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公演中止を乗り越えて 『モーツァルト!』2021.06.01(火)マチネ&06.07(月)マチネ

公演日から1ヶ月が経過してしまったが、私の5本の指に入るフェイバリットミュージカルである『モーツァルト!』の感想を書き残さないわけにはいかない。

しかし舞台の感想の前に、観劇に至るまでに苦難の道を記録しておく。
東京は帝国劇場で4/8(木)に幕を開けた本作品であるが、大阪公演が控えていたこともあり、東京はゴールデンウイークのみの観劇にしようと判断した。今思えばこれが最大の失策であった。以前であれば、大好きな作品であれば幕が開いたらすぐに劇場へ行ったではないか。
もちろん、今や二人の子どもを育てている真っ最中であることから、そんなに自由が利くわけではないのは事実だ。そうは言っても、せめて幕が開いて1~2週のうちには、帝劇で観ておくべきだった。

結果としては、緊急事態宣言のため、ゴールデンウイークの東京公演はすべて中止となり、わたしは4公演分のチケットを持っていたが、すべて紙くずに、、、もとい、諭吉になってしまった。
大阪公演との間に札幌公演はあったものの、5/11までで緊急事態宣言が明ける計画のために大阪公演は上演されるだろうと予想をしていたため、札幌へは飛ばなかった。これも痛恨のミスであった。
大阪の緊急事態宣言が5/31まで延長され、5/25に幕を開ける予定だった梅田芸術劇場での『モーツァルト!』も5/31までの休演が発表されてしまったのだ。月末の土日公演のチケットを複数回押さえていた身としては、またもやチケットが諭吉になってしまったのだ。
この時点で残る公演予定は6/1~6/7の1週間しか残されておらず、私が持っていたチケットは6/5(土)の公演のみとなっていた。
そこへ持ってきて、緊急事態宣言は6/20まで延長。ただし自粛要請のレベルが緩和され、平日公演のみは上演されることになったのが救いとはいえ、持っていたチケットはまたもや諭吉だ。

その時点で、育三郎ヴォルフガングの公演回は、なんと6/1(火)マチネの1回きりとなってしまっていた。しかもチケットは完売。どうあがいても育三郎の回を観ることはできないと思っていたとき、なんと、その公演回の学生団体がキャンセルになったというニュースが飛び込んできたのだ。
6/1の公演であるにもかかわらず5/30の朝からチケット発売というタイトなスケジュール。それでも劇場が満席になるほどチケットは売れまくった。私も発売の10時と同時にチケットを確保し、6/1(火)の休みを取ることにして、劇場に向かったのだ。ちなみにチケットを取った時点では休めるかどうかわからなかった愛妻の分もチケットを確保し、二人そろって平日に休暇を取得、平日マチネを一緒に観劇した。
私も彼女も休む理由を訊かれることなく休暇を取ることができて、素晴らしい環境で仕事できていることを改めて感謝した。

そして6/7(月)は、今年の『モーツァルト!』の大千穐楽であった。それまではおけぴなどの市場にチラホラ出ていたが、6月休日公演の休演が発表になるやいなや、チケットが品薄になってしまった。私は滑り込みでチケットを確保することができ、この公演回も観ることができた。(もっとも、上述の6/1公演再発売の際に、6/7公演もまとまった枚数がリリースされていた。これもまた小さなグループがキャンセルしたのかもしれない。)

というわけで、6/1には育三郎ヴォルフと香寿男爵夫人、6/7には古川ヴォルフと涼風男爵夫人という、両方のダブルキャストを観ることができた。

まずは6/1(火)マチネの感想。

育三郎ヴォルフは、ちょっと気合いが入りすぎていて見ているこっちが緊張してしまいそうであったが、十分に梅芸センターの重責を果たしたと思う。

前回2018年公演ではとにかく涼風さんの男爵夫人が素晴らしくて、始まる前はこの日の男爵夫人が香寿さんであることをちょっとだけ残念に思っていたのであるが、そんな自分を張り倒してあげたいと思うほど、香寿さんは素晴らしかった。「星から降る金」を聴いて涙を流したのは初めてかもしれない。この星金だけでもチケット代の元は取れた感じだ。

この日はとにかく、3年ぶりにこのM!という作品に生で触れ、私はこの作品が大好きなんだな~、ということを実感した一日であった。

そして。
カーテンコールで初めて知ったのだが、この大阪M!がライフ配信されることがこの日に発表になっていたのだ。6/6(日)ソワレの育三郎ヴォルフの回を無観客で、そして6/7(月)マチネの古川ヴォルフの回はお客様を入れてのライブ配信だ。しかも両公演とも短い期間ながらアーカイブ配信あり。
そもそもこの配信ブームの中、DVDも発売され、WOWOWでも放送されたこの作品の配信がないことに違和感を感じていたのだが、最後の最後にようやく決めてくれて本当にありがたかった。

6/5(土)には、翌日の配信に備えて井上ヴォルフの映像(WOWOWの録画)を観た。井上さんは本当に上手い。上手すぎて、映像を見ているだけでも鳥肌が立つし、涙が出てきてしまうレベルであった。

そして6/6(日)の無観客配信。拍手が入るべきところで入らないことに違和感は感じるものの、新演出版のM!を映像で観ることができ、堪能した。
この配信は1万人以上が購入したそうで、リアルタイム配信ではかなり画質が低下していたものの、アーカイブ配信ではばっちりHD画質で楽しむことができた。

カメラが入ることのメリットのひとつは、山口祐一郎さんだ。山口さんは往年の歌唱力が影を潜め、もちろんあの美声は変わらずなのであるが、音が合っていないことが多い。数年前、山口さんを初めて観たとある友人には「あの音痴で存在感のある人」などと言われていた。
しかしそんな彼も、カメラが入ったときとリーヴァイさんが観にきたときは、一気に音が合う、というのが私の経験則だ。この日も、6/1の公演に比べれば遥かに音が合っていたと思う。ただし、それでも不安なところはあり、メディアとして残らない配信の弱さが表れたのかもしれないと感じた。

さて、大千穐楽である6/7(月)は、配信公演であるが、劇場へ向かった

古川さんのヴォルフガングは映像も音源も残っていないため、3年前のライブ観劇以来だ。その間、エリザベートのトート役などの大役を経験したこともあり、より大きくなって帰ってきたと言ってよいと思う。
これまで歌唱力で(もちろん演技もすごいのであるが)惹きつけてきたヴォルフガングとは違い、演技、というよりも役を生きるというそのスタンスで観客を魅了するヴォルフガングである。

お席がサイド寄りだったためか、音響があまりよくなく、キャストさん皆さんお疲れなのかと思ってしまったが、翌日に配信を見る限りではそんなことはなく、単なる音響の問題だったようだ。
ただ、お席の問題とはいえ、3年前にあれほどまでに感動した涼風さんの男爵夫人の歌も響いてくることがなく、そういう意味では本当にもったいなかったし、でも逆に、配信でその神髄を改めて知ることができたのは本当によかった。

映像として残っている2014年版は、春野寿美礼さんと香寿さんの男爵夫人であるため、ここで涼風さんの男爵夫人も映像として観ることができたことは本当にありがたかった。

配信期限の6/8(火)23:59まで、我が家のテレビはずっとM!の配信を流し続けていた。

さて、公演回を問わず感じたことを羅列する。
まず何よりも、今回の公演でうれしかったのは、アマデに表情が戻ってきたことだ。旧演出では、アマデを観ることこそいちばんの楽しみと言ってもよかったほどにアマデは演技をしていたのであるが、2018年の新演出ではアマデが演技をしなくなった。最初に観たときは、アマデの子役が下手なのかとも思ったが(すまん)、3人のアマデがすべて無表情だったことから、これは演出上の指示であると確信したのだ。
でも、今回の公演では、旧演出ほどではないにせよ、アマデに表情が戻ってきていた。これは何よりもうれしいことであった。個人的ないちばんの見どころは、「魔笛」の台本を渡されたときのニンマリとした笑顔だ。

新演出では新曲が入った。
これまた非難になってしまいそうで恐縮であるが、この新曲を山口さんが歌うと、正しいメロディラインがさっぱりわからない。ヴォルフガングが歌って初めて正しいスコアがわかる。そこまでしてこの新曲を入れる必要があったのか、疑問が残る。

その結果、他のシーンでちょこちょこといろんなことがカットされており、それらがことごとく私の好みのシーンだったりするものだから、一層新曲への評価が低くなるのかもしれない。

まぁあのトイレシーンはカットされても構わないのであるが、プラター公園がしょぼくなってしまったのはちょっと許し難い。歌詞の中に「火を噴く男やシャム双生児」と出てくるのに、板の上にはいないのだ。旧演出では彼らがいたおかげでプラター公園のおどろおどろしさがよく出ていたというのに、もったいないことをしたものだ。人体切断のイリュージョンも、旧演出の方が遥かによかった。

そして二幕では、コンスタンツェが魔笛の作曲をしているところへ訪れるシーン。あそこがセリフでのやり取りになっているのが、ホント残念だ。あのシーンでは、歌を思い切り歌って想いを戦わせてほしいと思った。

木下晴香コンスタンツェは、久しぶりの正統派コンスだ。コンスは東宝ミュージカルでは恒例のパンダ枠(実力よりも知名度優先でキャスティングされる枠)であるが、木下さんはパンダとしてではなく、実力でキャスティングされた数少ないコンスだと思う。(もちろん、パンダであっても実力のある人も多い。事実、過去のコンスでいちばん拍手が大きかったのはお松さんだし、二番目は平野綾さんだと思う。二人とも素晴らしいコンスだった。)

コンスに限らず、このモーツァルト!という作品は、女優陣の安定が目を引く。男優中心の物語であるにもかかわらず、ここまで脇をビシッと固めることのできる女優陣を配することができるのは、さすがだ。
ただ、欲を言えば、木下さんにはもう少し丁寧に歌ってほしかった。感情が入りすぎた歌は、どうしても聞きづらくなってしまう。私が四季育ちだから特にそう感じるのかもしれないが、そういう点ではまだ向上できる点があったと思う。今後に期待だ。

というわけで、本当に大好きで大好きな作品にもかかわらず、シーズンで2公演しか観られないとは信じられないことではあったが、配信があったおかげで何公演も観た気分に浸れた。その点は本当にありがたかった。
次回公演が今から楽しみな作品だ。


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