劇団四季チケット譲渡システムに関する考察
この文章はチケットの取り方について述べるものではない。タイトルにも”譲渡”という言葉を入れて、わかりやすくしたつもりだ。まず、その点は誤解のないようにお願いしたい。
およそ一年前の2018年1月14日、劇団四季のチケットシステムが大きく変更になった。チケット予約の方法も大きく変わったのだが、それはまた別の記事に譲ることとし、今更ながら、予約後のチケット管理の方法(思想)が変わったことについて考察したい。
今回(と言っても一年も前だが)の変更のポイントは、チケット譲渡の管理責任を四季から個人へ移したということだ。四季のサイトでは、このようなコンセプトの説明は一切されておらず、システムが変わっただけかのような説明になっているが、実際はそうではない。責任の所在が変更になったのだ。
劇団四季のQRチケットシステムは、変更前から非常にスグレモノであった。四季idなるアカウントとチケット購入履歴が紐付けされ、紙のチケットがなくても携帯電話(スマホ)でQRコードを表示することでチケットになるのだ。
だがこのQRコードというものは単なる画像であるために、コピーが容易だ。ホームプリントチケットに通ずるものがあるが、コピーが万一出回ってしまった場合、どれが正規のものなのか判別が付かないのだ。
そのため、四季がQRチケットを開始した当初(から2018年1月まで)は、四季idと紐付けし、ログインして表示したものが正であるという理屈で運用された。万一同じコードを(画面に)持っていたとしても、四季のサイトからログインして表示したものが唯一の"正規品"で、それ以外は無効だと判別できたのだ。
この運用下でチケット譲渡を公式に成立させるために、四季idフレンドという概念を四季は導入した。四季idで「友達」になれば、四季のシステムの中でチケットを送付できるのだ。その結果、チケットを譲渡された人は四季idからログインしてチケットを正規に表示することができる。
しかし、このシステムを使ったことがある人はわかると思うが、とにかく面倒くさいのだ。相手が四季idを持ってなければまず作ってもらい、相手のメールアドレスに友達申請を送り、承認してもらって、そしてその後ようやくチケットを送付できる。しかもそれを全部四季のサイトの中で行うのだ。四季のサイトが重くてイライラすることもあったはずだ。
そのため、相互に信用できる相手の場合、上のような面倒なことをせず、QRコードのスクリーンショットをLINEなどで送付してそのまま入場してもらうということも現実的には可能だったし、実際によく行われていたと思う。
しかしおけぴなどのチケット譲渡サイトでチケットを譲ってもらう場合は話は別だ。QRコードだけをスクショで送ってもらってもそれが正規品かどうかわからないため、やはり四季idを通じてフレンドになって正式ルートで送ってもらわなければ安心できない。
逆に言えば、そのような譲渡する側、される側が安心してやり取りできるシステムを四季は提供してくれていたのだ。四季の中の人から見ても、誰が正規チケットの所有者であるか把握できるシステムだ。
ところが一年前、コンセプトがガラリと変わった。システムが変わったのではない、思想が変わったのだ。
QRチケットを表示できるURLを四季が開示し、URLをLINEやメールで送るだけでチケットを送付できるようになったのだ。これが何を意味するのか。上述したように、コピーし放題ということだ。
つまり、どこに正規のチケットがあるのかを、購入者が管理する義務が発生するということだ。そして譲渡される側の人も、それが唯一無二のチケットであるということを信用しなければならない。どうやって信用するのか。それはもちろん相手を知っていることによってである。
チケットを譲ってもらう人は、相手が信用できる人であって、自分以外にはこのQRコードのURLを知らせていないということを確信できなければならない。また一方、譲渡する人(四季から買った人)も、譲渡した相手がコピーをばらまいて荒稼ぎするような人間ではないという確信がなければならない。
よく考えてみてほしい。おけぴなどでまったく知らない人にQRチケットを譲り、取引が成立したと思っていても、その相手が複数の人間にそURLを再譲渡して荒稼ぎしていたらどうなるだろうか? QRチケットはいちばん最初に入場した人が有効であるため、同じチケットで別の人が入ろうとしても入れない。
その責任は、チケットを四季から最初に購入した人にあるのだ。もちろん悪いこと(複数譲渡)をした人は悪いが、四季や多くの人に多大なる迷惑を掛けるのは、最初に買った人が、よく知らない人に譲渡したことが原因だ。
だから、本当に信用できる人にしかチケットを譲渡しないようにしてくださいね、というのが四季の思想だ。
前のシステムでは「フレンドリスト」とは名ばかりで、譲渡のためだけに「友達」になっていたのは明白だ。それでも信用できるシステムになっていた。だが今回は本当の(信用できる)友達以外にチケットを譲渡したりすることは常に危険を孕んでいるのだ。
そのため、四季は公式サイトへの返却というシステムを(これは前からあるが)推奨している。推奨というより、知らない人への譲渡は認めておらず、もし行けなくなったときは公式サイトに返却してくださいね、というスタンスだ。そして、一年前までは、知らない人への譲渡でも正規チケットがどれであるか担保できるシステムを採用していたが、もう辞めましたよ、ということだ。チケットを譲るときは、本当に信用できる人だけにしてくださいね、もし何かトラブルがあったら購入者であるあなたの責任ですよ、と。
四季は転売対策に力を入れており、実際に高額転売サイトで購入されたチケットが無効化されて入場できないというケースは日常茶飯事となっている。この対策が功を奏し、高額転売サイトへの四季チケットの出品は明らかに減っている。
しかし、四季は高額転売だけを問題にしているのではない。知らない人への転売は、定価以下でも認めていないというのが四季のスタンスだ。定価以下であっても、ネットを通じて見知らぬ人から購入したチケットでの入場トラブルというのは付き物だからだ。上述したような詐欺もあっただろう。
新システムが導入されてからしばらく後、四季の中の人と話をする機会があったが、その人も「定価以下でも、ネットで不特定の人に販売していたチケットは無効化するというのが前提です」と公言していた。公式に戻せるチケットを戻さずに転売することは、認められていないのだ。
もちろん、我々観客(購入者)の立場としては、ギフトカードで返ってくるよりは現金で返ってきたほうが何かと便利だったりするという理屈はよくわかる。しかしその利便性より、信用の方を重視し、チケットは本当に信用できる家族、友人にのみ譲渡し、行けなくなったら速やかに戻してくださいね、というのが四季のメッセージなのだ。
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