温かなコーヒーとともに。豊島区立 熊谷守一美術館
行きつけのバーに行くように、行きつけの美術館があったらなぁ。
そんな憧れのある人に、ぜひ一度訪れてみてほしい場所があります。
東京都・豊島区。池袋のシティな喧騒から離れた、閑静な住宅街の中にその館はあります。
豊島区立 熊谷守一美術館——かつては私設美術館だったものが、現在は区立として運営されています。それでいて、私設美術館らしいコンパクトで温かみのある空間は変わりません。
最寄駅は有楽町線・副都心線の要町駅、または仙川駅。
道中には住宅地のほかに粟嶋神社もあり、落ち着いた界隈には安らぎを感じます。
1977年に守一が亡くなるまで、45年間暮らした自宅兼アトリエの跡地を使い、1985年に守一の次女・熊谷榧(かや)が私設美術館を建てました。これが熊谷守一美術館のはじまりです。
熊谷守一の作品は、ここと岐阜県・付知町の「熊谷守一つけち記念館」が主に所蔵しています。
岐阜は守一の生まれ故郷であり、企画展ではこちらの所蔵品を借りてくることもあるそうです。
小さい頃のあだ名は「モリさま」。やがて「モリさん」となり、家族からは親しみを込めて「モリ」と呼ばれていました。
公民館のような、あるいは市立図書館のような小さなミュージアム。道路に面した庭には草木がいきいきと茂り、大きな窓から見えるアトリエのようなスペースは、外からでも居心地の良さを想像できます。
特別企画展 熊谷守一美術館37周年展
展示室
展示室は、1階・2階・3階の3フロア構成になっています。
常設の第1展示室は代表的な油絵のコーナーで、第2展示室には美術館の外壁にもなった墨絵《蟻》や書など、さまざまなジャンルの作品が揃う空間。
企画展示に使われる3階は、貸しギャラリーとしても利用されます。
今回の「特別企画展」は毎年恒例の展示で、 熊谷守一美術館のオープン記念日を挟む4〜6月の時期に開かれます。
37周年のお祝いでは、数年ぶりとなる遺品の大公開も。守一の絵はもちろんのこと、生い立ちや人柄を知るにも良い機会です。
守一の作品を楽しむときは、40代・50代・60代とおよそ10年単位で作風が変わっていくことにもご注目。
晩年のスタイルが確立されるまでにどのような道のりがあったのか、年譜と照らし合わせて見るのもおもしろいものです。
--After---
ミュージアムショップ
受付はショップの会計も兼ねており、周りにはポストカードをはじめとしたグッズが並べられています。
守一の素朴な絵を用いたポストカードは、コレクションにも贈り物にもぴったり。
書籍コーナーには榧さんの著書もあります。山が好きだった榧さんは、登山に関する本も多く執筆している作家。見本版は自由に手にとって読めます。
ミュージアムカフェ
受付に隣接しているカフェスペースでは、美味しいコーヒーをいただけます。付け合わせのクッキーもサクサクでおいしい!
カフェの本棚にあるのは、守一や美術そのものに関する書籍の数々。こちらも手にとって読んでいただけます。
BGMがすべてバッハの曲なのも、こだわりの一つ。東京美術学校の在学中、守一は音楽を専攻している仲間ともよく交流していたそうです。実際に、守一が生前聞いていたカセットテープとレコーダーも、遺品として残っています。
お茶をしながら小さな庭園を眺める、くつろぎのひととき。
かつてここには広い庭があり、植物採集を好んでいた守一があらゆる草花の苗木を植えていたそうです。今ではその面影は少なくなりましたが、一部がこうして今でも残っています。
(昔、職員さんがちょっとした遊び心で種をまいたイチゴが今も自生しているなんて話も……!)
おわりに
穏やかな空気とともに流れていく時間。
大規模な企画展とはまた違った、親しみやすい良さを感じられます。何度も通うなら、案外こっちのほうがいいかもしれない。
豊島区に在住・在勤の方は、入場料がちょっとお得に。立ち寄るほどに“馴染みの場所”になり、いっそう愛着が湧くかもしれません。
行きつけの美術館は、いかがですか?
美術がもっと楽しくなる。ささやかなご提案です。
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豊島区立 熊谷守一美術館
〒171-0044 東京都豊島区千早2丁目27−6
TEL:03-3957-3779
公式ホームページ
おやつを恵んでいただけると、心から喜びます。