『宇宙団地の花火大会』 公演衣装プランを語る
はじめに
記事をご覧いただきありがとうございます。
ここでは、2021年2月に東京都内の小劇場で上演した演劇作品『宇宙団地の花火大会』を振り返りつつ、衣装の制作レポートや裏話を公開します。
公演概要
劇団ハーベイ・スランフェンバーガーのみる夢
第5回本公演『宇宙団地の花火大会』
脚本・演出 荒川大
於 新宿シアターブラッツ
2021年2月27日(土)〜2月28日(日)
マチネ(昼公演):「昼の三作」上演
ソワレ(夜公演):「夜の三作」上演
サツマルリが衣装チーフ&プランナーを務めました。
以下では全体のプラン方針から、各キャラクターのこだわりポイントをガッツリ解説します!
公演を劇場や配信で見た方、公演に来られなかった方、公演に参加した方、それぞれこの劇を思い出しつつお楽しみいただけましたら幸いです。
全体コンセプト
今公演のプラン方針として、「ある日突如として宇宙に飛び出してしまった地球の日常。そのためSFやファンタジーなしの通常の洋服。2021年のファッションというよりは、ちょっとノスタルジー感があってもいいかも」という方向性が示されていました。
群像劇ということで登場人物の年齢やステータスも幅広く、プランナーとしてやりがいのある公演だったと感じています。
私がプランニングの基礎としている「子供は明るい色、大人は深い色」という法則をベースに、各々のキャラクターや役者の個性が引き出せるような衣装づくりを目指しました。
宇宙セールスマン|山下(やました)
イメージは「THE 営業マン」。
イケイケの営業マンは青系のアイテムを身につけているイメージがあり(ド偏見)、ネクタイは青に。
ヘアもワックスでばっちり固めていただきました。
足元は革靴、どでかい鞄でコテコテの宇宙セールスマンに。
衣装のカッチリ感が、どこかヘタレだったりオッサンだったりする山下の魅力を引き立てられたかなと感じています。
未亡人|侑理(ゆうり)
作演出から「暖色のイメージ」とオーダーがあったため、テラコッタやアプリコットオレンジなどさまざまな案が出ましたが、最終的にダークレッドに落ち着きました。
深い赤色が侑理が過去の経験から抱えているほの暗さにリンクしたので、結果的によかったかな。
長身の彩香さんにはロングスカートが似合うはず!小花柄がいい!と思いドンピシャのアイテムを調達。
昼編で山下と侑理が着用する宇宙服は、作演出の荒川さんがデザインしました。近未来感たっぷり!
団地の小学生|光子郎(こうしろう)
成人男性を小学生男子に見せるのは難関でしたが、育ちの良いお坊ちゃん+天才少年感+クソガキ感を絶妙にMIXすることができた、かなりお気に入りの衣装です。
水色キャップにレモンイエローの七分袖シャツ、グレーのアーガイルニット、白短パン、白ハイソックス、紺スニーカー、黒縁丸メガネという組み合わせが一体どうなるのか。
一式揃うまでハラハラしていましたが、結果は大勝利!!
リュックの中の「ポチ」は小道具さんの力作です。
団地の小学生|季子(きこ)
もっとファンシーな飾り付きヘアゴムなど、より女児っぽいアイテム案もありましたが、大人っぽい小学生をイメージして控えめに。
設定は4年生ですが、6年生くらいの想定でアイテムを収集しました。
個人的に、横縞のシャツはキッズ感が出るなぁと思っていたので迷わずチョイス。狙い通りにハマりました。
昼編のみ衣装替えで登場した浴衣は、舞台袖でサクッと着付け。
下駄ではなくサンダルにしましたが、いい感じにフィットしたので満足です。
高校教師|真壁(まかべ)
夜編のみ登場する真壁は、なんと季子役のちこさんの兼任キャスト。
真壁は季子の母であり、「とてもよく似た親子」という設定でした(そりゃあ似ますよ)。
ちこさんは劇団ハーベイの一つ前の公演『母星』で村松という先生役を演じていたので、二作続いての先生役。
しかし今回は村松のような厳格で権威のある教師ではなく、優しい先生とのことでベージュ系でまとめてみました。
インナーや鞄もシンプルでさっぱりした印象に。
とてもお似合いだったので気に入っています。
団地の高校生|隆(たかし)
着崩し制服?チェックシャツ?ダメージジーンズ?とバラエティ豊かな案が沢山あったのですが、スカジャンを確定させてからは順調に整いました。
直感で「絶対に水色を着せたい!」と思い、ライトブルーのスカジャンをひたすら捜索。
候補アイテム数点を作演出に提案したとき、意外にも色ではなく「金魚か鯉の柄がいい!」という言及がありました(その理由は本編をご覧いただければ……!)。
隆の恋人である高校生|裕美(ゆみ)
『母星』で使った女子制服を流用する初期案もありましたが、台本の展開に沿って部屋着に。
パパ活をしている女子高生ということでニットワンピかな(安直)(ド偏見)と決め込んでいたのですが、最終的にバチっときたのはラベンダー色のパーカーワンピ。
青系で星モチーフのイヤリングをしていて、さりげなく宇宙感を出しているこだわりポイントもあります。
団地の警察官|小栗(おぐり)
『母星』でも活用した警官服をチョイス。
カチッとした着こなしではなくややラフに、ちょっとよれよれくらいが平和な団地のおまわりさんっぽい。
役者さんからのアイデアも取り入れながら作ったプランです。
裕美と並んだときに父親感が出るように、髪にシルバーワックス(付けると白髪っぽくなる特殊ワックス)を少量使っていただきました。
宇宙幽霊|サチコ
実は、初期プランから大きな方向性の転換があった役です。
企画書の時点では「彼氏と仲良くしていたが、何らかの原因があって夏に死んでしまった若い女の子」という解釈で、華がありながらも刹那的なイメージ。
加えて夏帆にはビビッドな柄物を着せたい!という意欲からキャミソールやメイクはもっと彩度を高める予定でいたのですが、台本や稽古をしっかりと追っていくうちにガラッとイメージが変わりました。
ふわふわ〜っとして忘れっぽいキャラクター設定に寄せていったことで、白メイン+淡色に。
ファッションが白系にまとまった分、キーアイテムであるマフラーの色も映えたので、結果的によかったと思っています。
幽霊っぽさを想起させる白のレースカーディガンや、マフラーとマッチする三つ編みヘアのアイデアが採用されたときはプランナーとして万々歳。
序盤で付けている赤いマフラーは加工でボロボロにしました。
歌が得意な大学生|アキ
アキちゃんもプラン変更に大きな舵切りがありました。
最初は女子大生という設定にフォーカスし、「量産型JDがよく着ているやつ」という想定から、ロングプリーツスカートに小ぶりなTシャツなどを合わせていました。けれどもしっくり来ない。
原因が、【さっぱりした性格のアキのキャラクターに合っていない&詩織さんの雰囲気を活かせていない】と理解してから、ビッグシルエットのTシャツ+スキニーに路線変更し、ヘアスタイルも大きく変えました。
ワンポイントカラーとして緑色を入れたかったのですが、サンダルは理想的な既製品がなかったのでDIYでカラーと装飾を調整。ないものは作ればいい精神。
緑である理由は全体バランスの兼ね合いのほか、「ジュピター」の名を冠した某戦士のカラーという小ネタがあります……。
宗教家っぽい猫おばさん|御厨(みくりや)
「とにかく派手でジャラジャラした感じ」というオーダーから、徹底的に柄物・光り物をリサーチ。
茶色やオリーブなどのアースカラーで年齢感を出しつつ、色物も取り入れて装飾しました。
収集できたアイテムがかなり良かったこともあり、クオリティ高く仕上げられたと自負しています。
おばちゃんっぽさを出すために、手編みニットベレー帽を提案したのは我ながらファインプレー!
デザインにこだわって探したイヤリングも、大変良いアクセントになりました。
???(宇宙人)
「宇宙に棲んでおり、豊富な技術と知識を持ち合わせている謎の生命体」。
ご来場いただいたお客様、公演写真をご覧になった方からかなり評価の高かったこの宇宙人コスチュームですが、こちらは私ではなく荒川さんの超力作!!
(脚本・演出・主宰業務の傍ら、その節はありがとうございました……)
グリーヴァス将軍やカオナシのような"人ならざるもの"感を表現しながら、ライトが仕込まれていて光る異形頭という機構付き。かつ短時間で着脱もできるという圧倒的クオリティ。
今公演のMVPと言っても差し支えない衣装です。
おわりに
スケジュールの都合もあり、今回はかなり短期決戦での衣装制作となりましたが、結果として納得のいくものができて安堵しています。
直接お褒めの言葉をくださったお客様もいらっしゃり、本当に光栄でした。
衣装が整うことで役者さんのキャラクターが見違えるようになったときの、一仕事したぜ!という達成感。
これが楽しくてやめられない。
コロナ禍での劇場公演となりましたが、2週間後に感染者の発生もなく、無事に終えられましたことをこの場を借りて改めて感謝いたします。
劇団ハーベイを今後ともよろしくお願いします。またどこかで、皆様とのご縁がありますように。
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▼劇団ハーベイ・スランフェンバーガー
公式ホームページ
公式YouTube(公演映像を全編公開中!)
graphic design / Photograph:Tatsunori Oka