高専ロボコンで独ステを作る意味

コンニチワッ
かびろうしです。
この記事は、ロボコン独ステAdvent Calendar 2024の11日目の記事です。

自分は茨城高専でオフシーズンにステアを設計して、後輩がその設計を元に作ったステアを交流ロボコンで戦う機体に搭載したという経験があります。その時に感じたことを、今回はせっかくの機会なので書かせて頂きます。

この記事の対象

この記事は、「独ステなぁ、作ってみたいけど、どうなんだろ。」と思ってるような、どちらかというとロボコン初心者向けの話です。「俺の独ステを見てくれ!!!」というようなつよつよの人は対象外です。

あらすじ

タイトルからおおよそ分かる通り、技術というよりかはチーム論とかマネジメント論、精神論的な話になります。技術を知りたい人は他にもっとすごい方々がいらっしゃるので、そちらを舐め回すように見てください!

そして結論から先に言うと・・・

「ステア、作ろうぜ!!!」
ということです!

そもそも独立ステアって何

この記事を読む方はもうお分かりかと思いますが、一応簡単な説明を。
独立ステアとは、その名の通り車輪一つ一つを独立してステアリング(操舵)できる走行装置のことです。
車のようにリンク機構で前輪2つを同期して動かすのとは違い、
車輪一つ一つに違う角度を指示することで、
全方位移動や超信地旋回などを行うことが可能になります。

操作と動きのイメージ

独ステのメリット

さりとて、同じようなことはオムニやメカナムといったタイヤを利用することで、よりシンプルな機構で実現できます。
制御も圧倒的に楽です。
それでも独ステを開発する戦略的なメリットは、「モーターの出力の全てを移動に投入できる」という一点に尽きます。

でも、どういう事でしょうか?

ベクトルのおはなし

多分ベクトルの話は高専1~2年あたりでガッツリやると思うので、すんごい端折って言うと、メカナムとオムニは、ベクトルの合成によって移動や旋回をしています。
詳しいことは各自で調べて頂きたいのですが・・・
重要なのは、このベクトルの合成の過程で、モーターの出力の一部が相殺されるという点です。

"T" はトルク(加速力)、"S" は速度を表す

例えば4輪オムニで前方向への進行に寄与できるのは、1/√2倍となって大体7割ぐらいしかありません。これはトルクも進行速度も同様です。途中どんなに摩擦損失を減らしたとしても、モーターが発揮できるトルクと回転数(スピード)の3割をドブに捨てることになるわけです。

一応、斜め方向へ進めば理論上進行速度だけはフルで発揮できますが、その場合加速に寄与できるモーターが4つから2つに減ってしまうのでトルクがモーター二つ分になり、トルクに負けて回転数が落ちたり、加速が鈍くなったりします。(始動時はまっすぐ進んだあと旋回して斜め方向に移動して最高速を絞り出すという荒業もあったりしますが・・・)

しかし、独立ステアは操舵装置によってタイヤのベクトルの向きを揃えるので、タイヤの回転数とトルクを進行方向に100%投入できます。
これが大きい。

特に、高専ロボコン2023のもぎもぎ、学ロボ2024のR2なんかは機体のスピード勝負の側面が強く、トルク&移動速度が本来の7割というとそれだけでバカでかいハンデになってしまうわけです。
こういう場面において独ステが大きな選択肢になります。

逆に言えば、高専ロボコン2024のロボたちの帰還とか、学ロボ2023の輪投げなんかは比較的速度の重要性は低く、その場合ステアは重くて複雑というデメリットが目立ってくるのでオムニやメカナム、あるいは差動二輪の採用率が上がってくるわけです。

独ステは重くて複雑

ここまで読んでいると、トルク&速度-30%のデバフを取り除けるステアは大変魅力的に感じることが出来ますが、現実はそう甘くありません。

ステアはめっちゃ複雑です。それは機構、回路、制御の全領域において言えます。

機構面

まず部品点数が多い。オムニのユニットを20個の部品で作れるとしましょう。そのときステアは50個ぐらいの部品が必要になります。それゆえに重量はとても増えるので、重量制限がシビアなNHKロボコンにおいては大きなデメリットになります。
しかも、その部品同士は所狭しとキツキツに詰め込まれており、組み立ても一苦労、製造誤差によるガタツキや干渉、精度悪化なんかとも戦わなければなりません。時間的にも材料的にも、ステアはオムニの何倍ものリソースを食います。

そして、部品点数が増えるという事はその分壊れやすくなるということ。
壊れやすくなるクセして、直しにくさはレベルMAXです。大会に持ってたらロボットが動かない、壊れてるなんてことがあると、もう終わりです。
一応、複雑な壊れやすい部分を簡単にスワップ出来るステアを開発している人も居ますが、それでも根本的なところはあまり変わらないのが実情です。

回路面

回路も複雑です。4輪独ステと4輪オムニを比較しましょう。オドメトリ用のセンサーとかは考えないとして、最低限まともに動かすためには、オムニであればモーター4つとエンコーダ4つあれば事足ります。
しかし、ステアはモーターとエンコーダが走行用に4つ、操舵用に4つ、計8つ必要です。差動ステアにして2輪式にすれば、普通のステアと同等の性能をモーター4つ、エンコーダ6個(各モーター+各輪の向きの監視)で実現できますが、依然オムニよりは多いです。

更に、ステアは操舵で走行用モーターごと回転させる場合、回路の断線に気を付けなければなりません。ステアを回し過ぎて、配線がねじれてブチッと切れることがあるわけです。そうすると、良くて駆動電源がショート、最悪回路全部が持っていかれます。
差動ステアなど無限に回転できる方法もありますが、複雑さはより一層増します。

制御面

間違いなく一番大変。高度にシンクロした4つの位置制御+4つの回転数制御が必要です。

更に、ステアを作るという事は当然速度が求められますから応答性の要求は相当シビアですし、人外の制御能力を求めて自動運転もセットで求められる場合が多いです。
ぶっちゃけ、人間が操作できるような速度感ならオムニでいいわけですから(思想)

マイコンのキャパと戦いながら、超精密な制御を超高速で行わなければならない、それに加えて自動運転もやる・・・となり、実はステアを作る場合制御班が一番しんどい。

【本題】独ステで戦う意味


さてさて、ここまでステアについて色んなことを書いてきましたが、ここでちょっと俯瞰してみましょう。

高専ロボコンは毎年ルールが変わります。
だから毎年一から開発をやりなおします。
足回りが速けりゃ勝てるって場合だけではありません。

高専ロボコンは地区大会ならぶっちゃけ動けば勝てます(某地区は除く)
そもそも、競技課題を全部こなせる高専がいくつあるでしょうか?
全国大会ですら過半数のロボットがすべての課題を達成できないなんて年もあるぐらいです。地区大会なら言わずもがな。

その高専ロボコンにおいて、競技課題達成までの速度勝負をする必要性は、いったいどれほどあるというのでしょうか。
速度勝負をするにして、そのうち足回りが限界まで高速である必要性がある場面は、いったいどれほど存在するというのでしょうか?
もっと他の場所でタイムを縮めるべきではないのでしょうか?

オムニにして軽量化すれば無残な肉抜きなど不要ですし、回路はぐっと小さくなりますし、制御は他の場所を煮詰めることが出来るようになります。本当にステアで戦う必要がありますか?私はそんな場面が訪れることは極めて稀だと思います。

それでも独ステを作る意味がある


それでもステアを作る意味は、あります。

もっともっと、俯瞰してみましょう。

ステアは複雑です。機構・回路・制御の全分野において複雑です。どれかが欠ければ、どこかがステアの難易度に挫ければその時点でステアはオシャカです。オムニやメカナムに対する唯一と言っていいメリット、速度を失います。そこには重くて壊れやすいだけのアルミとプラスチックの塊が存在するだけです。そうなれば、真っ先にそこを肉抜きすべきです。

でもかっこいい。作りたい。

それはメカメカしさだけが理由ではありません。
機構・回路・制御が複合的に絡み合う装置『独ステ』が機敏に動く姿は、
それを開発したチームの素晴らしさを誇示する、何よりの証です。


少し話は脇に逸れますが、高専生だとスポーツカーが好きっていう人は、少なくないと思います。

時に、最近トヨタ自動車はスポーツカーの開発にお熱ですよね。
WRCにも復帰しましたし、そのためのガチモデルを一から開発したりしてます。そりゃ車好きな人にとってはうれしいことですが、
自動車会社としては、スポーツカーなんか作ったって売り上げにつながりません。スポーツカーなんか作ったって勝てない

なんだかステアと似てる話です。
それでもスポーツカーを作る意味を、かつてトヨタが低迷期だった時にこういう人がいたそうです。
『高い目標に向かって、企画、開発、製造、営業のすべてが越境して協力し、短いサイクルでチーム一丸で作り上げる。そのための経験が我々には必要なのだ。その経験こそがトヨタを生まれ変わらせる』と。
その後現在、トヨタは過去最高益を計上しています。


独ステを作る意味もそこにあると、私は思います。

ロボコンはチーム戦です。超人が一人で作ったロボットが、凡人たちで構成された最高のチームが作ったロボットに勝てたためしは、まだまだありません。
そして、そのチームを育てるのに、機構・回路・制御、ひいてはマネジメントなども含めた全領域が複合的に絡み合う独ステの開発というのは、これ以上に無い教材となりえます。

すんごいステアを作るために、全員で一丸となって一生懸命頑張って、その過程で上手くいかなかった所をどんどん改善していく過程で気づいたことこそ、そのチームを強くします。(特にマネジメント、人やタスクの管理の面で得られる知見が多い)

何度も言いますが、戦略的な目線だけで言えば独ステは足回りがボトルネックになる状況でなければ作るメリットはありません。
だから、失敗した時のことを考えるとNHKロボコン本番でいきなりやるのはリスクが高すぎる。
なので、オフシーズンに開かれるロボコン(春ロボとか、交流ロボコンとか、部内ロボコンとか)で独ステを作ることをお勧めします。

まとめ

高専ロボコンにおいては、複雑・作りにくい・直しにくいの三拍子がそろう割にメリットを享受しにくいのが独ステです。しかも独ステは機構・回路・制御が密に連携しないと作れません。
独ステはそのチームの実力を良くも悪くも見せつけてくれる、いわば試験のようなものです。

僕らも、独ステを作ってみて色んな反省点が出てきました。
そしてその後、独ステを作ったときの反省点をNHKのシーズンでは改善できた箇所は今シーズン良かったところとして、改善できなかったところは今シーズン悪かったところとして、再び反省することになりました。
それはもう、面白いぐらいに一致しています。

だから一回、チームのみんなで独ステを作ってみましょう!
そして反省点をチーム一丸で見つけ、常にどんどん改善していきましょう!

それこそが「次のロボコンでは・・・」という悔しさを払拭する力をくれるでしょうし、高専ロボコンで独ステを作る意味だと、僕は思います。

終わりに

まずは、何やら熱く語っているこの4500文字もの記事を見て頂いた皆様に感謝申し上げます。この記事を見て、「ステア作ってみようかな?」と思って頂けたなら幸いです。正直、この記事で語った熱い部分は気にしなくていいですから、とりあえず独ステを作ってみてください!
やってみると結構できるもんですよ。
それに上手くいった経験があれば別に高専ロボコンで独ステも使えるわけですし、強力な手段を増やすという意味でもいいことずくめです!

結びに、とんでもない苦労をしながらも、必死にステアを作って動かす機会を与えてくれたチームの皆の力が無ければ、この記事を書くことも出来ませんでした。本当にありがとうございました。

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