カカポのブローチ
あまりモノを落とすことは少ないのだけれど、落としたときは本当に血眼になって探す。
もともと雑貨屋さんで働くくらい、モノが好きだ。購入するモノは全てお気に入り。これめっちゃかわいい!と思った記念日の品として購入したんだから、お気に入りを落とすということはあの日の思い出を欠落させてしまったような気分になる。
血眼のおかげでだいたいのモノはただいまー、と帰宅するのだが(半分くらい使ったオペラのトープカラーのリップだけ出てこんかった)、その中でも最長1ヶ月越でご帰宅した子がいる。
電車から降りて帰宅途中、トートバッグにつけていた刺繍ブローチがないことに気づいた。カカポのブローチである。絶滅危惧種、重すぎて飛べない人懐こい黄緑色の鳥。たくさんいる中から、出展者さんに『美人さんを選びましたねー』と言われたその子。そんな思い出がくるくると頭の中をよぎりながら、血の気が失せた。
その日は夜遅かったので、次の日から立ち寄ったカフェ、乗った電車に忘れ物がなかったか連絡をしたけれど見つからず、心臓がぎゅっとなる日々を過ごしていた。
作者さんに落としたと謝って、もう一度作ってもらえるかお願いしようと何日も何日も考えた。
落としてから1ヶ月も経ったある日、駅までの道。普段なら音楽を聞いたりボーっとしながら前を向いて歩いていたのだが、その日はなんとなく下を向いて歩いていた、夏の暑さがたるかったのかもしれない。夏草も生えてきた、みみずが干からびている、鳥の顔がある。……えっ!鳥!?……カカポじゃん!!あの日の黄緑色のビビットな鮮やかさはないけれど、あの美人さんなカカポが横断歩道のひび割れた地面に埋まっていた。
ゲリラ豪雨でビチャビチャになった日もあろう、車に上を走られた日もあろう、でもそこにカカポはいた。
車が来ていないことを確認して、私は口元をほころばせながら横断歩道に埋まっていたカカポを手に取る。ブローチの針が地面に突き刺さってなかなかとれなかったが、無事に戻ってきた。なでなで。
ブローチの金具は錆びてしまったが、刺繍のカカポは汚れていたけど美人だった。刺繍作家さんすごい……と思いながらハンカチにくるんで家に連れて帰ることができた。
落としたのはしょうがない、連れて歩いてあげてたのだから。いきものモチーフだとね、あぁ脱走しちゃったって思うんだよ。
そんな日。