてかっこいいくらいに描き込まれたコマの台詞を演じる役者が、気合入れて一番かっこいい姿として演じてくれていたことに気づいたときは震えました。大抵の2.5はそもそも原作が好きで観に行くから、知らない状態で観劇して原作読んで逆進研ゼミ状態になるというか 笑  これは本当に初めての感覚でぞくぞくした。

ジャンプの大人気マンガの舞台化なのに、2.5次元舞台の醍醐味でもある「全キャラ並んで決めポーズ!」的な演出に頼りきっていないのも攻めててかっこよかった。じゅじゅステで全員が一列に並ぶ瞬間ってカテコぐらいなんですよ。その昔けんさくさんがマンガ原作の舞台が嫌いだった反骨精神のちょっとした表れのような気がしている 笑  タイトルコールを主人公不在で準主人公とアンサンブルでみせるのも、邪道なはずなのに王道の少年漫画っぽさが出ていた。同時にこのテーマソングが主人公だけではなく他のキャラクターにもかけられていることに気づける。失敗できない仕事で攻めていて、かつそれが成功しているのを観ると痺れる……!

舞台セットは非常にシンプルだけど、流司さんの虎杖、和田さんの七海、もっくんの真人という体術が見どころの人たちのアクションを存分に見せられる造りになっていて楽しかった!真人vs七海でバシバシ動くとセットも揺れるし、足音もよく響いて本当に迫力がある。迫力やスリルとして楽しめるのと安全性のバランスのギリギリを攻めていた。やってる人は観てる人以上に安全に気をつけてると思うけど、役者の身体能力も含めて本当にすごい。

観客が漫画の世界に没入している感覚を、舞台で可能な表現でいかに出すかにも注力していたと思う。伊地知さんの「帳を下ろします」の言葉で液体がどろりと下りてくる映像と同時に青い照明が上から下りくるのなんて、本当に帳がどろりと上から下りてくる中に身を置いている感覚になる。あの場面の没入感、ほんと楽しい。同じ空間を見上げるか見下ろすって、没入感が一番ある行為だと思う。
そして舞台の終わりに全員並んで伊地知さんの「帳を下ろします」で今度はスクリーンが下りてエンドロールが流れて終演。余韻が残ったまま、観客は規制退場を促される。よく出来てる〜〜〜 観劇の流れとして本当にいい。広告で「呪いの“帳”が舞台を包む」と歌ってる通り、帳に包まれた舞台だった。楽しかったです。

それと、銀劇の3階席から観た時、ステージ上にうつる照明がめちゃめちゃかっこいいことに気づけたのも楽しかった!冒頭の場面で虎杖に当たってたのはスポットライトだけじゃなくて、カラフルなライトが二重に重なった上に放射状のレーザーの輪の中心に虎杖が立ってたのが本当にかっこよくて、うわ~っと息をのんでしまった。伏黒にはスポットライトに重ねてレーザーで五芒星を作っててハイセンス……!スクエア型のスポットライトの中心で五条先生が対角線状に仁王立ちしてたり、真人は水面のような紫のマーブルをあてていて、絵になる瞬間がすごいいっぱいある。言葉だけじゃ良さを伝えきれない。これは2階3階で観た人だけの特権ですね。

流司さんの怪我の影響で大阪から虎杖がリフトされる演出がなくなったけど、それが逆に地に足つけて身体ひとつで戦う人物であることがより強調されていたように思いました。リフトされるのが真人と夏油(夏油は下ろす動作だけど)くらいになっていたのも、人間と人間ではない呪霊の対比になっていたと思う。

キャストについて

虎杖悠仁/佐藤流司

流司さんが演じる主人公役の楽しさって「推しがセンターにたくさん立ってキラキラしてるから」に留まらないところだと思います。初見でテーマソングだとわかるような歌の聞かせ方や、真っ直ぐな性格なのが伝わってくる言動や誰とでも友達になれるのがわかる掛け合い、舞台の真ん中でキラキラしてる姿は言わずもがな主人公らしさと言えるけど、それ以前に“人らしさ”がしっかりあった。私が虎杖というキャラクターで不思議に思ってるのが突然冷静になるところで、演じる上でその瞬間だけそれまでの流れが途切れてしまう難しさがあったと思うのですが、東京楽の頃にはこの子ならこう言うだろうなくらいの溢し方になっていたのが流石でした。具体的に言うとオカ研の仲間が襲われてる間の自問自答・心臓を取られて倒れる直前・最後の場面の七海との会話がこれで、東京楽を迎える頃には戦いの最中でも考えながら走っているような、言葉の溢し方がすごく自然だった。冒頭の場面と最後の場面を似せることで、一人の人間の成長度がより出ている気がした。主人公らしさに固執しすぎない、一人のひととしてキャラクターを出してくれる。本当すごいと思いますわ。

どの歌も本当に好きで選べないくらいだけど、強いていうなら面談の「生き様で後悔はしたくない」と少年院で負けた時の歌かな。貰い事故的とはいえ死刑が決まっている中で、死に向かう生を考える虎杖と、死ぬまで生き続けてやると歌う流司さんの死生観はどこか通じる場所がある気がしている。「生き様で後悔はしたくない」と歌う場面、その言葉だけぐわっとがなって説得力があるんですよ。ぬいぐるみに囲まれて踊ってるのに。そりゃ高専も合格しますわ。
少年院で自分の弱さを知って苦悩する歌。苦しみ、迷い、諦め、言葉にならない感情……。心が折れていく様子をじわじわと侵食されるように見せる。無鉄砲な明るさだけじゃない、こういう感情表現がほんとうに上手い。東京楽なんてすごかったです。嘆くようなツヤと不安定さが揺れ動く心を表してるようだった。そして弱さを思い知ったからこそ、この後の順平との場面が活きてくるんですよね。
最後、少しずつ明るくなっていく中でする七海との会話。七海の言葉を聞きながら自問自答しているんだろうと思わせる横顔。そして溢れてくる言葉。汗だくで佇んでいる姿を観るだけでもくるものがある。けど、そんな感動ポルノに浸らせるだけに頼らない実力がある。あ〜〜〜ほんとうにすごい。

流司さんは虎杖を、今回のじゅじゅステの登場人物でいうなら順平のような人間にも届くようにやってたんじゃないかとすら思う。ファンの勝手な思い込みかもしれませんが。七海がかけた言葉を、虎杖でいながらどんな気持ちで聞いていたのか。役柄と役者本人を重ねて観るのは盲目的すぎるし演劇の楽しみ方として違うのかもと思っているけど、それにしても、この人がやろうとしていることは表面的な部分だけじゃないような気がしている。

釘崎野薔薇/豊原江理佳

原作で描き込まれたコマのかっこよさを演技で再現してくれるじゅじゅステキャストたち、全員素晴らしかったけど中でも優勝していたのが野薔薇ちゃん。“私らしさ”よりも“私”になりたいキャラクターなんて、大好きにしかならないでしょ。「当然でしょ、私が私であるためだもの」と言う時の凛とした姿よ。原作でもこの凛とした姿がそのままだったことを知った時、感動しました。背筋を伸ばしてしっかりと言葉で言う姿が本当にかっこいいです。そしてスカウトされたらどうしよう♪こんにちは東京♪のウキウキな歌声と田舎なんて大嫌い↓↓の差、原宿駅で降りる前に学ランを正す背中、六本木に来た時の地団太、修行中の漫画みたいな走り方、かわいいジャージに着替えた~い♪のがなり、マキ先輩の歌に拍手してるところ、もう全部最高すぎ!全人類野薔薇ちゃんを観ろ。

伏黒 恵/泰江和明

歌にしても細かいお芝居にしても、真面目さがひしひしと感じられるところがたまらない。大人っぽくて冷静だけど内面が熱い人物。大人の前では大人っぽくいたい背伸び感と寮やマキ先輩といる時の等身大さの使い分け。「この人の前ではこういう自分でいよう」を無意識に選んでる感じがふる。
好きなのが「俺の可能性……」「俺の、可能性」「俺の可能性!」の言い分け具合。それぞれテンションが違うんです。間にモノローグも挟まれない。考えながら言ってるから本人には全てが繋がっているものの、俺の可能性しか発さないままヤッ!と歌に入るという、寡黙でクールだけど冷めてない人物なのが伝わってきてたまらないですね。タイトルコールを主人公じゃなくてこの子が歌ってるのも、主人公と対等なもう一人の主人公って感じですごくいい!ブルーグレーなアイメイクもめっちゃ良い〜

七海建人/和田雅成

ファンの間でもナナミン呼びが定着してるけど、引っ叩きますよと言うくらいなので七海と呼びます。かわいいアダ名で呼ばれれば誰もが喜ぶと思ってるのかとでも言いたいかのようなピリついた空気がいい。名前ってただでさえ自分で選べないうえに、趣味じゃないアダ名まで勝手につけられやすい名前だと本当クソだよね(経験者)。そういう本名のわたくし、すごい共感しちゃう。自分の嫌なものをハッキリ示していてすごく好きです、七海というキャラクター。だから虎杖との「ななみん」アドリブのところは、七海なりに虎杖と遊んでくれてる…!とそわそわした気持ちになります。

七海といるときの虎杖の子どもっぽさも好きだけど、虎杖といる時の七海のまともな社会人の大人さも好きです。ややくたびれた猫背気味の姿勢と敬語を絶対に崩さない。虎杖を子どもとして守る存在として扱いながら子ども扱いはしないあたり、五条先生の言う通り信頼できる社会人なんだなと思う。大人から子どもに対して持つ敬意を感じて、虎杖は七海の前でも畏まることなくそんまんまの自分でいて、この二人の場面を観てると本当に気持ちがいい。
個人的に、公私ともに人の上に立ってお手本にされることが増えた中で、七海を観て思っていたことと同じようなことを和田さんも言っていて、お互い頑張りましょうねという気持ちになりました。

伊地知潔高/田中穂先

歌声が空間全体に響き渡ることで劇場に身を置いているのを実感する瞬間は観劇の醍醐味だが、それがこの人の「伊地知〜〜潔高で〜〜〜す!」でもいかんなく発揮されてるのがたまらない。その歌声で拍手喝采もらって「えっ私なんかに……!?」みたいな顔して一瞬戸惑うの、伊地知さんとしてもそういう人間としても再現度が高い。そこで舞い上がらず、サッとメガネをかけ直して平静を取り戻して、静かな声で帷を下ろす生真面目さ。個性豊かな呪術師たちに振り回されながら、伊地知さんが帳を下ろさないとこの舞台は成り立たないという重要な役目も担っている。むくわれてほしい。

真人/太田基裕

す べ て が す き 。たまらん。かわいさも毒々しさも、軽薄さの中にも身体の質量をしっかり感じられるところも。精神的にも肉体的としても中身のなさを演技と身体表現で表していて、まさに“つかみどころがない”。そして歌の浮遊感と軽薄さ、「俺は順平の全てを肯定するよ」の軽々しさなんて、まさに“誑かす”って感じ。観てて形容する言葉が次々でてくる、たまらない。
「嘘がへた!」「ふられちゃったあ……」も好き~~声色が毎回違って、はしゃぐように言ってたり「うわキモ」みたいに吐き捨てたりどれもたまらなかったです。つかみ所なくゆらゆらしてるのに身体の厚みと重さはしっかりあって、vs虎杖&七海の立ち回りなんてバキバキ動いて凄かった……!たちのわるい幼さが本当にたまらなかったですね。もっくんのはたまらないしか言葉が出てこない。

吉野順平/福澤希空

嫌いな人間が死ぬ~の歌と踊り、居場所がない10代の子どもの不安定さと未熟さがよく表れている。自分が正しいとどうしても思いたい感じがひしひしと伝わってくる。それと対になるように虎杖と映画の話で意気投合して友達になっていくくだりの暖かさ。そのあとの展開の愚かさと未熟さ。真人のことを「悪い“人”じゃ」とうっかり言ってしまう至らなさ。その姿を観ているこっちまで懐かしいような恥ずかしいような気持ちにさせられました。順平が出会ったのが真人じゃなくて、孤独を歌うヴィジュアル系バンドだったら良かったのになあと思います。大阪で観たらマイナス面の感情表現にぐっと深みが出ていてびっくりした。先輩たちに囲まれて日々成長していってるんだろうな。もともと高い身体能力にも、もっくんの真人が良い影響を与えている気がする。作中でも順平は真人に影響されて依存していくし、虎杖に出会って変わって行くし、役柄でも役者としても影響しあう姿が見られるのは良いですね。

夏油 傑/藤田 玲

夏油と五条先生が直接絡む場面はないけど、別の人物が話している背景で夏油が五条先生を静かに視界にとらえていたり、「大当たり」と呟いて静かに消えていった奥(サイドシートからしか見えない場所)で捌ける寸前まで順平と虎杖を眺めていたり、出番は少ないものの細部でしっかり存在感が効いていると思いました。
「Fight Kill the Curse!」のボーカルももちろんかっこいい!振り一緒にやりたい!藤田さんの夏油のビジュアルも存在感も好みすぎて、この人で0巻の舞台が観たい。

五条 悟/三浦涼介

ギャルじゃん!!ミリしらで観た時の第一印象がそれでした。そりゃ人気でますわ。文句なしにかっこいい。かっこいいの権化。体の薄さに自由自在に動く手足、軽薄さと力強さの表裏一体さ。この人が言うと全部良い言葉に聴こえる。良い言葉なんですけど。目隠しを外した瞬間、オタクが一斉にオペラグラスを掲げる程に圧倒的なお顔。整いすぎで息の根が止まる。薄い身体を直角に折り曲げて虎杖や伏黒の顔を覗き込むのなんてたまりませんわ。ネルケ制作の体格差再現への意識は鬼である。
生徒への愛情を持った先生なのがわかります。すごかったのが、虎杖の死体を「役立てろよ」と言う時の圧。こんな事態を招いた周囲への失望と、虎杖への期待と愛がどれだけ大きかったかの裏返しが表れていた。それとは対称的に、修行する虎杖にかける言葉の声色の優しさも生徒への愛がこもっている。呪霊と戦うときの自信満々な声のボリュームと圧も、もうすごい…!!最初から最後まで言動すべてが絵に描いたようなかっこよさと絶妙なギャルで、言葉が出ない。「キミ、宿儺に変われるかい?」とちょっと電話かわれる?みたいな軽さで聞くのも好きだし、「お疲れサマンサァ!」「ねぇはやく聞いて」「後でマジビンタ」の言い方も大好きです。や〜〜かっこいい……ギャルゥ……

最後に

じゅじゅステは原作の再現と表現の自由のバランスが絶妙なところで成り立っていると思います。「漫画を舞台演出で表したら」「このキャラクターが人して存在したら」をしっかり観られて私は楽しい。
社会現象レベルに売れてる連載中ジャンプ漫画の舞台化という時点で期待値と失敗できないプレッシャーはすごかったと思います。何をしたって何か言われるだろうけど、今の状況は度を越している。配信のプロモーションにすらアンチコメントがつくなんて異常ですよ。私は推しが叩かれていて気に食わないだけではない。およそ生身の人間に向けてやる行為じゃないことが、何年経ってもどこの界隈でも繰り返されていて、悔しいし悲しい。いつか私が何かを許せない立場になった時、同じ行為をしないために日々学ぶことが地道ながら彼らに屈しない術であり、未来の誰かを少しでも支えて守れるといいなと思っています。

東京公演は無事に終わって本当に良かったです。キャストが毎日「また明日!」と言霊のように言ってましたね。大阪も再開すると決めた以上尊重するけれど、無理はしないでほしい。これを書いている時点で残り3公演。どうか皆で無事に千秋楽を迎えられますように。

@メルパルクホール大阪
2022.08.22 マチネ/ソワレ