なぜアンテナから電波が放射するのか(仮説編)
はじめに
私がアンテナ設計を始めたときに、アンテナを設計してみて教科書通りに設計することはできましたが、アンテナから電波が放射するメカニズムがわからず、応用が利きませんでした。経験でカバーしたりもしましたが、このままでは面白くないなと思って少しまじめに考察したことがあります。今回は備忘録も兼ねてその考察の結果をメモします。
まず結論から
いきなり結論から言うと、そこに電流があれば電波が放射されるのは普通なことです。ベクトルポテンシャル$${\bm{A}}$$やスカラーポテンシャル$${\psi}$$が従う式はLorenzゲージのもとで以下のようにソース付きの波動方程式で表されます。これは、電流/電荷があればベクトルポテンシャル/スカラーポテンシャルが生み出され、ひとたびポテンシャルができてしまえば、電流/電荷のないところにも波として伝搬することを意味する式になります。(電流源がある場合、ビオサバールの法則によってベクトルポテンシャルが生み出され、電流源がなくとも$${\bm{j}=0}$$の時には波動方程式となるのでそのポテンシャルが波として伝搬する。電荷がある場合はガウスの法則によってスカラーポテンシャルが生み出されるが、波動方程式として伝搬するところは一緒。)
$$
\Box \bm{A} = \left[ \Delta -\dfrac{1}{c^ 2}\dfrac{\partial^ 2}{\partial t^ 2} \right] \bm{A} = -\mu_0 \bm{j} \\
\Box \psi = \left[ \Delta -\dfrac{1}{c^ 2}\dfrac{\partial^ 2}{\partial t^ 2} \right] \psi = - \rho / \varepsilon_0
$$
これはつまり、電流があれば放射するのが当然で、むしろアンテナ以外の回路ではどうして電磁波が放射されないのかを考えるべきだということを示唆しています。
なぜ通常の回路では電磁波が放射されないのか
では、なぜ通常の回路では電磁波が放射されないのか。これがより本質的な問いになるわけです。
以下は仮説として、回路の場合リターン電流があるからです。リターン電流は平衡回路の場合は戻り線を流れる電流として、非平衡回路の場合はGND電流として観測されます。このリターン電流は配線を流れる電流と同じ大きさで逆向きの電流(正確に言うと逆相の電流)になります。これにより、回路上の電流とそのリターン電流を遠くから見るとトータルで流れている電流は0、つまり、遠くから見るとそこに電流が流れていないように見えるわけです。遠くから見るとどこにも電流が流れているように見えないのですから、電磁波が観測点に届くはずがなく、電磁波が観測点に届かないということは、無限遠まで伝わるはずの電磁波がそもそも出ていないということになります(電磁界が存在しないとは言っていない)。この辺りは電気双極子の場合のアナロジーで考えて、点電荷では$${1/r}$$で減衰する静電界が電気双極子では遮蔽の効果によって$${1/r^3}$$と急速に減衰するようになることと同じことが起こっているのではないかという考えです。
本当にそうなのか?
この仮説、一見もっともらしいですが、本当にそうなのかちゃんと考察していません。そこで、次回から(元)理論系物理屋らしくちゃんと式をこねくり回してどうして放射しないのかを検討していくことにしたいとおもいます。
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