人は何故不貞行為を犯すのか 古典文学を交えて考える
こんにちは、るしあんです。
今回は小説や映画、ゲームなどの紹介ではなく、一つの議題について私なりに考えていこうと思います。
その議題と言うのがこの記事のタイトルにもあるように「浮気や不倫といった不貞行為」についてです。何故今回は急にこんな話題についてお話ししようかと思ったかというと先日友人達と話をした時にそれに関した話題になったからです。その際に、彼女が出来てしばらく経つ友人が「浮気をする時の気持ちや経緯がいまいち理解出来ない(意訳)」と言った事が事の発端です。
その場では当然明確な答えは出ず(そんなものが存在し、既に提示されているのであればこの世に浮気などと言う不貞が今も蔓延る筈が無いのだが)うやむやに終わりました。しかし、その話題が私の中で何となくすっきりせず今に至るまで頭の端でなんとなく考えてしまっていたのでこの場で少し語ってみようと思います。
浮気とは
まず浮気についてお話しする前に一般的に浮気とはどういう意味なのでしょうか?
精選版 日本国語大辞典によると浮気とは
① うわついて落ち着きのない性質や状態。心がうかれて思慮に欠けている状態。うわっ調子。
② 陽気で、はでな性質や状態。ぱっと人目につくさま。
③ 気まぐれに異性から異性へと心を移すこと。決まった妻や夫、婚約者などがいながら、他の異性と恋愛関係を持つこと。また、そのさま。好色。多情。
とされています。
今回お話しする上記の内の③の意味の浮気についてです。
文集砲等と揶揄され有名人の不倫や浮気行為が報道され、塵の一つも残さぬ勢いで批判し、次の報道があれば餌を投げ入れられた魚群の如くそれに食いつくといった光景が日常になった昨今、やはり抱いてしまう疑問があります。
「不倫や浮気をした有名人が社会的に批判され、今後のキャリアすら棒に振りかねないと彼らを見て理解していながらそのような不貞行為を働いてしまうのか?」
この疑問は「理性では分かっていても、本能を抑えられなかった」等と言うもっともらしい言葉で答えた気にもなれますが、この回答では事実を言い訳がましく述べただけで全くもって根本的な理解は出来ていないと感じます。その証拠として何故本能が理性を上回ったのかといった疑問や、そもそも人間性を理性と本能の二元論としている時点で誤り等といった批判がすぐに思い浮かびます。
「カリギュラ効果」
そもそも浮気とは誰かと交際している、ないし結婚している人物がその相手以外の人と色恋沙汰になってしまう事です。つまり浮気とは意中の相手と特別な関係になれている、それに伴い幸福感と充足感、一定の社会的立場を得られている状態の人物の犯す行為と言う事です。
そのように一見幸せそうな人達が自らそれ手放す原因にもなりかねない不貞行為に走ってしまう心理に目を向けると、まず考えられるのが「カリギュラ効果」です。カリギュラ効果とは何者かによって行動を制限され、それによってストレスを感じてしまいそれを解消するために禁止された事を行ってしまうというものです。
しかし、今回に関しては原因の全てがこのカリギュラ効果で説明は出来ないと思います。何故ならカリギュラ効果は自身が感じているストレスを解消するために、反動的に行ってしまう行為なので、交際関係や夫婦関係がただただ互いを縛る楔になってしまいます。もしそうなのであるとするならば人々は結婚やお付き合いにここまで憧れは抱かないでしょう。よってカリギュラ効果は確実に起因しているとは言えあくまで要因の一つに過ぎないと考えられます。
「隣の芝は青い」
次に考えられるものは「隣の芝は青く」見える心理状態です。「隣の芝は青い」とはことわざで、何でも他人のものはよく見えるといった意味です。今回の場合は他人のものというよりは自分の今の相手以外の人を指します。この隣の芝は青く見える感覚は「自分も自転車を持っているが○○君のもののほうがかっこよく見える」や「自分も似たようなヘアバンドを持っているが✕✕ちゃんのヘアバンドのほうが可愛く見える」といった様に誰しもが感じた事のあるものであると思います。それ程までに人にとって身近な感情であるならば恋愛の中でもその心理状況に陥ったとしてもおかしくはないのではないでしょう。
『アーサー王伝説』を元に考える
一昔前とある人が「不倫は文化」等という言葉を残しましたが、世界的に見ればその人よりもずっと前から不倫等の不貞行為は文化として存在し、文学作品の中でもそのような描写が多々見られます。今回はそのような文学作品の中でも『アーサー王伝説』に名を連ねる作品群を例として改めで不貞行為について考えていきます。今回は『アーサー王伝説』に登場し、アーサー王の妻であったグィネヴィアについてここまでで述べた不貞行為の要因になると思われる二つ心理状態を元に見ていきたいと思います。
最初にグィネヴィアと彼女の不貞行為について解説するとグィネヴィアはレオデグランス王の娘であり、アーサーとは若くして婚約関係にありました。馴れ初めとしてはグィネヴィアの美しさに目を奪われたアーサーがマーリンの反対を押しのけて婚約したような形でしたが、グィネヴィアもアーサーの事は愛していました。しかし、グィネヴィアはその後円卓の騎士の中で最も武勇に優れ、同時に気品すら備えていたランスロットに一目惚れしアーサー王の目を盗み彼との逢瀬を重ねてしまうのでした。結果としてその関係がアーサー王に知れ、これが原因で忠臣であったランスロットはアーサー王と袂を分かち、敵対する事となりました。
彼女の行為は現代風に例えるとするのなら社内不倫のようなものでしょうか。これならその周囲の雰囲気が最悪になるのは容易に想像がつきますね(実際はそれどころではない)。しかし、この長らく大地を地に染めてきたブリテンを統一した王の妃という一見これ以上の幸せはないようにも思える彼女の不貞行為の重大さ(誰がやったものであれそれは非常に悪いもので本来その罪や責任、代償の重さを比較するものでは無いのだが)は現代の一般人は勿論、有名人のものすらも遥かに凌駕するものであったと想像できます。
そんなあまりにも失うものが多いグィネヴィアですら、一目惚れ等と言う一時の感情の高鳴りに身を任せ不貞を働いてしまうのです。この背景にはアーサー王の事は愛していたがあくまで向こうからのアタックを受けて結婚しただけで心の底から彼を愛していたわけではないという要因も考えられるが、それと同時に上記の二つの要因に当てはめる事が出来ると考えられます。
カリギュラ効果については言わずもがなですが、アーサー王との関係の熱が冷めていれば冷めている程その効果は大きなものとなるでしょう。アーサー王との婚約が彼との愛の証明ではなく、政治的思惑と感じるようになってしまう事で夫婦ではなく王とその妃としての関係性が表面化してしまい、婚姻関係が縛りと化してしまっていたのかもしれません。
また気品も武勇も兼ね備えた騎士であるランスロットはそれこそ最高に素晴らしい異性、まるで「隣の芝」のように思えたのかもしれません。
※ここからは多少私の妄想が含まれます。
夫であるアーサーはブリテンを統一した偉大な王であるのは自明の理だ。しかしそれはあくまで王としての偉大さであって妻として、夫としての彼は来る日も来る日も戦争の日々で決していい夫とは言えないものであった。そんな彼に″王妃″グィネヴィアは無意識の内に不満を募らせていく。日々の中で彼と共に円卓に座する彼の騎士ランスロットをふと目にする。名だたる騎士がいる円卓の騎士の中でも最強とまで言われる武勇、そしてそれと裏腹に彼の所作から溢れる気品。戦いに身を置きながら、その振る舞いから醸し出される上品さは、彼女の夫からはついぞ感じなくなった魅力を感じさせた。そして″女″グィネヴィアはランスロットに近づくのだった…。
これはあくまで私の妄想で保管した幕間です。しかし、偉大な王の妃となり一見これ以上ない幸せを得られたとも思えるグィネヴィアですらランスロットという一人の男性の前に多くの責任を負った″王妃″としての身分を捨てて、″一人の女″となってしまった背景にはやはり先述の要因が考えられると思います。縛りから解き放たれる事によるストレスの解消と同時に自分の相手より遥かに魅力的に感じる相手との逢瀬を重ねる幸福感。この二つを同時に得る事は自分が常々抱える責任と罪悪感を一瞬脳裏から忘却させるには十分の威力があるのではないでしょうか。
最後に
今回は浮気や不倫等の不貞行為が何故悪であると分かっていながら、人々はそれを繰り返してしまうのかについて考えてみました。私は何も不貞を働く口実を考えるためではなく、可能な限り自分の中でそれらのメカニズムを紐解きたいと思ったので今回のこのテーマで記事を書こうと考えました。きっと誰しもが意識せずとも不貞行為の被害者になる、もしくは加害者になる可能性を孕んでいる世の中、出来る限り正しく恐れて正しく防止していきたいですね。
また、何故今回古典文学から例として『アーサー王伝説』のグィネヴィアを挙げたかというと、彼女の不倫が結果的にブリテンの崩壊という悲劇にまで繋がってしまったからです。時に不貞を賛美するとは言わないまでも不倫や浮気の有する背徳的で魅力的な面を前面に出すような作品等もこの世にはありますが、私はどこまで行っても不貞は悪であり糾弾されるべき行いであると考えています。だからこそ不倫をきっかけに夫を失い、自分は暗躍の道具にされ、不倫相手は失意の中で一人死にゆく、そして彼女と彼の夫の国は滅びの道を歩むと言う思い描きうる最悪の最後を迎えるこの作品を選びました。私も『アーサー王伝説』に含まれる全作品を読んだわけではないですが、気になった方は是非手に取ってみてください。
それでは次の機会にお会いしましょう
るしあん
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