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「トンデモ医療」を遠くに眺めて
SNSを眺めているとどうしても目に入ってくる「トンデモ医療」と呼ばれる類の情報達。
そこでは毎日のように医療従事者を含めた大勢の人達が活発に議論を行なっている。
僕を含めた多くの医療従事者はエビデンスを重視するスタンスをとっているため、信憑性が低い情報を安易に肯定することは難しい。
もちろん現在行われている医療行為の全てにエビデンスがあるわけではなく、慣習的に行われていることもあり、今後変わっていくことも多いだろう。
また、ガイドラインなど比較的エビデンスに則った分野でさえ、研究結果の蓄積によって更新され続けている。
しかし、その医療の更新性と、無根拠の医療情報を肯定することは全く別次元の話である。
現時点で様々な研究によって効果が示されていたり、否定されていたりする情報を吟味し、最善の方法を患者に提供できるように勤しむことが我々の仕事だ。
SNS上では善意ある医療従事者の方々が、最新のエビデンスを提示し、現代医療のスタンダードを幅広く啓蒙してくれている。
そういった情報に誰でもアクセスしやすい点はSNSの魅力だと感じている。
ところがそこには数多の堂々巡りの議論があることも事実だ。
正直僕自身は「何を信じるか」は人それぞれの自由であり、どんな医療情報を信じようが、その人自身が責任がとれるのであれば全く問題ないと考えている。
ヒアルロン酸を経口摂取して、膝が痛くなくなるなら飲めばいいし、腸を揉んで正常な位置に戻したいなら好きなだけ揉めばいいと思う。
ただ自分が関わる患者には現時点で明らかとされているエビデンスを提示し、自分が最善と考える方針を提案している。
その上でそれを選択するかは個人の裁量に任せるしかない。
そのためSNSにおいて、信憑性の乏しい医療情報に関して自ら意見を述べることはしていない。
人は見たいものを見て、信じたいものを信じたい生き物であり、そういった情報を信じ込んでいる人に僕の声など横槍にしかならないだろう。
ただ、自分では医療行為を選べない対象の保護者に関しては自分の考えに偏りがないかを慎重に判断して欲しい。
あなたの信仰はあなたのものであり、そこに口を挟む気はさらさらないが、それによってあなたの愛する人が不利益を被らないことをただただ遠くから願わざるを得ない。