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(2024/06/20/木)研磨刀剣 小林市[旧野尻町]大萩地下式横穴墓群出土
本日の画像
研磨刀剣
小林市[旧野尻町]大萩地下式横穴墓群出土
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本日の画像は、先日(2024/06/16/日)、宮崎県立西都原考古学博物館に行った時に、スマホで撮影した写真です。
錆びた鉄製品や、土器、人骨が多く展示されている空間の中で……
この鈍く銀色に輝く、3振の古墳時代の刀剣の存在が以前から気になっていました…。
しかしこれまで、こちらの遺物が一体どう言う物なのか、詳しく観察したり、調べたりした事が無かったので、今回、調査報告書を読み、この展示遺物が一体何者なのか、じっくり観察したり、調べてみる事にしました…。
展示品に添えられたラベル
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研磨刀剣
小林市[旧野尻町]大萩地下式横穴墓群出土
古墳時代の地下式横穴墓から出土する鉄製品は、錆に覆われているが、錆びの中の鉄の残存状態が良い物が多い。
これらの研磨刀剣は、古墳時代中期の鉄製刀剣の実物を日本刀の研ぎ師に依頼して研ぎ上げたものである。
1500年以上の時を超え、今でも怪しい光を放っている。
こちらのラベルに、この研磨刀剣について大まかな情報が記載されていました…。
この文章に書かれた内容からヒントを得て、この後、色々と調べる事が出来たので、大変助かりました…。
ケースを全体を色々な角度から撮影した写真。
先ずは、ケース全体の様子を、大まかに観察する事にしました……
3振の刀剣は、柄(手で握る所)を左側、切先(刃物の先端)を右側にして、斜め45度、右肩上りに整然と並べられて展示されており、見る位置を変えるたびに照明の光を反射し、鈍く輝いていました…。
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刀身とうしんの様子が良く観察できます…。
輝いてはいますが、鏡面仕上の様な光り方では無く、
落ち着いた感じの輝きを放っています。
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切先の正面は右奥の方に有る為、切先の断面を、
こちらから観察できませんでした…。
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柄の方から刀身の方を観察すると…
刀剣の断面を観察する事が出来ます…。
今回、参考にさせて頂いた調査報告書
全国遺跡報告総覧(奈良文化財研究所)様より
宮崎県文化財調査報告書
ダウンロード( 12.1 MB ) モバイル版( 8.8 MB )
書名・宮崎県文化財調査報告書
編集機関・宮崎県教育庁文化課
発行機関・宮崎県教育委員会
発行年月日・1984年3月31日
参考にさせて頂いた部分
V.大萩B-13号墓出土の研磨刀剣について
P46~48 (PDF54~56)
上記の資料『宮崎県文化財調査報告書(1984年3月31日発行)』には、この3振の刀剣についてかなり詳しく書かれているのでおススメです。
調査報告書に記載された刀剣に関する専門用語について、詳しく紹介されたオススメのHP『刀剣ワールド』
『宮崎県文化財調査報告書』の研磨刀剣に関する部分を読む際、多くの専門用語が出て来た為、その都度、その専門用語を調べていたら、何度も下記のHPがヒットしました…。
こちらのHPは、画像が多く、動画や、読み易く解り易い文章で解説されているので、今回、刀剣に関する用語を調べる際、大変お世話になりました。
又、こちらのサイトから、これら古墳時代の3降の刀剣は、『上古刀』と呼ばれている事がわかりました…
刀剣本体を個別に観察した写真
次は一振づつ、しっかりと観察した写真を紹介致します…。
展示位置の都合上、切先の方から観察出来なかったので、今回は、柄と刀身部分の拡大写真を、調査報告書に記載されている順番にご紹介します…。
※博物館で並んでいる順番は、調査報告書の内容から推察するに…
作る技術と材料が優れている順に、下から上へ並べられていると思われます。
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1.切刃造直刀
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切刃造直刀
全長(現存長)(63.9㎝)、刀長(55,4㎝)鋒を欠ぐ。
元幅3.6㎝、元重ね0.6㎝、茎長(7.7㎝)、茎の元幅2.9㎝、茎の元重ね(0.7㎝)
中略
3振の研磨刀剣の中では地鉄も精良で、作柄も最良である。
軟かい感じの地鉄に杢目肌(注1)を、混える地肌には、後世の粟田口系(注2)を街彿させる部分もみえる。
1)杢目肌
『刀剣ワールド』様より引用致します。
杢目肌(もくめはだ)
樹木の年輪のような複雑な模様。多くは板目肌と杢目肌の複合で、「小杢目肌」は山城伝の粟田口派(あわたぐちは)の刀工や、相州伝開祖の「新藤五国光」(しんとうごくにみつ)など、最高級の鉄を使用した少数の刀工のみに見られます。杢目肌には、映りが出やすく現在の岡山県東部である備前の国周辺から発生した備前伝にも多いです。
2)粟田口系(派)
『刀剣ワールド』様より引用致します。
粟田口派
「粟田口派」(あわたぐちは)と言えば、古くから日本刀の制作が行なわれていた山城国(やましろのくに:現在の京都府)で、「来派」(らいは)一門と並んで2大流派として名高い刀匠の一派です。鎌倉時代初期から中期、京都・東山(ひがしやま)の粟田口という土地で、地鉄(じがね)が全時代・全流派の中で最も澄んで美しいと絶賛され、名声を得ました。
2.平造刀
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平造刀
平造、角棟、片区の直刀である。
現在長は(76.0㎝)、刃長(68㎝)反りなし、元幅3.2㎝、先幅近く(23㎝)、元重ね0.6 ㎝を測る。
茎長は(8㎝)、茎の元幅3.0 ㎝である。
中略
3振の研磨刀の中ではもっとも粗造りの感じの直刀であるが、研ぎ当りは軟かで、大和伝えであり、且つ、波平そのものを感じさせる地肌をみせている。
3.剣
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3.剣
現存長(699㎝)、刃長は(64㎝)、元幅近く4.4㎝、先幅近く3.5㎝、鏑重ねは0.5~ 0.6㎝、茎長(5㎝)を計測する。
中略
部分的に遺る柄木には、柄元部分に円形の痕跡がみえることから多分に直弧文(注1)の彫刻のあったことが推察される。
中略
直刀と同様焼刃なく丸銀ながら鏑筋がよく通り、剣としては極めて成形の良好な作品といえる。
1)直弧紋
『コトバンク』様より引用します。
直弧文(読み)チョッコモン
4、5世紀の、古墳の石室の壁や石棺・埴輪はにわ・刀などにみられる呪術的文様。直線と弧線とを複雑に組み合わせて構成される。
宮崎県文化財調査報告書の中で、
個人的に好きな部分と感想。
全国遺跡報告総覧(奈良文化財研究所)様より
宮崎県文化財調査報告書
ダウンロード( 12.1 MB ) モバイル版( 8.8 MB )
書名・宮崎県文化財調査報告書
編集機関・宮崎県教育庁文化課
発行機関・宮崎県教育委員会
参考にさせて頂いた部分
V.大萩B-13号墓出土の研磨刀剣について
P45 (PDF53)
この調査報告書の中で、この3振の刀剣を磨いた刀剣研師 星加哲見氏のコメントが、個人的には好きだったので、最後に紹介したいと思います…。
中略
研磨にあたって、出土刀剣の意外な出来に感嘆された星加氏は、その研磨所感の中で、
「…実は古代刀であるので大した事はないだろうと思っていたが、その地鉄のすばらしさに驚嘆させられ……地鉄の表面にみる地沸は、まるで銀梨子を見る如く、すかし見る映りは……朝霧が山の谷間にたちこめるような幽玄さに…すっかり魅了させられてしまった…」
と、述べられている。
上記の上記の文章は、古墳時代の刀工の技術が現代でも通用する程優れていた事を示す様な文章で、興味深い一文です。
特に、切刃造直刀については、栗田口系を彷彿とさせる部分がある…と解説されている部分が有りますが……
調査報告書の中で、※栗田口系作刀の中に、宮崎県産の鉄を使った事が刻まれた刀が有る…と言う記事が有る事から……
古墳時代(250 – 538年)から約1000年後の室町時代(1336 – 1573年)、京都東山粟田口で刀を作っていた人々の中に、宮崎で出土した古代刀(上古刀)製作に使われていた作刀技術に似た技術と、宮崎県産の鉄を使って刀を作っていた集団が居たのかもしれない…と考えると大変興味深いです…
と、言うか…… 世の中、何が、何時、何処で、どう繋がって、それがどう影響して、何が起こるのか……わらないものだな~……
……と、この3振の古代刀を調べてみて、しみじみと感じました…。
※粟田口作刀の中で、宮崎県産の鉄を使っている事が記載されている部分。
1.切刃造直刀
中略
……後世の粟田口系を街彿させる部分もみえる。
粟田口系作刀の中に、えびの市真幸吉田産の岩鉄を使用したとされ「日州真幸住――」の銘を切るものがあることは注目される。
今回、この『研磨刀剣』について調べることで、全く知らなかった、刀剣に関する知識と、文化的背景の一部を知る事が出来ました。
今後も、色々と気になる遺物や場所などを調べ、そこから色々ヒントやネタを頂いて、これからの創作活動に生かして行きたいと思います。
2024/06/19/?~? ~ 2024/06/20/?~1239
最近はただの日記になっていますが、自分自身と作りたい作品について更に突き詰めて行きたいので、この作業を暫く続けて行きたいと思います。
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