"ハズレの店員さん"
『...ねぇ、知ってる?駅前のカフェの可愛い店員さん...オススメドリンク頼むとカップにメッセージ書いてくれるんだって...うん...そう...でもね...中には書いてくれない"ハズレの店員さん"もいるから気をつけて?』
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??:先輩!お疲れ様です!
快活な声に驚く。声の主は分かっているのだが、なぜ彼女が2時間残業した後にこんな元気なのかは未だに分からない。
部下の村井は入社の頃から面倒を見てやっていたせいか、やけに懐いてくれている。まぁ、慕われるのは悪いことではない。
◯◯:...村井。今日も元気だな。お疲れ様。
村井:えへへ...仕事終わると元気になりません?私この解放感が好きで!
◯◯:...まぁ、確かにそうかもな。
村井:しかも今日金曜日じゃないですか!華金!先輩!どこか連れてってくださいよー!
◯◯:...華金って言ってももう19時過ぎだぞ?今から行くなら飲み屋くらいしか...
??:ちょっと待ったー!
◯◯:うおっ...的野か...おどかすなよ...
後ろから大声を張り上げる女性社員は村井と同じく部下の的野。2人は同期で、いつも一緒にいる。
的野:お疲れ様です!優と2人きりでデートなら私を通して頂かないと。
◯◯:いや...全然そんな感じじゃなかっただろ今。
村井:...
的野:...相変わらず先輩は...まぁいいです。ちょうど私行ってみたい所があるんですよ。
◯◯:...どこ?
もしかしてお前も来るのか、などと言う結果の分かりきった質問をする気にはなれなかった。まぁいつもの事だ。
的野:駅前のカフェです!
◯◯:...カフェ...喫茶店か?この時間に?
的野:22時くらいまでやってたはずなんでまだ間に合いますよ!それに...
微かに頬を赤らめる的野。急にどうした...
的野:...めちゃくちゃタイプの店員さんがいるんです!だから行ってみたいんですけど1人だとちょっと不安で...
村井:...先輩、私も気になるのでそのカフェにしましょうよ!
◯◯:......
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そんな訳で12月の寒空の中徒歩で件のカフェへとやってきた訳だが。
◯◯:おいおい...すごい行列だな。
店内に入ると、レジには十数人の行列が出来ていた。
的野:噂通りですね...実はこのお店、ちょっと変わってまして。
的野が得意気に話し出す。
的野:このお店、元々可愛い店員さんが多くて有名だったんですけど、最近あるサービスを始めたらしくて。それが...
◯◯:...じれったいな、早く教えてくれ。
的野:もう、先輩は堪え性がないですよ?今なんと、店員さんの"オススメドリンク"を注文すると、その店員さんがその場でカップにメッセージを書いてくれるんです!
◯◯:...で、この行列は"それ"目当てで並んでいる...と?
的野:間違いありませんね。ここの店員さん、人気ありすぎて非公式のファンクラブまであるんですから。
◯◯:...流石に気が知れんな。
まさか残業終わりにこんな行列につかねばならないとは。
辟易として周りを見渡すと、奥にもうひとつレジがあり、店員もちゃんといる様子。
◯◯:...あっちは空いてるな。
的野:あぁ...あっちは"ハズレの店員さん"がいる方ですね。
◯◯:...ハズレ?
的野:...さっきのメッセージ、全員が書いてくれるわけじゃないんです。何人かは書いてくれない人もいて...その人達は"ハズレの店員さん"って呼ばれてます。
何とも気の毒な...店側が始めた事とは言え、そんな風に言われてしまっているのか。
しかし待ちたくない立場としてはありがたい。
◯◯:オレはメッセージ云々は興味が無いから向こうのレジでいい。ほら、コーヒー代はやるから。先に席で待ってるぞ。
村井:あっ...先輩...
的野:...全く先輩は...
お金を渡し2人を置いて誰も並んでいないレジへ並ぶ。
??:...いらっしゃいませ。こちらのレジはメッセージサービス対象外になりますがよろしいですか?
笑顔でもなければ真顔でもない。何とも言えない機械的な表情で対応してくれた小柄な店員。その目を見た時の感情をなんと表現すればいいのか。
なんだろう...雷に打たれたような...とか?
在り来りだがとにかく脊髄反射的な速度で襲ってきた謎の感情はあっという間に脳を支配した。
◯◯:あっ...えっと...ここで大丈夫です。えっと...何にしようかな...
上の空でメニューを見るが、ちっとも頭に入ってこない。
まごついていると、店員は小さく笑った。胸元のネームプレートには『森田』と書かれている。
森田:...ふふっ...お悩みですか?
口元に手を当て笑うその小さな仕草にさえ釘付けになってしまう。何だこの気持ちは。
◯◯:えっ...ええ...初めて来たもので...すみません...
森田:...お客様、甘いのはお好きですか?
◯◯:...あ...はい。
森田:...では宜しければこちらのドリンクをお作りしましょうか?
彼女が手で示す先、ネームプレートの下には
私のオススメドリンク
ホットカフェモカ
と書かれていた。
◯◯:あっはい...それで...お願いします...
森田:...畏まりました。それでは少々お待ちくださいませ。
ぎこちなく微笑み、背後のコーヒーマシンへと向かう彼女。
手馴れた手つきでカップを取りだし、ドリンクを作るその姿をボーッと見つめてしまう。
彼女の姿を見ていると体温が徐々にだが上がってくるような気さえする。
やがてドリンクは完成し、目の前に置かれるカップ。ホットドリンクだからか、火傷防止のカバーが付けられている。
森田:...お待たせ致しました。カフェモカ、ホットのLサイズです。ごゆっくりどうぞ。
◯◯:あ...ありがとうございます...
カップを手に取り店員の顔も見ず逃げるように席に着く。しばらくして村井と的野もやってきた。何やら楽しそうだ。
的野:...んー!これは予想以上にハマりそう...ユイサン...アア...好きです...ユイサン...
村井:...ホントに可愛い店員さんしかいないんだね!メニューも可愛いし...あれ?先輩どうしかしましたか?
◯◯:...ん?あぁいや何でもない。
的野:...やっぱりメッセージ欲しかったんでしょ?
◯◯:...いや...オレはいい。
先程の感情を振り払い、コーヒーに口をつける。暖かくて甘い液体が喉を通る。
そう言えばカフェモカを飲むのは人生初かもしれない。胸に籠る熱と舌に残る強い甘みが気分を昂らせた。
的野:...先輩!何ボーッとしてるんです?ほら!これ!見てくださいよ!
的野が掲げたカップには
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みおちゃんへ
わざわざ会いに来てくれて嬉しい!
また来てね、今度はゆっくりお話しようね!
ゆい
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と、手書きでメッセージが書かれていた。
なるほど、これは確かにすごい。走り書きのような乱雑な文字ではなく、丁寧に気持ちを込めたであろう筆跡と、何やら小さなキャラクターの絵。
◯◯:...すごいな。こりゃ行列になるわけだ。
的野:フヒヒ...先輩も欲しくなったでしょ?フヒヒヒヒヒヒ......ユイサン...
何やら様子のおかしい的野を無視して視線を下に落とす。
◯◯:............!!!!!
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気に入って、頂けましたか?
森田 ひかる
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カップのカバーの端に小さく書かれていた文字。
間違いなくあの店員が書いたものだろう。
考えるより先に首が動いた。"彼女"の方に。
森田:.........!!!!
彼女は視線に気付くと、すぐに目を逸らしてバックヤードへと消えてしまった。
いや、これはどういうことだ...?
彼女は"ハズレの店員さん"ではなかったのか?
確かに彼女の口から聞いた。『ここは対象外だ』と。
では何故ここに彼女の手書きのメッセージがある?
それに何やらこちらを伺っていた様子だったし...頭が混乱する。
村井:......先輩?どうかしましたか?
後輩の一言で我に返る。
◯◯:あ...あぁ...何でもない。
自分の鼓動で周りの音が上手く聞こえない。
貰ったメッセージカップを手に嬉しそうな後輩達を前に、バレないようメッセージの書かれたカバーをそっとポケットにしまった__
次の日。気が付くと"あの店"に足が向いていた。
店の外からさり気なく中を覗くと、長蛇の列の隣のレジで、暇そうにしている彼女の姿が見えた。
2日連続で来店したら不審がられるだろうか。
真冬だと言うのに額を汗が伝う。
しかしまだ胸に残る昨日の熱と甘みが自分を店へと向かわせた。迷わず彼女の待つレジへ。
森田:...いらっしゃいませ...こちらのレジは...あっっっ!!!
機械的に話していた彼女と目が合うと、その大きな目がさらに大きく開いた。
森田:すっ...すみません...ご注文は...おっ...お決まりですか?
目に見えて慌てる彼女が可笑しくて、思わず笑ってしまう。不思議と店に入るまでの緊張は無くなっていた。
◯◯:ふふっ...じゃあ..."オススメ"をお願いします。
森田:...はいっ!少々お待ちくださいませ。
慌てつつも注文を聞くと彼女は嬉しそうに笑い、コーヒーマシンの方へ。
彼女の後ろ姿を眺めながら、本来ならあるはずのないメッセージに期待してしまう。
◯◯:(...並んでる他の客もこんな気分なんだろうか)
もどかしさと胸につかえた昂る気持ちを抑え待っていると、目の前に彼女がやってきた。
森田:...お待たせ致しました。ホットのカフェモカ...Lサイズです。
やや緊張した面持ちでカップを手渡してくれる彼女にありったけの落ち着いた笑みを浮かべ、席に座った。
すぐにメッセージを探してしまうのは無粋な気がして、まずは一口飲むことにする。
◯◯:...
昨日は狼狽えていたせいでじっくりと味わえなかったが、この"カフェモカ"と言う飲み物...なかなかに奥深い。
ただ甘ったるいだけの女性向けコーヒーだとばかり思っていたが、甘さの奥にコーヒーの苦味がしっかりと感じられる。うん...美味い。
ふと視線を感じた方を見る。レジ横のショーケースに隠れながらこちらを伺う彼女の姿。
その目が何かを伝えようとしているような気がして、カップに目を落とす。
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今日もありがとうございます。
ひかる
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とても短いが、心臓と脳を沸騰させるには充分な量だった___
それからと言うもの。
自分でもおかしいと思うが、かれこれ2週間毎日この店へと足を運んでいる。
仕事帰り、休日、時には出先のついでに。
___彼女に会いたかった。ただそれだけ。
もちろん非番の日もあったが、勤務している時は必ず彼女のレジへ向かう。
その度恥ずかしそうに対応してくれる彼女が可愛くて、愛しくて。
カップのカバーにいつも小さく書かれているメッセージ。
"今日も寒いですね"とか、"風邪が流行っているので気を付けて下さい"とか。
他愛もないそのどれもが、胸を暖かくしてくれる。
思えばこんな気持ちになったのはいつぶりだろう。昔のこと過ぎて忘れてしまった。
今はただ彼女の事しか考えられない。
気付いてしまった。
___これは恋なんだと。
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慌ただしくも休みへ近付く金曜日。仕事を終え手早く荷物をまとめる。
村井:...あれ?先輩お疲れ様です!珍しいですね、定時で帰るなんて...
◯◯:...あぁ、ちょっと用があってな。
村井:...今日用事ってことは...なるほどなるほど...女の子ですね?
ニヤニヤしながら絡んでくる後輩を適当に躱し、会社を出て一目散に"あの店"へ向かった。
鞄の中を確認する。今日もう何度したか分からない。
鞄の中には小さな包みが入っている。
そう、今日は12月24日。クリスマスイブだ。
___別に何か期待してるわけじゃない。
ただ、いつも美味しいコーヒーを淹れてくれる彼女にささやかな"お礼"がしたかっただけ。
本当ならメッセージをくれるはずのない"ハズレの店員さん"。
それなのに何故かいつもメッセージをくれた君に。
この昂る気持ちを伝えることは出来ないかもしれないが、それでも構わない。
店に入り、いつものように彼女のいるレジへ向かう。店員はみんなサンタクロースの格好をしている。当然彼女...森田さんもだ。
森田:...いらっしゃいませ。"いつもの"でよろしいですか?
◯◯:ええ...お願いします。それと...これ。
コーヒーを淹れに行こうとした彼女の前に、小さな赤い包みを出す。
森田:...これは?
◯◯:その...いつもお世話に...なっているので...お礼に...大したものじゃないんですけど...気に入らなかったら、捨てて下さい...
何を言っているんだ。これじゃ何も伝わらない。
百貨店の店員にあれこれ言われ、散々悩んだ末に選んだハンドクリーム。君の為に。
しかし勤務中に愛の告白などされて迷惑がかかるのも...
恐る恐る彼女の顔を見ると、プレゼントの包みに負けない程真っ赤な顔で俯いていた。
森田:...あっ...ありがとうございます。ご用意...致しますね。
森田さんは包みをエプロンの内ポケットに素早くしまうと、逃げるようにコーヒーマシンの方へ行ってしまった。
その後、何やら慌てている様子の彼女はカップを落としたり手順を間違えたりで、いつもの倍近くかかってようやく"いつもの"カフェモカを持ってきてくれた。
森田:申し訳ございません...大変お待たせ致しました...ホットの...カフェモカLサイズです。
◯◯:...ありがとうございます。
森田:あっ...あの...お客様...
カップを持ち、その場を離れようとした所を彼女に呼び止められる。
◯◯:...はい?
森田:...今日は...その...メッセージ...書いてなくて...
◯◯:あっ...そうなんですね、大丈夫ですよ。
森田:...その代わり...あの...その...
こちらを何度も伺いながらもじもじする彼女。
森田:...今日...20時までなので...待ってて貰えませんか?
◯◯:.........えっ?
思考が停止する。
もしかして仕事が終わるまで待っていてくれ、と言われたのか?
森田:あの...もし迷惑だったら...
◯◯:いやいやいや!そんなわけない!待ってます!!!絶対に!!!!!!
気付けば店中に響き渡る声で返事をしてしまっていた。周りの客は驚き、他の店員の何人かは笑っている。
◯◯:あ...すみません...それじゃ...また...後で。
森田:...ふふふ...また後で。
爆発しそうな心臓を抱え、何とか席に着き、時計を見た。19時43分。
◯◯:(...あと17分...)
落ち着こうとコーヒーに口をつける。
しかし....待っていてくれ、とは?
期待と不安が混ざりあい、胸の辺りでどんどん膨らんでいく。眩暈すら覚える程に。
結局何も考えられないまま時計を見ると20時3分前。そろそろ出た方がいいだろう。
外に出ると冬の夜風が頬を撫でる。不思議と寒いとは感じなかった。
しばらくすると、店の裏から足音が聴こえてきた。
彼女だ。
森田:あっ...あの...すみませんお待たせしてしまって...
いつものエプロン姿ではなく私服の彼女は何倍も大人っぽく、魅力的に見えた。
◯◯:いえ...お疲れ様です。
しばしの沈黙。お互い相手の顔を見たり、俯いたりを繰り返す。
沈黙を破ったのは、彼女だった。
森田:...あっ...あのっ...少し...歩きませんか?
◯◯:...ええ。
頷いて2人で夜の街を歩き出す。
街は当然のようにクリスマス一色で、すれ違う男女はみな肩を寄せ合いながら歩いている。
__今なら言えるだろうか。
クリスマスと言う絶好の機会。
サンタクロースがくれた君に想いを伝えるチャンス。
深呼吸して、ゆっくり言葉を紡ぐ。
◯◯:あの...森田さん...?
森田:...はい?
◯◯:...その...大事な話が...あるんです。
立ち止まり、俯く彼女の顔を真っ直ぐ見た。
森田:...ごめんなさい。
たった一言。その一言が忘れていた12月の寒さを思い出させた。様々な想いが頭を巡り、自然と天を仰いでしまう。場違いな程眩い星空。
__儚い恋...いや、そんな綺麗なものじゃないか。
オレが勝手に盛り上がっていただけ。
残念ではあるが、仕方ない___
直後。胸に衝撃と微かな温もりが。
◯◯:...えっ?
視線を落とすと、彼女がオレの胸に身体を預けていた。柔らかい彼女の香りが脳に突き刺さる。
◯◯:あっ...あの...これは...?
森田:...貴方のお話を聞く前に...その...私の話を聞いてもらってもいいですか...?
消え入りそうな彼女の声と矛盾する状況に戸惑いながらも、落ち着いていた鼓動が再び早くなる。
森田:..."私も"です。
◯◯:...えっ?
そこで初めて彼女がこちらを見上げた。
森田:...私も...貴方が...好きです...。
胸が熱くて甘いこの感覚。そう、これは...
__彼女が淹れてくれたコーヒーを飲んだ時に感じた様な。
◯◯:...本当にサプライズがお上手なんですね。
森田:...ふふ..."気に入って、頂けましたか?"
はにかむ彼女を優しく抱き締め、もう一度冬の寒空を見上げる。
眩い満天の星空が2人を祝福するかのように瞬いていた____
________________
『...あぁ...あっちは、書いてくれない"ハズレの"...』
遠くに聞こえるお客さんの声。いつもの事。
バイトしているカフェは今日も大盛況だが、私のいるレジには誰も並ばない。
いつからか始まった"店員のオススメを頼むとカップにメッセージを書いてもらえる"というサービス。
私はどうも苦手で毎回書くことが出来なかった。
そんな私をお客さん達はこう呼ぶ。
"ハズレの店員さん"と。
??:...なに黄昏てんの。
ひかる:...あ、由依さん。
先輩の由依さんがニヤニヤしながら後ろに立っていた。
由依:...いいねぇ、待ってるんだ。今日、金曜だもんね。
ひかる:...ええ、まぁ。
あの日から1年くらい。彼はまだ"ここ"に来てくれる。前のように毎日とはいかないけど、金曜日だけ。それだけでも嬉しい。
何度も思う。あの時勇気を出してよかったって。
由依:...それにしても健気な彼氏だよなぁ...羨ましいわ。
ひかる:...由依さんの彼氏さんだってたまに外で出待ちしてるじゃないですか。
由依:...何で外なの、って感じ。中まで来ればいいのにさ。...あっ...ほら、来たよ。
視線を入口に向けると、照れくさそうにスーツ姿の"彼"がやってきた。
ひかる:...いらっしゃいませ、お疲れ様。
◯◯:ありがとう。ひかるもお疲れ様。
彼の注文を待たずに私はコーヒーマシンへ向かう。彼のオーダーはホットのカフェモカ。あの時からずっと。
...そうだ。ちょっといいこと思いついちゃった。
ひかる:...お待たせ致しました。"いつもの"です。ごゆっくりどうぞ。
◯◯:...ひかる?
いつもより少し素っ気なく対応されて困惑している彼を置いて隣のレジのヘルプに入る。
由依:...何か、冷たくない?
ひかる:...ふふふふ...いいんですこれで。
しばらくすると、彼の向かった席の方から大きな咳払いが聴こえてきた。ふふ...気付いたみたいやね。
由依:...もしかして、何か書いてた?
ひかる:えへへ...秘密ですー。
由依:あーあー、お熱いことで。
そう、私は"ハズレの店員さん"
だからメッセージは貰えないよ?
__わたしのメッセージは彼だけのものだから。
これからもずっと...ね?
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いつもありがとう
世界で1番大好きだよ。
あなただけの店員さんより
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________________end.
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