主人公の瞳と舞台の力 #舞台の力 #Sparkle41

はじめに——主人公の瞳は実在する

あのアシスタントとは目が違います
澄んでて中は燃えてる
ものすごく活躍するマンガの
主人公と同じ目をしてました

——大場つぐみ・小畑健《19ページ デビューと焦り バクマン。3巻 集英社  2009》p.55

人気漫画家の苦悩と活躍を描いた漫画『バクマン。』。主人公・真城のライバル・天才漫画家のエイジが、真城と初めて対峙した帰り道、真城の目つきを「澄んでて中は燃えてる」と評した場面。エイジはスケッチブックを開き、ルフィや悟空やナルトの瞳と並べて真城の瞳を描きながら、その純度を説明します。
言われてみれば確かに、主人公の瞳は澄んでて中は燃えてますよね。
ところで、澄んでて中は燃えてる主人公の瞳をあなたは3次元で観たことがありますか?
私はあります。それも何度も。
初めてその瞳を見たのは今から2年前、佐藤流司さんの3冊目の写真集発売を記念したお渡し会でした。

お渡し会とは、イベントによって細部は異なりますが大まかに説明しますと、ファンが俳優から写真集を直接手渡しされ、数十秒間一対一で握手やお話ができるという夢のような鬼のようなイベントです。
流司さんのファンになってからまだ日の浅かった私は、その日が人生初のお渡し会でした。
いつもは遠くのステージにいる人が、今日は目の前に来る。舞台だけ観てれば良かったのに、ただでさえ人と話すの苦手なのに、こんな所まで来てしまった。興奮と後悔が入り交じる中、いよいよ私の番です。顔を上げ目が合った瞬間、目の前の景色に息を飲みました。

「澄んでて中は燃えてる瞳だ…」

一瞬黙り込んでしまい「大丈夫ですか?」と言われたのだけ覚えています。(大丈夫じゃないです)
初めてあんなに至近距離で綺麗な顔を見た。それに、澄んでて中は燃えてる瞳がこの世に実在した。あんなに真っ直ぐな眼差しがあるのか…。熱に浮かされたような気分で、その日は帰路に就きました。

お渡し会で流司さんの眼差しの魅力を知った私は、それから何度も舞台やライブに行きました。今回はその中から、意思や感情が込められた眼差しを特に感じられる作品を紹介します。もちろん流司さんの魅力は眼差しだけではありませんが、ここでは眼差しにフォーカスして紹介します。まずは映像や雑誌で楽しめるものから。

解けない魔法
—ミュージカル『刀剣乱舞』真剣乱舞祭2016
—ミュージカル『刀剣乱舞』加州清光単騎出陣アジアツアー

ミュージカル『刀剣乱舞』ライブパートで、流司さん演じる加州清光が歌うソロ曲『解けない魔法』。清光が出陣するライブではお馴染みの定番曲ですが、眼差しは真剣乱舞祭2016(通称:らぶフェス)の解けない魔法が私は気に入っています。
というのも、らぶフェス2016は客席が2階席まである擂鉢状の会場を使ったアリーナライブだったので、キャストは広い空間を意識した上向きの目線が多いんです。赤いペンライトで彩られた客席を、満天の星空を眺めるような多幸感に溢れた眼差しで見つめ「君を夜空に連れ出すよ」と囁く清光。最高じゃないですか。ここから3年後の単騎出陣アジアツアー日本凱旋公演もアリーナライブでしたが、こちらはステージから見おろされる位置で平面一体に客席が広がっています。らぶフェス2016が満天の星空なら、アジアツアーは大海原。赤いペンライトの海を、目を細めて眺める清光の幸福に満ち満ちた眼差しもまた忘れられません。アジアツアーは3年続けた単騎出陣の集大成といった感覚があり、解けない魔法はライブの最後にやる曲なので、本当にここが全ての集大成というパフォーマンスでした。ウインクのタイミングもファンサービスのタイミングも完璧。全てが職人の域でした。

ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」~暁の調べ~2019

『ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」~暁の調べ~2019』は、2015年と2016年に上演された『ライブ・スペクタクルNARUTO-ナルト-』の続編であり、2年ぶりの再演でした。サスケは一族を皆殺しにした兄へ復讐する事だけが人生の全てなので、眼差しに込められた執念が違います。憎しみ、怒り、戸惑い、哀しみが心の底から湧き上がる感情として眼差しに表れる。凄いのは目の見開き方、僅かに震える瞼、それが憎しみから来るものなのか、哀しみから来るものなのかで異なるんですよね。観劇した際はここまで観られなかったので、映像で鮮明に捉えられていて震えました。瞳の奥の心の底までサスケを演じきっている…!個人的に、流司さんの哀しみや怒りといった負の感情のお芝居が私は好きなんです。心の底から湧き上がる感情が外に出た結果として、表情や声や仕草に表れたように思えるから。そして、怒りに震える眼差しや哀しみに打ちひしがれる佇まいに生命力を感じるからです。
NARUTOは『暁の調べ』で描かれたエピソードから先もまだまだ続きがあるので、完結まで舞台化して頂きたいと思っています!サスケが闇落ちしてから里を救う決断をするまでの心情の流れを、流司さんが演じるサスケはどう表すのか楽しみです。

The Brow Beat Live Tour 2019 “Hameln” at Toyosu PIT 2019.02.07

流司さんがボーカルを努めるバンドThe Brow Beatの2019年のツアーファイナルを収録した映像。『睡蓮』という死生観を歌ったバラードで、お客さんが一緒に歌えるコーラスがあります。皆の歌声を聴きながら、優し気に潤む瞳がなんとも言えない。胸がギュッとなってしまう…。睡蓮の歌詞は、流司さんがある経験から紡ぎました。私は彼の生い立ちも過去も彼が話す範囲でしか知らないけれど、その経験から紡いだ詞を歌う皆の歌声が、心の奥に抱えたものを良い方向に進める助けに、少しでもなれたなら嬉しいなと思います。
このライブでは睡蓮の後にhideさんのever free、ROCKET DIVEをカバーしてBrowbeatと明るいロックを続けて歌いますが、どれも少年のようなキラキラした瞳で超楽しそうに歌うので超ハッピーになれます!ここぞとばかりに宣伝しますが、本当にThe Brow Beatはライブが最高に楽しいバンドなので是非一度見に来て頂きたい!もともと観劇が趣味でロックのライブは初めてだけど楽しめた!世界が広がった!という方も沢山いますので、初心者の方でもおススメです。十代からロック聴き倒してる私が楽しいので、バンギャルの皆さまは絶対楽しめます!最近は指定席に親子連れもよく見かけるようになりました。R2(2歳以上OK)な全年齢対象バンドを目指してますから。

AERA 2020年3月23日号 朝日新聞出版

流司さんが表紙を飾り、インタビューも掲載されました。蜷川実花さんが撮影した極彩色の写真が美しいですね。記事では撮影の様子もレポートされていて、その中に眼差しに関する描写があります。その描写から撮影風景と眼差しが目に浮かぶ。ファン以外から見ても眼差しが印象に残った事がわかるのが嬉しい一冊です。

Rock Opera R&J

近未来を舞台にしたロミオとジュリエット。ティボルトを殺し追放されたロミオは、追っ手を掻い潜りジュリエットに会いに行くが、朝までに去らねばならないという場面。
これは映像で確認できないので心苦しいのですが、ある偶然も重なって眼差しの移り変わりが劇的だったので紹介します。劇場の後方席に座っていた私は、オペラグラスで観劇していました。
正面を向いて並んで座り、夜が明け始めた空を眺めている二人。客席後方のスポットライトが、正面から月明かりのように二人を照らしている。まずロミオは運命を憎むような鋭い眼差しで前方を睨んでいました。この直後に悟ったような穏やかな眼差しに変わり、さらに覚悟を決めた強い瞳に移り変わった瞬間、瞳に丁度ハイライトが光り、何かが宿ったように見えたのです…!本当に微妙な顔の傾きで偶然ハイライトが入ったと思われますが(逆に意図的だとしたら凄すぎる)あの時はオペラグラスを持つ手が震えましたね…!
流司さんは目が大きいので本当にハイライトが綺麗に入ります。光の入り方と眼差しの意図がぴたりと合った瞬間は至高です。あの一連の眼差しの流れを追えて良かった…!
映像に収録されている千秋楽は眼差しの流れがやや変わっているのですが、こちらもまた陰鬱とした感情の表現が繊細で巧みなのでおススメです。

リーディングシアター【緋色の研究】

『シャーロック・ホームズ』シリーズの最初の作品である『緋色の研究』の朗読劇。流司さんが主にホームズを、染谷俊之さんが主にワトソンを演じました。「主に」というのは様々な登場人物を二人だけで演じるため。お二人はホームズとワトソン以外も演じ分けていて非常に楽しかったです。
朗読劇のお芝居も素晴らしかったのですが、私はアフタートークである話題になった時の眼差しが印象に残っています。この朗読劇はつい先日、無観客で配信されました。ウイルス禍になってから、久しぶりに劇場に立ったという状況でした。
アフタートークで流司さんは、自分の声が劇場の空間に反響して感動すると話すと、突然「ほら!」と声を張りあげ、そのまま大きな声でゆっくりと続けました。

「ほら!一番奥まで、生声でっ、役者ゆえに、届っ…」

そこで何か込み上げるものがあったのか、それとももっと他の理由だったのかはわかりませんが、言い切る前に照れたように笑いだしてしまいました。
「役者ゆえに」と声を張り上げ、劇場じゅうに響きわたる自分の声に感動する顔。客席を見渡し、喜びが溢れて輝く眼差しは、澄んでて中は燃えてる瞳でした。無観客なのに、一番奥まで届けようとしてくれたこと。劇場で演じる事で「役者ゆえに」と自発的に思えたこと。そして何より、流司さんが本当に嬉しそうなのを観て、胸がいっぱいになりました。

おわりに——主人公の瞳と舞台の力

これらの他にも、流司さんの眼差しに息を呑んだ瞬間はたくさんあります。紹介した作品に近年のものが多いのは、本人の直向きな努力で成長し続けているからです。私が観てない公演でも眼差しが輝く瞬間はきっとあるでしょう。一回一回の公演に全力で臨んでくれる人ですから。
流司さんは目が大きいので、光がたくさん入ってより一層瞳が輝くのは俳優として最高の特性だと思います。さらにすごいのは、瞳に映る光の宿し方が役の感情によって異なること。カラコンだけで表すのではない、内側から湧き出る生命力を感じられること。目は口程に物を言うとはいいますが、感情を眼差しで表す事が巧みな人だと思います。
流司さんの魅力は眼差しだけではありません。たとえば佇まいで感情を表すときもあるし、もどかしさややるせなさが絶妙に醸し出された表情もありましたし、低く艶やかな声が耳に心地いい時も、殺陣の身のこなしが鮮やかだった事も、笑顔がこの世で一番かわいい!世界救える!!と思った事もあります。

昨今の状況からリモート演劇や無観客配信が続く中、この状況も新しい表現の場として、これまでの舞台と変わらぬ熱量でお芝居と向き合う流司さん。事態が終息して一発目の舞台は、役者もお客様も物凄い熱量になるのではないか、だから最初に観る舞台はしっかり選んでほしいし、自分が出る舞台を観に来てほしいと笑って話しています。(《月刊TVfan 2020年7月号 メディアボーイ》p.203)舞台で演じ続けてきたからこそ言える、主人公の言葉ですね。
たまに考える事があります。最初から彼は、澄んでて中は燃えてる主人公の瞳を持っていただろうかと。それは舞台と向き合い続けて様々な事を考えるようになった事で、眼差しに表れた側面もあるのではないか。久しぶりに劇場に立ち「役者ゆえに」と客席の一番奥まで声を響かせたこと。同時にみせた、澄んでて中は燃えてる眼差し。それらに私は舞台の力を感じます。

この先も、この眼差しをどんな形でもずっと観ていきたいなと心から思います。そしていつか事態が終息した一発目の公演で、流司さんはどんな眼差しをみせてくれるでしょうか。その時が私は楽しみでなりません。

#舞台の力 #Sparkle41