『みんな、すごい努力している』初めて殴られた日。
これは遠い昔、私が高校生だった時。ミュージシャンを漠然と目指していたけど、人生を舐め腐っていた時のことです。※
今思えば、本当に滑稽な、調子に乗った子どもでした。
親にも殴られたことのなかった私は、そんな必死に歌っていた高校生の時、初めて殴られた感覚に陥ったのでした。
世の中の音楽は全てつまらない。私ならそれを越えられる
当時の私は、この世で今現在活動してるアーティストは全てくだらなく、力不足で、何も面白くない。なぜこんなアーティストが売れているのか全く分からない。などと本気で思っていたイタイ高校生でした。(本当に痛すぎます。)
当時好きだったアーティストは、邦楽で言えばREBECCA。NOKKOの声が本当に好きでした。自分にとっては不良少女みたいに感じられて、この世界で上手く生きられない女の子がロックしているみたいに感じていました。(こんな言い方してごめんなさい。)
後はwhiteberry。小学生の頃から大好きです。彼女たちを知ったのは活動が終わってから随分後でした。自分が小学生でのうのうとゲーム三昧でだらっと生きているのに、同い年くらいの女の子たちがこんなにカッコイイ音楽をやっているなんて……。と頬を叩かれたような衝撃を受けました。
書き方が悪いようですが、どちらも今でも大好きでよく聴きます。
それはさておき、現在聴きたいアーティストがいない私はと言うと、なんと私ならこんなつまらないアーティストを簡単に越えられるなどと、生意気にも思っていたのです。しかも本気で。
同時に、私は必ずミュージシャンになる人だとも信じてやみませんでした。だから私は毎日詞を作り、曲を作り、ギターをかき鳴らしていました。歌さえあれば何もいらないと思っていました。
デビューするチャンス。レコード会社の方に歌を聞いて頂けることに
高校の軽音楽部に入り、バンド活動をしていた私。それだけでは夢に近づけないと思い、たまに弾き語りでラ一人でライブハウスに出ていました。でも呼べるのは優しい友達だけ。いつも大赤字。私は一体これからどうやって生きていくのだろうと、常に不安に思っていました。でも、私はミュージシャンにしかならないと思っていたので、やめられなかったんですよね。
そんなある日。いつも出演させていただいているライブハウスの方から、ライブのお誘いを頂きました。その内容はとっても魅力的。
レコード会社の新人発掘部の方が身に来てくれて、意見まで頂けるというもの。費用はいつもの機材費やノルマ代等のみ。
その時何を思ったかと言えば、やった、デビューのチャンスだ。と能天気なことのみ。バンドで担当していたベースだけでなく、毎日アコギを弾きながら、来る日も来る日も曲作りに明け暮れていた、こんな私に巡ってきたまたとないチャンスだ、と本気で思いました。(ポジティブすぎる)
3曲全てオリジナル。やりきったけど
ついに当日。それまで一人でライブに出ることはありましたが、オリジナル曲は1曲だけだったりして、あとはカバー曲のみでした。そんな私が、初めてオリジナル曲のみでライブをしたのです。
曲作りに時間がかかり、歌詞やコードを覚えきれませんでした。なので譜面台を使いながらのライブでした。
あまり詳しく覚えていませんが、緊張して体温がすごい熱くなるんです。いつもはバンドメンバーと共に立ち受ける証明が、私一人だけで受け止めなくてはいけなくて。それでもなんとか3曲歌い終えることができて、頑張ったなぁと思っていました。
いよいよレコード会社の方から意見をもらう番が回ってきました。私の曲そのものについてや、譜面台について。淡々と意見を貰いながら、デビューのデの字もなく、今回のチャンスはダメだったなぁなどとまた呑気に思っていました。
意見を頂き終えたところで、質問をさせていただけることに。私がその場で思いついた、唯一の質問。それは、今活躍しているアーティストの中で、特にすごいなと思う方はいますか? というものでした。まだまだデビューには程遠い私が少しでもそこに近づくために、プロの現場にいる方がすごいと思っている方を知ろうと思いました。美人Aさんが美人だと思う人は、Aさんよりも美人なはず、という理論です。
レコード会社の方は言いました。
『デビューしている人はみんな、すごい努力している。本当に努力している』
それは本当に当たり前のことを当たり前のように言われただけでした。空は青い、とか、虹は七色でできている、とか。そんな風に。
でもそれは私にとって、本当に実際に殴られたような気がする言葉でした。そして目が覚め、本当に世界がクリアに見えるようになったような気がしました。
アーティストを馬鹿にしているのは私だけ。本当の馬鹿は誰だろう。
私はアーティストのキラキラした表面の部分しか見えていなかった。この世のアーティストがどんなに裏で努力して、アツい音楽を届けるためにどれだけの時間を捧げていたのか、考えようともしていなかった。
自惚れて音楽のことを何も知らなかったのは、私自身だった。それに今まで気付かなくて本当に哀れだ。
みんな、すごい”努力”している
あの日、私はレコード会社の方の言葉に、人生で初めて殴られました。あの言葉を頂けて本当に良かったと思っています。そして機会をくださったライブハウスの方にも頭が上がりません。本当に恵まれていたなと思います。
殴られないままでいたら、私は何も知らない哀れな若者になっていたと思います。そしてそのまま年老いていくだけの、つまらない人生になっていたとも思います。
この世は、目には見えない努力と情熱で創られた、アツくて美しいものに溢れている。それに一生気付けないままだったのかもしれませんから。
今では、かっこいい人たちは、努力していないフリをするように感じています。裏では死ぬほど努力していると思うのですが。
だから私もそんな人になりたいので、努力していないフリをするようにしています。私も表面上ではキラキラした作家になりたいです。なります。
私に文才やアクセサリーのセンスがあるかはわかりませんが、それを持ち合わせただけでは何の意味もないということ。今では心に深く刻み込まれています。才能がないなら、とにかく量と経験を磨くしかない。
誰かの心を動かすことが私のミッションだと、ずっと昔から信じていました。キラキラした作品をいくつも生み出して、もっともっと素敵な作家にレベルアップしていきたいと思います。
お読みくださりありがとうございました。
※「舐め腐る」というちょっと字面が美しくない言葉は使いたくなかったのですが、他に適切な言葉が見つかりませんでした。こんな使い方に相応しい言葉を御存じの方がいらっしゃいましたら、こんな私ですがご教授くださると嬉しいです!
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