ばばあもどきの日常と非日常 その27「ばばあもどき、ホストクラブに行く 後編」

前回までのあらすじ

ホストをしている友人のバースデーを祝いに、ホストクラブに行くことになったばばあもどき。
どうせ行くなら「女の子にモテる方法」を学ぼうと、男装(?)して単身ホストクラブに乗り込みました。

なんだこの煌びやかな世界は……

実は私、そのうち「仕事のこと」シリーズで書こうと思っているのですが、焼肉屋で数年間 働いていました。
飲食店、特に焼肉屋では起こりがちなことなのですが、店内の煙や空気を外に出すための排気設備が大活躍した結果、入口のドアが非常に重く、開きづらくなります。
ホストクラブの綺麗で立派なドアを見た時、何故かその頃のイメージが蘇ってきてしまい、力を込めて思いっ切りドアを開けたら、想像の10倍くらい呆気なく、そして勢いよくドアが開いてしまい、その流れで私は、ものすごく張り切ってホストクラブに来た人みたいになってしまいました。
それでやっと腹を括ることができました。

受付の時、素直に「こういうところは初めてなので、何か不調法があったらすみません」と言っておきました。
私は表向き「客」として来ているけれど、心の中では「弟子」ですから。
よろしくお願いします、先輩方!

店内はとても煌びやか。
一列に並んで出迎えてくれるホストさんたちも煌びやか。
こんな煌びやかな空間に身を置くのは、きっと最初で最後でしょう。
あるとしたらあとは霊柩車に乗る時くらいです。
開店とほぼ同時に入店したのと、あとは恐らくお店のレイアウトのせいで、他のお客さん(所謂“姫”)は全然目に入りませんでした。
(おめかしした女の子たち、ちょっと見たかったのにな)
席に案内されて、豪華なソファに座り、ソフトドリンク(ばばあもどきは実はお酒が全く飲めない)を選びます。
・緑茶
・烏龍茶
・麦茶
・ジャスミン茶  の中から選ぶのですが、
このシチュエーションで飲んだら一番面白そう、という理由で麦茶を頼むことにしました。
麦茶って、「真夏のノスタルジー」ってイメージがあるんですけど、こんな真冬に、ノスタルジーもへったくれもない初めて訪れた歌舞伎町のホストクラブで麦茶を飲んでるシチュエーション、なんか面白すぎます。
しかも入れ替わり立ち替わりやって来る綺麗で、且つ個性豊かなホストさんたちと一緒に麦茶で乾杯って、冷静に考えれば考えるほど面白すぎます。

さて。
大事なのはここからです。
彼らは恐らく、初めて(しかも1人で)ホストクラブを訪れて緊張している私と何か話をして緊張を解きほぐして居心地よく過ごしてもらおうと思っているはずです。
それってどうやるのか、しっかり学んで帰ります。

「とっても楽しかった!」

色んなホストさんが色んなやり方でそれをしてくれました。
自己紹介で「〇〇といいます」「ルルと申します」
「あ、2文字繋がりですね、よろしくお願いします」って相手との共通点を即座に探したり、
「僕は結構ストレス発散でお酒を飲んだりすることあるんですけど、逆にお酒が飲めないルルさんは発散って言ったら何してます?」って訊いてくれたり、
(そこで「カラオケが好きです」「カラオケは何を歌うんですか?」「サザンです」「ああ、サザン良いですよねぇ」「あとは桑田佳祐です……ってほぼ同じやないかーい‼︎」という私の“いつもの展開”に持ち込んで笑いを取ったりしてたのですが、ちゃんと笑ってくれて嬉しかったです)
敢えて自分のコンプレックスや悩みを話してくれたり、
私が友人の○×さんの誕生日を祝いに来たと知って、ひたすら○×さんを褒めてくれたり、
(そして私も負けじと○×さんのすごいところを褒めて、本人不在のところで褒め合戦を展開してました)
なんだかもう途中からとっても楽しくなってきました(弟子の分際で)。
しかも最後は私の一番大好きな話題であるところの「あしたのジョー」の話までしてたので、大満足です。

来る前は「とっとと行って○×さんの晴れ姿を見て『おめでとう』って言ってお茶飲んでとっとと帰ろう」って思っていたのに
お会計の時ちょっと名残り惜しかったくらいです。
おっさんのくせに。
「男性のお客さんも多いですよ」って初めて聞いた時は「なんでやねん」って思ったけど、おっさんでも十分楽しめます。
恐るべしホストクラブ。

でも、こんな煌びやかな世界に、もう来ることはないだろうなぁ、なんて思いながら煌びやかなゲートをくぐって外に出ました。
もう来ることはないだろうなぁ、なんて思いながら……

まさか上着を忘れたまま帰って10数分後にのこのこ戻って来る羽目になろうとは夢にも思わなかったよ(泣)
私もスタッフさんもなんで気付かなかったんだろう?
きっと、顔も体型も暑っ苦しいからだな、うん。

おまけ

上着を忘れたことに気付かないまま、歌舞伎町を駅に向かって歩いていました。
(嘘です、本当は帰りに油そばを食べようと思って油そば屋さんに向かって歩いていました)
LINEが来たので道の端っこに立ち止まって携帯を見ていました。
すると、30代くらいの男の人に声を掛けられました。
「ねえ、お兄さん、この辺でキャバクラ知らない?」と。
「お兄さん」? 私が?
そうです、男物の服を着て、靴底の厚い靴を履いて、短い髪の毛をかっちり固めた私は、どうやら本物のお兄さん(この場合、「おじさん」の婉曲表現だと思われるが、それはさておき)に見えたらしいのです。
ポイントは、上着を忘れたというところと携帯を見ていたというところ。
男物の服を着ている上に、この無駄にデカくて邪魔な乳が腕に隠れて見えなかったんだと思います。

私は咄嗟に「声を出したら声でバレる」と焦り、身振り手振りを駆使して「いやー、ちょっと分からないっス」と伝えました。
折角「お兄さん」って言ってくれてる人に、本当は容れ物が女だってバレたくなかったんです。

そんなこんなで2時間ほど前まで「歌舞伎町、なんか怖そう」って思っていた私は、「歌舞伎町、最高だなォィ!」って思いながら上機嫌で家路に着きました。

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