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好きになってほしいと、ほしくないのジレンマ

自分が想う相手に、好きになって欲しい、欲しくないの間で揺らぐことはないだろうか。

好きになってくれたら嬉しいんだけど、好きになってもらうと、なにかと弊害が出てくる。

そんな狭間で悶々とするもんだから、中途半端な態度のアピールになってしまう。

例えば自分の好きな相手が既婚者とか。

でも私がしたいのはそういう話じゃない。

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我が家は国際恋愛である。もともと相方にとって日本は遠い存在で、がっつり日本に触れるのは私と付き合うようになってからだった。

付き合ってわりとすぐ、日本に行ってみたいと旅行の計画を立ててくれた。

自分の生まれ育った国や、触れてきた文化に興味を持ってくれるのはありがたいし、さらに好いてくれるのは、嬉しいものである。

そこら中にある自動販売機、コンビニは大層気に入ったようで、遅れない電車にハイテクなトイレ、随分感動したようだ。

食べ物なんかもわりともりもり積極的にトライしてくれ、自分の国では食べない生魚も(オランダも生魚を食べる文化はあるが相方は好んで食べない)、日本に行くとおいしいおいしいと言いながら食べるようになり、数回の日本滞在を経て、日本に住んでみたいとまで言うようになった。

ただ、私は気づいてしまったのだ。

全力でアピールして全部を全部好きになってもらうのが、必ずしも100%ポジティブではないことに。

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海外在住者の私にとって、日本食を摂取できるかということは死活問題である。

白米が食べたい。せんべいが食べたい。ラーメンが食べたい。

だったら日本で暮らせばと言われそうだが、海外にも住み続けたいし、そこで日本の食べ物を食べたいのだから仕方ない。

なので日本に一時帰国すると、復路のスーツケースの中身は半分が買い込んだ日本食になる。

オランダに着いたら、宝の山のスーツケースの中身を、クローゼットの日本食コーナーにしまう。

そして大事に大事に摂取していく。

その中でもスナック系の袋菓子は、嵩が張るのであまりスーツケースに入れることができず貴重である。

ある日、手を伸ばした黄色のカールの袋。久しぶりに手にしたおじさんの笑顔が眩しいその袋には、「風味豊かな和風だし うすあじ」と書いてある。

今までまじまじと注視したことのなかったパッケージを眺めながら、うすあじなんて、味の加減か独自のネーミングかわからないような味の名前だったのか、なんて思いつつ、和風だしというパワーワードが私の食欲をそそった。

一気に一袋食べるのは勿体無いので食べる分だけ小皿に分けて残りは封をする。

何年振りかに食べるカールは、和風だしの風味が絶妙で、二口目には、「あ、これ次の一時帰国も買って帰るやつ」とスタメン入りが確定した。

あまりのおいしさに、というか一人だけ食べるのも気が引けるので相方にも勧める。彼もどうやらこの味が気に入ったようで、でしょー!やっぱり日本のお菓子うまいよね!と嬉しくなった。

***

次の日。

今日もカールを食べようと、お菓子ボックスを開ける。

……ない。カールがない!!!!!!

絶望した。帰ってきたら食べようと楽しみにしていたカールが、ない。

ちょ、カールは?!!!

すかさず相方を問いただす。この家の鍵を持ってるのは私とあなた2人だけなんだから犯人は1人しかいない。すぐに犯人から発せられた供述は、

「おいしかったから食べちゃった」

おいしかったから食べちゃった……
おいしかったから食べちゃった………
おいしかったから食べちゃった…………

エコーと共にぐるぐるしたやつに吸い込まれるアニメーションの中に私はいた。

楽しみにしていたことを伝えなかった私が悪いのか、この事態を想定して隠さなかった私が悪いのか、日本の食べ物を布教した私が悪いのか……

後悔しても、もう遅い。

私の想う人は、私の好きなものも好きなのだ。

これは真摯に受け止めるべきことであり、なんなら喜ぶべきことじゃないか。

でもなんで、なんで素直に喜べないんだ。食い意地だ。私の食い意地が邪魔をしている。ああ、もうこれは三大欲求のうちの一つ、本能なのだからどうしようもない。

深い悲しみの淵にいる私を見て焦った相方は、「今度日本食材屋さんに行って同じお菓子探そう!」と提案してくれて、実際探しに行ったのだけど結局見つからない、という残念な結果になるのであった。

***

この事件を機に、想う人にもあまり好きになって欲しくないものがあるということと、自分の食への強欲ぶりを思い知った。

それ以来、自分の中のヒエラルキーの上位の方にいるお菓子はあまり積極的にアピールしなくなった。自分でも思うがケチだと思う。

おいしいからこのおいしさを知ってもらって一緒に食べたいし、でも、一人で心ゆくまでたらふく食べたい、のジレンマ。もうちょっと食い意地抑え気味の人間であったなら…と悔やまれる。

ああ、このオランダの地で、カールを己の摂取量と満足度を心配せずに食べられる日がくるのだろうか。

それとも、慈愛に満ちた己の欲を顧みず与えられる人間になる日がやってくるのだろうか。

とりあえず、次の帰国はカールをたくさん買い込もう、そう決めている。

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YellowTail
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