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From my past 第5話 ~一ノ瀬 美空~

『私、一ノ瀬美空!幼稚園の頃一緒やったけん、覚えとらん?』

『...本当だよ?お家に写真もあるけん今度持ってきてあげるね?そしたら思い出すかもね?』

『私...◯◯くんが思い出せるなら何でもするけん...頼ってね?』


突如現れた"自称幼馴染"の一ノ瀬美空さんの言葉は僕にとてつもない衝撃と戸惑いを与えた。


おまけに彼女は保乃たち3人と"幼稚園からの同級生"だと言うではないか。という事は...


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第5話
"一ノ瀬 美空"
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保乃:...ホンッッッッッッマにごめんなさいっ!!!!

ひかる・夏鈴:...ごめんなさい。


僕の部屋の床に正座し、深々と頭を下げる3人。


催実との打ち合わせと会場仮設営を何となく上の空で終えた僕は、何だかフワフワした気持ちで部屋に戻った。


直後。猛烈な勢いで3人が押し掛けてきて今に至る。


◯◯:...あの...3人とももういいから...頭上げて?


顔を上げた3人の表情は暗い。保乃に至っては涙目だ。


保乃:...◯◯と初めて会った日、むちゃくちゃ嬉しかってんで?すぐ◯◯やってわかったもん。でもその後3人ですごい悩んだんよ..."ウチらの事話して思い出してもらうか"、"◯◯が自然に思い出すのを待つか"。


保乃の言葉が途切れる。


夏鈴:...怖いかなって思って。急に覚えてへん人達から"昔知り合いだったよね?"なんて言われても。


ひかる:...だから決めたんよ。"ちょっとずつ思い出してもらえばいい"って。思い出した時全部話してまた昔みたいになれたらいいって。


夏鈴とひかるが続ける。部屋の空気はとてつもなく重い。


◯◯:...事情はわかったよ。ありがとう、3人とも。


保・夏・ひ:...え?


◯◯:...僕のこと真剣に考えてそうしてくれたんでしょ?
確かにちょっとびっくりはしたけど...でも何かホッとした。
みんなとは初めて会ったような気がしてなくてさ。そういうことだったんだね。
まだ思い出せないのは申し訳ないけど、改めてよろしく...って感じかな?


数ある疑問が全て消えた訳では無い。でも素直に嬉しかった。僕のことを想ってくれた3人の気持ちが。


保乃:...ホンマに...どこまでええやつやねん...変わってへんな...昔から。


夏鈴:...うん...こちらこそよろしくね。


ひかる:...


3人の表情が少し明るくなり、重い空気も徐々に消えていく。


ただ、一つだけ。どうしても気になっていることがある。


◯◯:...あのさ。"例の手紙の子"の事なんだけど...


保乃:...うん。


◯◯:...もしかして3人は誰だか...知ってるの?


僕の問いかけに再び長い沈黙。意を決したように口を開いたのはひかるだった。


ひかる:...知っとるよ。ウチらと、美空も。

夏鈴:...!!

保乃:...ひぃちゃん...。


2人の驚きの視線に構わずひかるは続けた。


ひかる:...でも誰だかは教えられん。ごめんね?"その子"との約束やけん。全部思い出した◯◯に見つけて欲しいって。それまでは内緒にして欲しいって。だから...


苦しそうに俯くひかる。


◯◯:...うん、わかった。


保乃:...ええの?ホンマにそれで。


◯◯:...本当は今すぐにでも知りたいよ。でも、やっぱり何か引っかかるんだ。
何で思い出せないんだろうって。好きだった気持ちだけ強烈に残ってる。
ちゃんと思い出せて初めてその子と向き合える気がするんだ。だから今はその子が本当にこの学校にいるってわかっただけでも嬉しいよ。


夏鈴:◯◯...


保乃:...うん、その通りやな。ややこしくてホンマにごめんな?


ひかる:...


◯◯:大丈夫。僕も色々と努力してみるよ。でもまずは勉強とか、生徒会の活動とか...学校生活に打ち込んでみようと思う。


夏鈴:...そうやな。そっちはウチらでサポートするから。


◯◯:うん、ありがとう。


その後少したわいも無い話をして、3人は部屋を出ていった。


◯◯:(...内緒にしておいて欲しい...か)


何だかおかしくなる。余程恥ずかしがり屋なんだろう。


◯◯:...迎えに行くよ。必ず。


天井を見上げ独り言ちていると、部屋のインターホンが鳴る。


玄関のドアを開けると、そこには一ノ瀬さんが笑顔で立っていた。


美空:...えへへ。来ちゃった。入ってもええ?


◯◯:う...うん。どうぞ。


突然の事に驚きつつも、彼女を部屋に招き入れた。


美空:突然ごめんね?どうしても会いたくて...


◯◯:あ、あぁ...全然大丈夫だよ。僕も聞きたいことあったから聞いてもいいかな?


美空:うん!もちろん!何でも聞いて...あっ!"あの子"の事だけは話しちゃダメな約束やけん...ごめんなさい。


先程のひかるの話を思い出す。やっぱり一ノ瀬さんも"知ってる"んだ...


◯◯:ううん、いいんだよ。"あの子"のことは自分で思い出すことに決めたんだ。だから聞きたいのは別のこと。


美空:うんうん、何?


◯◯:...僕のこの手の傷の事...何か知ってる?父さんからは小さい頃遊んでて出来た傷だって聞いたんだけど詳しく分からなくて...何か大事な事に絡んでる気がするんだ。


__右の手の甲の傷。今までは特に気にしてはいなかったが、編入してきて保乃達に出会ってからやけに疼く。まるで何かを僕に思い出させようとするかのように__


美空:...私もその場にはおらんかったけん、詳しくはわからんけど、お母さんには"◯◯くんが川遊びしてて大怪我したみたい"って聞いたのは覚えてる。次の日幼稚園で手に包帯ぐるぐる巻きで来とったのも。


◯◯:...川遊びで...大怪我...?...うっ!


その時だった。締め付けられるような痛みが頭に走り、僕の脳裏にある光景が浮かぶ。


『ごめんなさい...わたしのせいで...◯◯くん...しんじゃやだ...うぅぅぅ...』


僕の顔を覗き込み、号泣しながら身体を揺する女の子の顔。右手の甲の傷が強く疼いた。


美空:...◯◯くん...?


◯◯:...はっ!ごめんごめん...何だ今の...


美空:...大丈夫?苦しそう...


僕の側に寄り、優しく手を握ってくれる一ノ瀬さん。


◯◯:何か...少し思い出したような...


美空:ホント!?良かった!


満面の笑みで微笑み、しかしその後一ノ瀬さんは少し寂しそうな顔になった。


◯◯:どうしたの?


美空:...あのさ。"あの子"の事、そんなに気になる?


真っ直ぐ僕を見る一ノ瀬さんの表情は、先程のものと少し違って真剣で、鬼気迫るものすら感じた僕は口篭る。

◯◯:え?う...うん...そりゃあ...ね。


一ノ瀬さんは少し身をこちらへ乗り出した。

美空:...不確かな過去を探すより...幸せな未来を見た方が...いいんやない?


彼女の顔が突如近付き、唇に柔らかい感触。


美空:...こんな風に...ね?


◯◯:っっっっ!?


咄嗟の事に言葉が出てこない。しかし、僕は一ノ瀬さんにキスをされた。その事実は確かだ。


美空:...私は...私は"あの子"じゃない。でも私だって...昔から◯◯くんの事大好きやけん...


◯◯:...一ノ瀬...さん...


彼女は優しく微笑み、僕から離れて立ち上がった。

美空:...返事はすぐじゃなくてもいい。ただ...さっきの事、忘れないで。


そう言い残し、一ノ瀬さんは僕の言葉を待たずに部屋から出ていった。


◯◯:...過去と...未来...か。


__僕は過去に縛られているのだろうか。


考えてもみれば、少し不自然ではある。


思い出の中の"あの子"。僕の初恋の人。


__だが思い出せない...思い出せないんだ。


...思い出せないのに好きなのか?本当に?


何度も同じ思いが頭を巡り、目眩がしてくる。


◯◯:(...これはいけない。少し外の空気を吸おう...)


フラつきながら何とか玄関に辿り着き、ドアを開ける。


??:...すごい顔色。やっぱり美空になんか言われたんやね。


ドアを開け、へたり込む僕の顔を覗き込んできたのは...


___ひかるだった。


__________be continued.

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