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オークランドよりクライストチャーチの桜が早く咲くのはなぜ?

8月も下旬になると、暖かい日も増えてきます。
この時期になると桜が咲いたという話題が在ニュージーランド日本人界隈で飛び交います。

花粉が飛び交っている?
タイムマシンがあったら、日本のスギをニュージーランドに持ち込んだヤツの口に Weet-Bix を押し込んで「それだけはやっちゃダメだ。あとで酷いことになるぞ」とお説教してやりたいですね。
おっと、つい過激になってしまいました。アレルギーの総合商社こと私です。

さて、この季節になると最初にクライストチャーチのあたりから桜の開花の一報が寄せられて、オークランドあたりからは「クライストチャーチの方が寒いのになんで?」という声が聞かれます。

これは、桜が春を感じる仕組みが関係しています。

結論から言ってしまうと、「冬の寒さで花が咲くというスイッチが入るから、冬の寒さが厳しいクライストチャーチの方がオークランドより早く咲く」ということになります。

では、その仕組みの解説を。
桜を見ながらドヤ顔で解説できるようになります。



植物が花を咲かせるのは、種をつけて次世代を残すためです。
したがって、とくに四季がある地方で進化した植物は、花から種ができて種から芽が出て育つというプロセスが最も適した季節に合うようになっています。

これはもちろん植物によって違います。
サクラの場合は、春に葉が出て夏に生い茂って、夏に花になる芽が出て、春につぼみが膨らんで開花する、という一年のサイクルになっています。

このサイクルを見ることで、クライストチャーチのサクラが早く咲く理由がわかります。
※以下、サクラはソメイヨシノを指します。


葉が生い茂っている夏に、枝に花になる芽(花芽)がつきます。
春から夏にかけて新しい芽が出てきてどんどん葉が増えるのですが、ある時から新しい芽は花芽になります。

新しい芽が花芽になる時期はいつも同じくらいなので、サクラは何らかの気象条件を感知していると考えられていますが、まだ解明されていません。
日の長さではないかという説が有力です。


秋になるころには、花芽は「休眠」の状態になります。
夏に花芽ができて開花したときに冬になると寒さで花が死んでしまう可能性があるので、硬い花芽のままで冬の寒さを越すためです。

この休眠は、葉でつくられた「アブシジン酸」という物質が花芽に蓄積されることでおこります。
アブシジン酸は植物の生育を阻害する働きがあるので、花が咲かなくなるわけです。

ちなみに、アブシジン酸は葉でつくられるので、アブシジン酸がまだ十分に蓄積されていない夏の終わりごろに葉をすべて取ってしまうと、秋の暖かさで花が咲きます。
「桜の狂い咲き」などと呼ばれています。夏の終わりの台風などで葉が飛ばされてしまうと起こります。


冬の低温が休眠している花芽を起こすきっかけになります。
具体的には、8℃以下の低温が800~1000時間になると休眠が終わります。

これは、アブシジン酸が低温で分解されるためです。したがって、寒い地方の方が一日の中でも低温の時間が長いので、早くに休眠の終わりを迎えます。
アブシジン酸がすべて分解されるまでに800~1000時間くらい必要ということですね。
そのため、最低気温が8℃以下にならないような暖かい地方ではソメイヨシノは開花しません。

オークランドの月別の最低気温の平均をみると、冬は9℃前後です。平均だけ見ると8℃以下ではありませんが、寒い日には8℃以下になるのでその時にアブシジン酸は分解されます。
一方、クライストチャーチは3℃前後なので、クライストチャーチの方が8℃以下になる時間が長く、休眠は早く終わります。

しかし、休眠は終わっても、花は咲きません。休眠は終わった時期はまだ花が咲くには寒すぎるためです。急な冷え込みなどで花が死んでしまう可能性がありますから。

この時期のサクラは、とりあえず目は覚めたけど寒いので暖かくなるまでお布団の中でスマホをいじっている状態というとわかりやすいでしょうか。


次に開化のために必要になるのは、暖かさです。
サクラの開花には「ジベレリン」という物質が関わっているのですが、暖かくなるとこのジベレリンが桜の体内でつくられます。
そして、ジベレリンの量が十分になると開花します。

暖かさの基準にもいろいろあるのですが、ソメイヨシノの場合には「毎日の最高気温を足していって、600℃を超えると開花する」という計算でかなり正確に開花を知ることができます。
この足された温度は「積算温度」と呼ばれていて、農業の分野では収穫の目安を知るなど大切な指標になっています。

少々雑な計算になりますが…
オークランドの場合は冬の終わりから春先の平均最高気温が15℃くらいなので、600÷15で40日くらい。
クライストチャーチは12℃くらいなので、600÷12で50日くらい。
という休眠明けから開化までの日数となります。

なので、クライストチャーチのサクラの休眠明けがオークランドより10日以上早い場合は、クライストチャーチの方が早く咲くということになります。
例:
オークランド:休眠明け=8月1日→(40日)→開花=9月10日ごろ
クライストチャーチ:休眠明け=7月15日→(50日)→開花=9月1日ごろ
※適当な計算での一例です

まとめ


こうしてサクラの開花は、休眠が明けるまでの時間と休眠が明けてからの温度というふたつの要因があるために、地域によって開花の日がだいぶ違う上に寒い地域の方が早く咲くという逆転現象が起きるわけです。
とうぜんですが、冬が寒くて長い地域の場合はもっと早くに休眠から目覚めますが、暖かさが不足するために結果的に咲くのは遅くなります。

オークランドとクライストチャーチは、この逆転が起きるのにちょうど良い気候差となっているのです。

この現象は日本でも見られて、九州南部より関東の方が早く咲くことが多くなっています。


植物はいちど大地に根をはったら動けません。なので、とくに冬を回避するためにこうした複雑な方法が進化してきたわけですね。



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