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【異世界TL】「共に笑い合えるその日まで ―孤独な騎士は最愛を知る―」感想

 この小説に出会わなければ、自分にここまでの異世界TLブーム到来はありませんでした。そうなったらもちろん、noteに感想を綴ろうなどという、バカなこの思いつきもなかったことでしょう。
 異世界TLを読むのは初めてではなかったのですが、この物語の雰囲気や、騒がしくないところがすっかり好きなってしまいまして。もっと読まれてほしいなぁ、って思いました。

書籍の概要

作者:碧 貴子 先生
イラスト:芦原 モカ 先生(本文中挿絵あり)
 一迅社より紙の書籍が出ている他、各配信サイトで電子版が読めます。連載版は見当たらず。価格はだいたい1,300~1,430円くらい(配信がときどき期間限定で値下げしていたりする)。通常価格だと、物理の文庫が一番安くて税抜き700円。
 文庫は368ページ。なかなか厚いです。
 ちなみに私は、rentaで配信を買った後、手元に置いて、読みたいときに読めるようにしたいと思って、文庫本も買っちゃいました。ステキな口絵と帯がついてて嬉しかったです!

読んだキッカケ

 入浴のときにタブレットで漫画を読むのが日課なのですが、新しい何かないかなぁ、とrentaを徘徊しているときにたまたま目に入りました。
 まず思ったのは、タイトルがかなり潔いな、ということ。「絶倫騎士さまが」とか「没落令嬢が」「溺愛」「激甘」「転生したら」とか、異世界TLが乱発している単語を使わず、タイトルが文章になっている訳でもなく、ひさしぶりにタイトルらしいタイトルの本だなと思って、興味を引かれました。
 あと、表紙のイラストもかなり潔くて、主人公カップルの聖騎士ウォルドがノスリちゃんを抱えて少し持ち上げている感じの絵。ウォルド、官給品の鎧姿でカッコよ…!! 彼の金髪碧眼っていうのは、キャンディキャンディの丘の上の王子さまから始まりw 今では使い古された感じの設定かも知れないけど、私は大大大好きです。
 ふたりが笑顔で抱き合う様子がタイトル通りなんだこれが……ほんとにキュンです。こちらについてもお布団に横たえるとかいう構図じゃないことが新鮮で、この清潔なイメージに惹かれて読み始めました。


以下、ネタバレを含みます


あらすじ -以下、ネタバレを含みます-

 聖騎士ウォルドは妖魔退治の任務の帰りに気まぐれに立ち寄った田舎の村で、子どもの頃の自分によく似た男の子と出会う。姿だけではなく、持つ魔力の質も酷似していることに気づき、心当たりのある相手を思い出す。
 ウォルドが想像した通り、ロイドというその子どもの母親はノスリといい、5年前にウォルドが一度だけ請われて無感情に関係を持った女だった。
 彼女は一度きりのそのときに彼と約束したことを守り、二度と彼に会わない固い決意と覚悟のもと、ロイドをひとりで育てていた。
 ロイドが実の子だと知り、また、ノスリのロイドに注ぐ愛情の深さに思うところあって一緒に暮らしたいと思い始めるウォルドだったが――

 

好きポイント

  • ロイドくんかわいすぎ
     初めてウォルドに会ったときの態度や、物語が進んで懐いていく様子がたまらなくかわいいのです。ノスリのことを思って、ウォルドが自分の父親だとわかった後も、呼んでいいと言われるまで彼を「おじさん」と呼び続けるなど、明るさの中にいじらしさがあって、ほんとに良い子! 彼を見ているとノスリちゃんがどれだけ大切に育ててきたかわかる…。

  • ノスリちゃんの感情の推移が現実的
     
    いきなり現れた、かつての憧れの騎士さまに冷たくしちゃう彼女の態度が、すごくリアルで。最終的には絆されるのですが、それまでの葛藤とか、純粋なウォルドの好意をまったく信じないどころか、何でいきなり一緒に暮らしたがるのか…と多少腹立てるところは、相手の言いなりに許してしまう展開よりも真実味があって、物語の信憑性みたいなのを増す効果があったと思います。
     ウォルドに結婚を申し込まれた後に煮え切らずにいるのも、私は好ましかったなぁ。食堂のおかみさんと同じ気持ちになりながら読んでました。

  • ノスリちゃんの言葉遣いが変わらない
     ノスリちゃんが、というか、ウォルドが、なのかも知れませんが、身体の関係ができたら急に、男のほうが「俺のことは呼び捨ててくれ」的なことを言い出して、女のほうも急にベタベタし始める展開って、よくある。こちらのふたりはそんなことにならないのが好感が持てるのです。
     …って、まあ、それは好みの問題ですが、私そういうの見ると白けちゃうんですよね。その点ノスリちゃんは結婚してからもずーっと「ウォルド様」と呼び丁寧な言葉で話し、ウォルドもそれを改めさせない。すごくいい。

  • 双方向から進む物語
     
    これは、キャラクター云々は関係なくて、物語を書くスキルみたいなものについてですが、このお話は、ウォルド目線とノスリちゃん目線の文章が交互に折り重ねられてストーリーが進んでいきます。
     私が単純にこういう進み方をする小説が好き。というのもあるんですが、母親として過ごしてきたひとと、自分に子どもがいると知らずに生きてきたひとの、交わることのない理解みたいなのが、ふたりが結婚しても尚どこかに潜んでいる気がして、TLで扱うようなもの以外の機微が感じられます。

  • 静かなところ
     このお話、実に静かなんです。音がしないという意味ではなくて。
     ウォルドはチート級の魔力を持つ次代の英雄と目される聖騎士であり、途中にドラゴンを狩ってくる場面もあるんですが、ファンタジー小説にある大冒険のドタバタもなく、TLに多いような言葉遣いの悪いツンデレがボーイフレンドに悪態をつく訳でもない、媚薬も出てこない。ただ、子どもをひとりで育てていた女性と、彼女と息子の愛を得るために一生懸命だけど不器用な男性のお話。それがいいの。それがいいのー!


その他

 あらすじのところでサラーッと書きましたが、ウォルドには子どもができない理由(本編でちゃんと明かされます)と、あたたかな家庭――というか、真に自分を愛してくれるひとを求める、無意識の欲求がもともとあります。同様にノスリちゃんもそう。そう考えると、お互いを求める気持ちの高まりというのは、碧先生のお心次第ではファンタジー世界以外で展開していたかも知れない。
 でもそれだと、この「―孤独な騎士は最愛を知る―」というサブタイトルはつけられなかったから、異世界じゃないとダメだったんだなぁ…。読むほどに、タイトルが本当に秀逸だと思います。

 TL、異世界に抵抗ない方、ぜひ読んでみてくださーい!!

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