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人は矛盾だらけの生き物だから

今年も参加できた三島由紀夫追悼の集い
憂国忌。


今年で5回目の参加。


今年で没後54年。来年はなんと生誕100年だ。


三島事件の衝撃や、
晩年の政治的思想や自衛隊体験入隊、
盾の会の活動など過激さが先行して
彼の文士としての功績よりも過激な活動家として
注目されることも然り。


三島が自決した理由は諸説あるが、 
国を憂う憂国の志士として憲法改正を訴え、
経済大国と化した虚無な日本に愛想を尽かし 
心底辟易していたのか。

われわれは戦後の日本が、経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、
国民精神を失い、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、
自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのを見た。
政治は矛盾の糊塗、自己の保身、権力慾、偽善にのみ捧げられ、
国家百年の大計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずに
ただごまかされ、日本人自ら日本の歴史と伝統を瀆してゆくのを、
奥噛みをしながら見ていなければならなかった。

三島由紀夫 檄文より

自身が戦争に行かず戦えなかったコンプレックスから軍隊の真似事をして戦争体験して英霊の御霊
に同化したかったのか。


切腹をして死んでみたいという性癖をそれと分からないように
そうやって自己演出してかっこいい死に結びつけたかっただけなのか。


単純に同性愛者で最後は好きな男に斬られて逝きたかったのか。


あるいは文学者、芸術家、演出家として
自分の人生を完璧に劇化させ
自身の最高の演出で人生に幕を下ろしたかったのか。


はたまた日本を背負う侍精神武士道を持った一人の漢としての矜持か。


俗人的な性癖や嗜好によるものなのか、
醜いまま生きているのが許せず
美しいままで逝きたいという究極の己の美意識がさせたものなのか。


三島文学を読み、彼を研究し、
彼について書いたいろいろな著作を読んだ上でも私は、どれも死の理由としては全て彼が心底望んでいるもので間違いないだろうと思う。



人には色々な面があるし、
これを大事にしていて信念はあるのだけど、

一方でこれが好きとか、本音ではこっちを望んでいるとか、どうしても矛盾する部分はある。


私で言えば、ずっと現役の女の身体でセックスを楽しんでいたいけれど、
老いてできなくなるのが何よりも嫌で、
そうなったら死んだ方がいいのだけど


セックスをし続けていたら高齢になっても健康で
病気知らずを維持できる!
みたいなことを証明したいから長生きしたい、
というような矛盾。


きっと三島にも人知れず言えないことがあったり矛盾しているところは絶対にあっただろう。


戦後の経済至上主義を批判しながらも、
豪邸を建て、家族に恵まれて
様々な舞台や演劇を見たり出演したり、
映画を作ったり、

いろんな店に出かけたり世界を旅したり
戦争を乗り超えた人間が享受できた幸せや豊かさや楽しみも愛おしく、
幸福を感じていたはず。

日本を日本の真姿に戻して、そこで死ぬのだ。
生命尊重のみで、魂は死んでもよいのか。生命以上の価値なくして何の軍隊だ。
今こそわれわれは生命尊重以上の価値の所在を諸君の目に見せてやる。
それは自由でも民主主義でもない。日本だ。
われわれの愛する歴史と伝統の国、日本だ。

三島由紀夫 檄文より


私はどの顔の三島由紀夫も好きだ。幼少期、母親から離され、
祖母に温室的な育てられ方をされたことによる、
母親に甘えられなかったコンプレックスや

好きなものやることを祖母にコントロールされたことや
虚弱体質で女みたいな弱さから抜けられなかった自分に自信がない、
自己肯定感が低い少年時代も。


ボデイビルでの肉体改造や、
武道に勤しむことによる憧れの強い男になった自信や恍惚感を持ち、
男として様々な女性と関われたり交際出来たこと、結婚して父親になれたこと。


同時代に活躍した作家に嫉妬したり批判したりする人間らしい側面もやんちゃで少年らしいところも。


天才すぎて家柄や人生が完璧すぎて
なんかすごいエリート人間だけど、自身でも言っていたように、 

本名の平岡公威という平たく公の唯の、いち人間だったことも含めて
全てが彼の魅力だ。


新潮文庫のオレンジ背表紙の三島由紀夫が
公的な、よそゆきのブランディングされたものだとすれば、

ちくま文庫の三島由紀夫は
SNSで、Xで呟いてるような、
ニコニコ動画で配信しているような身近に感じるゆるさがある。



私は、THE三島文学の新潮文庫も好きだけど


エンタメ性の高いちくま文庫の三島作品に触れてから作家としてより好きになったし、
個人的にお気に入り、推し作品はちくま文庫の方が多い。


なんかこっちの方が書くことを楽しんでいる感じか伝わってきて、


三島由紀夫という才能溢れる作家の、
矛盾さ不完全さが更に面白さを増しているのが
本当に好き。


さて、私は死ぬまでに全作品読めるのだろうか。

11月の、一年がもうすぐ終わる物悲しいこの時期
毎年何かしらの三島作品が読みたくなる。

彼に関してはこれからも色々言う人がいるだろうし、作品や死について議論し続けていくのだろう。


彼が演出した三島由紀夫という舞台はまだまだ幕が降りることはない。









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