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短編小説【宝石じゃなくても】

チラつく雪を見上げながら手を広げ、幼子の様にクルクル回る彼女。

僕の目の前にいる彼女はまるで天使のように愛らしい。

そんな彼女に僕は聞いた。

「今年はどんな年にしたい?叶えたい夢や願いはあるの?」

彼女は急にピタっと足を止め、ゆっくり僕の方に顔を向けた。

さっきまで見ていた屈託のない笑顔は消え、急に感情が読み取れなくなった。

そんな彼女の口から言葉がこぼれた。

「私ね⋯、ただ、ただ、普通になりたいの」

「何それ?」

「今年だけじゃなく、来年も再来年も、その次もそのまた次も⋯、私の願いは多分⋯ずっと⋯それだけ」

「うーん、よくわからないけど」

「わからなくてもいいの。だから、私はあなたと一緒にいられるの。わかったら、きっと一緒にいられなくなるから」

⋯⋯⋯。

僕から見れば彼女は全てにおいて、人並み以上のものを持っている。

愛くるしい顔立ちに天使のような笑顔、勉強だってスポーツだって、更には料理だって人並み以上。

人の心を読み取る繊細な感性だって持ち合わせている。

唯一欠点があるとすればおっちょこちょいも人並み以上。彼女はいつも忙しそうにあちこち走り回っては疲弊している。

そんな事を思いながら我に返ると、彼女はまた何事もなかったかのように雪と戯れていた。

夕日に照らし出された彼女の横顔はとても綺麗だった。

しかし、笑顔の影に隠された憂いを帯びた表情を僕は見逃さなかった。

時に彼女は僕の心にさざ波をたて、感情をザワつかせる。

「カッコつけた言い方になるけど、僕には君が宝石に見えるよ」

「何それ⋯?」

彼女は声をあげて笑っていたが、目は笑っていなかった。

そしてこう言った。

「私は宝石なんかじゃない⋯、ただの石ころ。凸凹(でこぼこ)して、まっすぐ転がることも出来ない、ただの石ころなの。例えば、自分で宝石だと思っていたのに石ころだって気づいたときの気持ちがあなたにわかる?」

「うーん、難しいね。でも綺麗な宝石よりも、ただの石ころが好きな奴だっているさ」

「そんな物好き、いるわけないじゃん」

「いるよ⋯」

⋯⋯⋯。

「君の目の前に」


END

❦るりん❦

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