【短編】虚栄の宴
金曜日の夜、居酒屋の一角は彼のライブの打ち上げで賑わっていた。自称ミュージシャンの彼だが、正直言ってその曲も演奏も凡庸そのものだ。本気度は全く伝わってこない。それでも内輪の客たちは忖度し、拍手を惜しまず、彼を盛り上げる。
「次は新曲です!」
と彼が叫ぶ。観客は一応の歓声をあげるが、誰も心から感動しているわけではない。むしろ、彼の365日ペラペラの配信内容を知っているからこそ、その虚栄心が透けて見える。歌詞の内容も何も言ったことにならない、ブログに書けばよい内容だ。
ライブが終わり、飲み会が始まる。彼はビールを片手に後輩たちに偉そうに語りかける。
「お前ら、夢を持てよ。俺のようにな!」
夢はとっくに叶わないと皆が知っているのに、彼はまだ形だけでも追い続けているつもりらしい。彼がプライドが高いことは周囲に知れている。不安で仕方ないのだろう。
彼は舞台の上でヒーローになっているつもりだろうか。
後輩の一人は心の中で叫んだ。
「早くやめろよ。」
しかし、口には出せない。周りの目もあり、ただ頷いて話を聞くしかなかった。
結局、ライブも飲み会も彼の自己満足の舞台でしかなかった。彼は承認欲求を満たすために、年下たちを利用し続ける。その空虚な姿に、後輩達はますます嫌悪感を抱くのだった。