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「真珠とダイヤモンド」(桐野夏生/著)を読んで思ったこと(ネタバレあり、そしてちょびっと辛口だよ)
2023年2月5日発行。しばらく積読してたけど、やっと読んだ。読むのが遅い私にしては驚異的速さの3日間読了。読んでる間はすごく熱中した。だけれども、読了しての感想を問われるとちょっと微妙な雰囲気で…。ちなみに私、桐野作品の大ファンなんです。本当に。
❖簡単なあらすじ ❖
バブル前夜の1986年に、とある証券会社に新卒入社した男女3人を中心として進む物語。未曽有の好景気に浮かれる世の中の狂騒と、巨
「地図と拳」/小川哲 ネタバレあり感想文
3月下旬から読み始めて、さっき5/1に読了。およそ1ヶ月と一週間ぐらいかかった。長かったー。でも、日露戦争から第二次世界大戦ぐらいの時期を描いた世界は好きなので、これでも結構真面目に読んだ。で、なによりも、625pの本文を一気読み出来る或いは3日以内で読み切れるような、時間に余裕のある人向けの小説だと思った。会社勤めとかしていたり、私のように読書は基本的にスキマ時間で読もうとするような人間は、ちょ
もっとみる隣の聞き取れないひと(辛口レビュー)
読みたくて買ったのでドンピシャだったんだが、私もこの本でいう「当事者」だ。
ごく幼い頃から他者の言っていることが理解できず、働くようになってからは職場の人との世間話が全然出来なかった。理解できないし、かと言って聞き返すのも悪いと考え、しょうがないから曖昧に笑ってた。冗談を返すとか、会話を楽しむなんて、夢のまた夢だった。
とこう書いてるだけで、そのときの気まずさや泣きたいくらいの恥ずかしさや悔しさ
燕は戻ってこない ちょっと辛口でしかもネタバレありの感想文
相変わらずするするっと読ませる筆力で、読み始めると止まらなくなる中毒性のある物語も健在。とても重いテーマを扱っているのに、そしてそのテーマにこれ以上ない環境で生きる主人公を据えながら、どこか飄々としたユーモラスなやりとりが(かなりブラックユーモアではあるが)物語に、確実にある救いを齎している。怪奇小説や楳図かずおの漫画が、怖いを通り越して思わず笑ってしまう珍妙さをも一緒に運んでくるように。
物
「砂に埋もれる犬」/桐野夏生/ネタバレありの感想文
帯にはこれでもかというほど「牢獄」だの「憎悪」だのと言った煽情的な言葉が躍っている。まるで桐野夏生ここにあり、みたいな。それはいい。桐野夏生先生の著作のなかでも、この本は途方もなく異質であるという意味で、「ここにあり」だと思うからだ。
まぁ、私も帯の煽り文句につられて、買って割とすぐに読み始めた方なんだけど、桐野夏生作品の、もっと酷い場面やラストシーンを見てきた私達(と敢えて言うけど)読者にとっ
ブロマンスの行きつくところ 「インドラネット」桐野夏生 著(ネタバレあり)
桐野夏生先生のファンである。だから、今回の本も期待大で読んだ。
高校の時の親友とその姉妹とが行方不明となり、26歳の主人公・晃(あきら)は、(冷静に考えれば)身元のよく分からない人間から依頼されてカンボジアへ旅立つことになる。そこで、いろんな人と会い、いろんな目に遭い、少しずつ逞しく変わっていく主人公…、の話かと思って読みはじめた。
で、途中まで、なんら切迫感が伝わってこない主人公の行動と人間
スモールワールズ/一穂ミチ
第165回直木賞候補作 という見出しと評判の良さにつられて買った。この方は今も現役の商業BL作家で、最近は文芸雑誌にその軸足を持っていっているのかな? と思われる「小説現代」とかでの露出だったけど、まさか日本推理作家協会賞の候補にまで入っているとは、知らなかったのでびっくりした。で、BL作家として10年のキャリアをもつこの作家が、一体どんな一般文芸作品を書くのだろうと、ちょっと意地悪な好奇心もあっ
もっとみるでぇれぇ、やっちもねぇ/岩井志麻子/角川ホラー文庫
傑作「ぼっけぇ、きょうてぇ」から11年。岩井志麻子先生のホラー小説が帰ってきた!^ ^
といいたい程には岩井先生の作品がスキなワタシ。
超期待して読み進めた。
「ぼっけぇ〜」よりさらに気持ち悪い表紙。短編が表題作含め四遍収録されている。(全て書き下ろし!✨)
「ぼっけぇ〜」とはまた違った怖さ、理不尽さ、思考を揺さぶられる面白さだった!!
表題作もスゲー面白かったけど、私は「カユ・アピアピ」
桐野夏生「日没」ネタバレ無し感想文
初版が今年の9/29だったのもあって、ネタバレに関することは書かない。
小説家の「私」は、突然届いたブンリン(総務省 文化文芸倫理向上委員会)という、知らない組織からの出頭を命じられる。千葉県に近い茨城県らしいそこは「療養所」と呼ばれ、治療を要すると決定づけられた「私」は、そこで作家としての精神の支柱と矜恃を奪われながら、苦しい軟禁生活を送ることになるが…
あらすじはこんな感じ。
瞠目したの
優しいおとな/桐野夏生(ネタバレあり感想)
今、世界を揺るがせているコロナウイルスの猛威。中世のペストを彷彿させる感染力は、今こうしている間にも拡大の一途を辿っていて、今後、世界の経済を狂わせていくだろうことが現実味を帯びている。
そんなとき、この本を読んだ。
福祉システムが破綻した日本を描いた小説だった。近未来だろうか、スラム化した街は、かつての繁華街・シブヤで、地名も道路の名前も実名表記なので、生々しいことこの上ない。
主人公は、15
沈黙法廷/佐々木譲 ネタバレあり感想
平成28年11月刊行、令和元年1月文庫化初版なので、わりと新しい本。
独り暮らしの初老男性が絞殺死体で発見された。捜査線上に浮上した地味な女性を巡り、警視庁赤羽署、埼玉県警大宮署を巻き込み、それぞれの腕きき刑事である、伊室、北島を奔走させる。そして有力な証拠が集まらないまま、ついに彼女は被告人とされ、裁判の場へ引き出される。
目次は次の三章からなる。
1章 捜査
2章 逮捕
3章 公判
閉鎖病棟/帚木蓬生(ネタバレあり感想文)
精神病院の閉鎖病棟で暮らす人々の群像劇。
私もついこの間、精神科閉鎖病棟から退院してきたばかりなので、興味深く手に取った。
構成が、最初の三章を使い患者の入院前の様子を描き、後の大半を使って入院患たちの日常を描く。そして後半だいぶたってから事件が起こり、物語は急転直下、ラストシーンに向かう。
何度も何度も言っているのでアレなんですが、ただ数字で場面を変えられても、まるで暗闇の中を歩かされている
死刑囚メグミ/石井光太/ネタバレあり感想文
2009年11月、マレーシア・クアラルンプール国際空港で、日本人女性・小川恵が、覚醒剤密輸の現行犯で逮捕された。
2年後、恵はマレーシアの高等裁判所により死刑判決を受ける。
東亜新聞記者の東木幸介は、恩師からの頼みにより、小学生時代の同級生であった彼女に取材し、事件の真相をさぐるべくマレーシアに飛ぶ。
本書は、幸介の取材が始まった2012年と、恵の生い立ちと生きてきた軌跡が、順番に語られる形式