甘くて苦いサングリア

わたしはサングリアが大好きだ。おいしい。
しかし苦い思い出もあるので、積極的には飲まなくなった。わたし以外の人間にとっては笑い話でしかないと思うその理由をここに記す。

わたしは二日酔いになったことがなかった。たちまち酔って、気持ちよく寝る。そして何事もなく目覚める。飲みすぎることもないので、悪酔いもしない。気分が悪くなったことも吐いたこともなかった。あの日までは。

ある日、夫の上司と同僚の方々と共に食事をする機会に恵まれた。夫は時に、わたしを伴ってこうした付き合いの場に出かけてくれる。仕事のことはさっぱりわからないが、日ごろお世話になっている方々に会えるのはうれしかった。営業職に就き、精力的に活躍されている会社の方々は見るからにエネルギッシュで、わたしにも笑顔で接してくださり、おいしいお酒と食事をもりもりと楽しんでいらした。

そこでわたしはサングリアを注文した。お店の親方自らが作る、フルーツたっぷりの仕上がりだ。果物はあまり好きではないが、こうして何かに混ぜられていれば楽しめる。予想以上においしくて、お店自慢の料理と共にたくさん飲んだ。

突如、今まで味わったことのない感覚がわたしを襲った。4歳のころ、おたふく風邪を発症したときの思い出が結びついた。あの時も帰りの会の最中、

(なんか気持ち悪い。なんかおなかが変な感じがする。あっ)

と考えた直後滝のように吐いた。

幸い大人になったわたしは、あの時よりは早めに危機を察知し、お手洗いに駆け込むことができた。

個室に入った途端、赤黒い液体が逆流してきた。

ああこれが。酔って吐くということなのだ。吐いてしまった。親方があんなに笑顔で出してくれたおいしいサングリアがわたしを拒絶して出ていく。いや拒絶しているのはわたしなのか。止まらない。なんでこんな時に、こんな日に、このお酒で。人生で初めて酔って吐いたショックで悲しくて、気づくとわんわん泣きながら吐いていた。

涙でべしょべしょになりながらお手洗いから出た。「うわああああああああん」という妖怪と幼児を合わせたような泣き声が漏れた。ショックすぎて、涙を拭こうとか何かを取り繕おうとかそういう気持ちはまったくなくなってしまっていた。夫が駆け寄り、涙を拭いてくれる。その後ろから駆け寄ってくる人々がいた。

なんと食事をご一緒していた上司と同僚の方々だった。おいしいお酒とお料理で完全に「仕上がっていた」彼らは、泣きながら出てきたわたしを

「イェーイ! 大丈夫大丈夫! ハイ!」

とハイタッチのポーズで出迎えてくれた。みんなすてきな笑顔だ。

「ハイ! タッチして! タッチ!」

彼らがわたしのタッチを待ち受けている。
わたしは泣きながら陽気な酔っ払いたちとハイタッチした。涙は止まらなかった。いやだったわけではない。初めて飲んで気分を悪くしたショックから立ち直れないまま、楽しい飲み会の空気に自動で合わせていた。

わたしは泣いたままだった。彼らはにこにこしていた。今の雰囲気を楽しむことを一番にしてくださっていたのだ。わたしの粗相にいやな顔をされなかったのは本当に感謝している。すてきな方々だ。

わたしはそのままタクシーで連れ帰られ、夫に布団に寝かされた。

「もういいから、大丈夫だから寝なさい。寝なさい」

彼はそう言ったように記憶している。とにかく泣き止めなかったので泣きながら寝た。

あれ以降飲んで吐くことは一度もない。サングリアは今も大好きだ。
けれど飲むのは躊躇する。サングリアに罪はないけれど。

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Yuka S. (or rurune)
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