とんぼとサカナの勧め

 『とんぼとサカナ』というラジオ番組をご存じだろうか。
 amazonのオーディオサービス、Audibleのポッドキャストにて限定配信されている番組だ。

 パーソナリティーは加藤浩次氏と山口一郎氏(サカナクション)。極楽とんぼとサカナクションだから "とんぼとサカナ"。そしてプロデュースは佐久間宣行氏という豪華な組み合わせだ。
 今から約一年半ほど前に配信されていた番組だが、機会があったので今更ながら聞いてみることにした。

 同郷仲間である加藤氏と山口氏は二人で他にもラジオ番組を持っている。  
 そのため、二人は一体どのような仲睦まじい様子を繰り広げてくれるのだろうかとワクワクした。

 しかし繰り広げられていたのは互いが持つプライドに対し嘲笑し合い、貶し合いのボロボロでグダグダなプロレスだった。
 さらには延々と不穏な空気感が漂い、初めて聞く人だと憤慨して「もう聞かない」と匙を投げてしまってもおかしくないほどの展開が続く。

 だが安心してほしい。全て決められた構成に沿ったものである。
 加藤氏の傍若無人でノンデリカシーな言動も、山口氏の苛立ちや呆れも全て作られたものだ。

 この上手く嚙み合っていないようで噛み合っている不思議な関係性や、ドギマギとした何とも言えない居心地の悪さが癖になり、独特のテンポ感さえ掴めてしまえば混沌の笑いへと引きずり込まれる。

 元々ブラックジョークやシュールな笑い、仕掛けのある構成が好きな私は笑いや歓喜が抑えられず、翌日に仕事があるにも関わらず夜通し最後まで聞いてしまった。

 さて、今回は全8回の当番組について簡単にネタバレなしでまとめていこうと思う。これを読んで興味があれば是非聞いていただくきっかけになればと思う。

第一回

 加藤氏の「構想30年、芸能生活を賭けたラジオ番組にしたい」という熱い想いを受けた山口氏と佐久間氏。
 しかし山口氏は乗り気ではなく、いつも通りのテンションのままであった。
 一方で加藤氏は地元で世話になっているとある企業がスポンサーに付いてくれたこともあり、その恩もあってかフルスロットルなまま落ち着く気配がない。山口氏も仕方なくノれるだけノってみるが・・・という第一回目。

 いきなりハイテンションでどんどん強引に進行していく加藤氏と、困惑のまま無茶ぶりに巻き込まれる山口氏にハラハラさせられる初回である。

第二回

 第一回のハチャメチャぶりを省みることなくそのまま二回目がスタート。
 今回はまだ二回目にもかかわらず、なんと大人気声優の花澤香菜氏がゲストとして登場する。
 相変わらず全力疾走の加藤氏は花澤氏に自分を良く魅せようとしたり、的外れな質問や無礼な無茶ぶりばかりして空回り。
 山口氏が必死で加藤氏の暴走を止めようとしたり注意するが、最終的には心優しい花澤氏の気遣いにフォローされてしまう形になる。

 ちなみに当番組はデリカシーの欠片もない、つまり "アウト" な発言が様々に飛び交う前提のラジオなので、非常に寛大な心で聞く必要がある。繰り返しにはなるが、そういう設定だと決められた上での言動なので、杞憂する必要はない。

第三回

 なぜか三回目にして呼ばれたゲストは当番組ディレクターの佐久間氏。
 加藤氏とも山口氏ともかつて接点があり、過去の話などで盛り上がる3人。
 しかしコーナーに入ると暴走気味の加藤氏そっちのけで佐久間氏は山口氏側に付いて二人だけで盛り上がってしまう。どうにかして自分のペースに持ち直したい加藤氏は無理やり流れを変えようとするが、そこでとうとう山口氏の堪忍袋の緒が切れ・・・という回。

 三回目にして早くもリスナーとして加藤氏へのフラストレーションが溜まりに溜まってくる辺りで山口氏の怒りの落雷。
 正直ブチギレ山口一郎はとても面白い。あまりこのような芸をしない(というかそもそも芸人でもないし)からこそ聞いていた私はめちゃくちゃ喜んでしまった。
 サカナクションファンにこそ特に聞いてほしい回である。

第四回

 とうとうスタジオに雷が落ちた第三回。そして幕開けとなった第四回だが、なんと山口氏がいない。ラジオを無断欠席したのだ。
 雷を落とされたにも関わらず、相変わらずな加藤氏は無断欠席をした山口氏にお怒りの様子。とりあえず前回に続き、佐久間氏とラジオを進める流れとなるが、加藤氏は山口氏の『無断欠席欠席裁判』を決行する。
 リスナーに電話し、山口氏の今後の処遇を決めるというものだ。
 しかしいざ始めると、加藤氏は山口氏の掌の上で踊らされていたことに気が付く。さらにそれにも飽き足らず、山口氏は最後に大きな仕掛けを用意する。

 少しだけ、本当に少しだけ大人しくなり始めた加藤。叱られてしょぼくれた子犬さながらの態度が大人げなくて非常に面白い。
 逆に今まで振り回されていた山口氏は無邪気ないたずらっ子のようになって反撃を企てており、二人はまるで子供の喧嘩をしているような雰囲気である。

第五回

 ラジオに戻ってきた山口氏。相変わらず険悪なムードではあるが、少しずつ腹を割って話せるようになった二人。
 しかし事態はまたもや混沌の渦に。山口氏が自身で仕掛けた種によりラジオは迷走し始める。困惑し、慌てふためく加藤氏と、自分が仕掛けた種に少しづつ苦しめられていく山口氏。
 そして思いもよらぬ形で第六回への舵を切ることとなる。

 クライマックスへのスタートを切るこの回。ついに一つの謎が明らかになる。ちなみに言っておくがこちらもゲスト回だ。しかし誰がゲストなのかは伏せておく。

第六回

 今までの雰囲気がなぜかガラッと変わってしまう第六回。
 メインの加藤氏はおらず、なぜか代わりにいるのは外国人の女性と山口氏。
 ラジオらしい展開もできるようになり、相変わらず混沌と化してはいるがひとまず安心・・・かと思いきやまたまた事態は一変、ラジオブースは妖艶なピンク色に染まり始め・・・。配信ギリギリ(というかなぜアウトじゃなかった)の卑猥さを攻めに攻めたかと思いきや突如、ラジオは最大のピンチに追い込まれる。当番組屈指のカオス回。

 もはや蚊帳の外に放り出された加藤氏と、濃厚な世界に一人取り残される山口氏。しっかり聞いていても何が起きているのか分からなくなる。しかも最後には大きな展開が待ち受けているので理解が追い付かない。ひとまずこの回はいい子は聞かない方がいいし、家族とも聞かない方がいいだろう。

第七回

 第六回の急展開を機に突如最終回となる第七回。しかし加藤氏はラジオをまだ諦めていなかった。「絶対にやめたくない」とブース内に一人立てこもる加藤氏と、なんとか説得してせめてブース内に入れてほしい山口氏・佐久間氏。
 二人は様々な手を使い加藤氏を説得するが、惜しいところまでいっても結局説得しきれずに時間ばかりが過ぎていく。
 最終的に山口氏は加藤氏が第一回目から望んでいた、あることをすると宣言し・・・最後に残されていた謎も明らかになり、大団円(?)を飾る最終回。

 今までの伏線回収も兼ねている第七回は今までの慌ただしさから一変、
少しだけ物悲しさも漂う回である。しかし感動的な展開や、湿っぽい展開にはならず持ち前の明るさだけはしっかりと残っているのが良い所だ。
 だがこのラジオ、まだまだ終わりではなかった・・・。

第八回

 「とんぼとサカナ とは一体何だったのか」
 その種明かしと反省を語る完全フリートークの回。加藤氏・山口氏・佐久間氏の三人で花澤香菜氏のゲスト回・山口氏ブチギレ回・下ネタ回などのリスナーが気になったであろう回の振り返りをする。
 それぞれどのような気持ちで臨んでいたのか、裏でどのようなことがあったのかを本編とは違い、和気藹々と語り合う。

 加藤氏の落ち着きと優しさ、山口氏の明るさと柔らかさでほっと一安心できる最終回である。


 ネタバレを踏まぬよう、極力最小限の情報のみで内容の輪郭だけをなぞるようにまとめてみたが、結果的に聞いてみないとピンとこない説明ばかりになってしまった。私の拙い文章で魅力が伝わったか分からない。
 ちなみにAudibleは月額1500円かかるが、定期的に割引なども行っているので無理せず、「今なら聞ける」と思った時に聞くという形で構わないと思う。


 なのでほんとに、聞いてみてください。


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