"From my past" 第2話 ~動き出した歯車~
色々と変わったことがありつつも、無事始まったかに思えた僕の新生活は、思わぬ妨害により前途多難になりつつあった__
『ねぇねぇ!どこから来たの?』
『生徒会入ったってホント!?』
『寮の部屋教えて!』
『春月くんって彼女いるの?』
__見回す限りの人、人、人...
◯◯:(なぜ...なぜこうなった...誰か...助けてー!)
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第2話
動き出した歯車
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身体が少し宙に浮いているような曖昧な感覚。
そして僕の目の前には"あの女の子"がいた。
_いつもの夢...だけど今日はいつもと少し違う。
女の子:...ねぇ?わたし...とおくにいかなきゃいけないの...だから...だから...おわかれ...しないと...
目に涙をいっぱい溜め、途切れ途切れに話す女の子。
そうか、これはあの子が引越した日__
泣きじゃくる彼女の手を取る。何か言いたいが、言葉が出てこない。
女の子:...いつか...ぜったい...あいにきてね?わたしを...さがしにきてね...?
◯◯:(...嫌だ...行かないで...__ちゃん...!!)
アラームの音と窓から射す日光が、朝だと僕に告げる。
◯◯:...
またあの子の夢を見た。昨日までとは違い、はっきりと覚えている。
◯◯:...なんかいつもと少し違ったような...
気になるが、支度をしなければ。今日は始業式だ。
シャワーを浴び、私服に着替える。この学校は入学式と卒業式以外はほとんど制服を着ないのだと昨日3人から聞かされていた。
◯◯:(ちょっと早めに行っておこう...)
今日はまず、職員室で担任の先生に顔合わせする約束だ。
朝食も適当に済ませ、部屋のドアを開けると隣の部屋の前に人影が。
◯◯:あっ、おはよう森田...あっいや間違えた...ひかる...
ひかる:...おはよ。まぁ今のはセーフにしてあげる。
昨日3人と行った食堂で"呼び名は下の名前で呼び捨て"と決まり、赤面しながら特訓させられた。まだ慣れないが、少しずつ仲良くなれているようで嬉しい。
◯◯:...早いんだね。いつもこのくらい?
ひかる:...別に。今日はただ何となく。
◯◯:そ、そっか...
相変わらず口調と視線はキツめだが、拒絶されているような感じはしない...と思う。
その時僕の背後でドアの開く気配が。
夏鈴:あ、おはよう...2人とも。
◯◯:...お、おはよう、夏鈴。
夏鈴:ふふ、ひかるの思った通り早かったね。
◯◯:...え?
ひかる:ちょ!ちょっと夏鈴!余計な事言わんで...
何か言いかけたひかるの背後のドアが勢い良く開く。
保乃:おはよー!おっ!ひぃちゃんの予想通り早めに出発するんやね!保乃たちも早起きした甲斐があるってもんやな!
◯◯:...どういうこと?
夏鈴:初日やし1人で行くの不安だろうからってひかるが...
ひかる:あ゛ぁーっ!もういいから行くよ!こんなとこで時間潰しよったらそれこそ意味ないけん!
◯◯:ふふふ...ありがとう。確かにちょっと不安だったんだよね。場所もまだ曖昧だし...
ひかる:ま...まぁ...生徒会に入ろうって奴に初日から遅刻されても困るしね...
保乃:ふふふっ...ホンマにひぃちゃんは...まぁええわ、行くで!職員室やんな?
相変わらず楽しそうな保乃の後をひかると夏鈴と歩く。
しかし昨日も思ったが、広い...大袈裟かもしれないが、1つの村...いや町と言った感じだ。
寮から学校までは5分程で到着し、僕らは職員室の前までやってきた。
??:おっ!来たかー!
中から元気よく出てきた丸刈りの男性教師。
??:春月◯◯くんだね?俺が君の担任の澤部だ!よろしく!数少ない男同士、仲良くしようぜ!
◯◯:はい、よろしくお願いします!
にこやかな表情で親指を立てる澤部先生。明るくて楽しそうな先生だ。
保乃:ちょっと"べーやん"!ウチらの◯◯に気安く手ぇ出さんといてや?
澤部:おおおぅ!?何だ田村たちもいたのか!?あっそうか寮の部屋近かったなそういえば!もう女子3人と仲良くなるとは...やるな春月ぃ!このモテ男めぇ!
◯◯:えぇ...まぁ。ん...?いや...モテてるかどうかは...
ひかる:...生徒会に入ってくれることになったけん面倒見よるだけ。...そういうんやない。
澤部:.おいおい森田!相変わらず冷たいな!...それにしては3人でガッチリ周り固めてるじゃないか。
夏鈴:...そう、だから先生の入る隙間はないです。
澤部:"夏鈴ちゃん"までなんか冷たい!先生悲しいぞ!春月ぃ!先生とも仲良くしてくれぇ...
◯◯:もちろんです、こちらこそよろしくお願いします。
澤部:お...お前なんて良い奴なんだ...ありがとう!困ったことがあったら何でも言うんだぞ?
それじゃ、春月は始業式が終わるまでここで教科書とか入り用な物の受け渡しがあるから、田村たちは遅れないように始業式行けよ?
保乃:はーい!じゃあ◯◯、また後でな!
夏鈴:...またね?
ひかる:...みんなの前で恥かかんといてよ。
◯◯:う、うん...3人ともありがとう。
それぞれ言葉を残し、3人は行ってしまった。
その後僕は澤部先生と共に受け取った大量の学用資材を自分のロッカーへ運び込む。
澤部:...それにしても、すごいよな。
◯◯:...何がですか?
澤部:いや...共学になって1年生に男子が来るってだけでも結構驚いたのに、まさか2年にたった1人で編入してきた上に、初日からもうあの"生徒会クセ強3人衆"と仲良くなるなんて...春月ぃ、お前只者じゃないな?
澤部先生がニヤニヤしながら小突いてくる。
◯◯:...まぁ...確かにそうですよね...自分でも驚いてます。
澤部:...でも良かったよ。心配だったんだ。男子1人で大丈夫かってな。あの3人程じゃないが、うちのクラスも結構曲者揃いだから...まぁ、イジメとかそういうのは無いから安心してくれ。それでも最初は大変だと思うが。
◯◯:...いえ、良い友達と良い先生に巡り会えたみたいなので大丈夫そうです。
澤部:...春月ぃ...
◯◯:...ところでクセ強3人衆ってのはどういう...
澤部:あーっ!そこはノータッチで頼む!あの3人には絶対内緒にしておいてくれ!
そんな感じで何とか片付けを終えると、廊下が騒がしくなってきた。
澤部:お、始業式終わったみたいだな。それじゃ一旦職員室戻ろうか。
職員室に一旦戻り、チャイムの音を待って先生と教室へ向かう。
澤部:呼んだら入ってきてくれ。挨拶は短めでいいぞ。
◯◯:...はい。
いよいよだ。僕の新しい学校生活が始まる。最初が肝心だ。元気よく、良い印象を持ってもらわねば!
澤部:さて、早速だがみんなも聞いている通り、2年生にも男子が1人入ることになった。今から自己紹介してもらうから静かに聞いてやってくれ?
よーし、春月、入れー!
不思議と緊張はしなかった。本当に女子生徒しかいない教室を一度見渡し、僕は大きく息を吸った。
◯◯:...初めまして。春月◯◯と言います。一日でも早くクラスに馴染めるように頑張りますので、どうかよろしくお願いします!
静かな教室に僕の声が響き渡る。どこからともなく拍手が沸き上がり、少し安心した。
澤部:男子1人で何かと不安だろうから、みんな気にかけてやってくれな?席は...とりあえず狙ったかのように田村の隣が空いてるからそこでいいよな?
田村:もちろんいいでーす!
保乃がこちらに何やら目配せしてくるのが何だか可笑しくて俯いたまま席に着く。
田村:改めてよろしく!
◯◯:うん、よろしく。
よく見れば僕の前は夏鈴。後ろにはひかるの席が。窓際の席なので僕は3人に囲まれている形になる。
夏鈴:結局こうなっちゃったね。
ひかる:...まぁ、知らない人に囲まれてるよりはいいんじゃない?
◯◯:(...見えざる力を感じる...でもこの方が安心か)
澤部:さて!始業式も終わったことだし、いつも通り今日はこれでおしまいだ!部活や委員会のないやつは帰っていいぞー、明日からは通常通りだから忘れ物ないように!それじゃ!
颯爽と去っていく先生と、途端にざわつく教室。
保乃:さて...ウチら食堂行って時間潰してから生徒会室行くけど、どうする?会議午後からやし。
◯◯:あっ、先行ってて!一旦寮戻んないと荷物が...
夏鈴:...手伝う?
◯◯:ううん、昨日沢山手伝ってもらったから大丈夫。荷物置いたら僕も食堂向かうよ。
保乃:おっけー!じゃあまた後でなー!
ひかる:...モタモタしてないで早く来てよ?
教室を出る3人を見送り、荷物の整理をしていると、異変に気付くも時すでに遅し。
僕の席の周りは、同じクラスの女子生徒達によって包囲されていた。
◯◯:あ...あの...何か?
『ねぇねぇ!どこから来たの?』
『生徒会入ったってホント!?』
『寮の部屋教えて?』
『春月くんって彼女いるのー?』
一斉に浴びせられる言葉に息が詰まる。これは...まずい。
◯◯:えっと...ごっ...ごめんね!用事あるからまた今度!
適当な言い訳をして席を立つ。躊躇ってはだめだ。
『_____』
荷物を抱え逃げるように教室を出た。まだ何か聞こえた気がしたが、構っている暇はない。
◯◯:(やばい...動悸が...)
小さい頃から人混みが苦手だった。どうしてもその物量に眩暈がしてしまうのだ。まさかこんなところで最悪の事態に見舞われるとは。
背後から女子生徒達の声が聞こえる。追ってきているらしい。だけど恐怖から振り返ることは出来ない。
◯◯:(...とにかく...どこかへ...)
??:こっち、早く。
◯◯:っ!?
薄れゆく意識の中、誰かに手を引かれる。そこからどう歩いたのか覚えていないが、気付くと僕はどこかの空き教室に連れてこられていた。
◯◯:っ!...はぁっ...はっ...はっ...
恐怖と焦燥からか、息が上手く出来ない。
そんな僕の手を誰かが握ってくれる。
??:...落ち着いて...大丈夫やから...ゆっくり息して?
聞き覚えのある声。
◯◯:...夏鈴?
夏鈴:うん...もう大丈夫...やから。やっぱり人混み苦手やったんやね。ごめんね...1人にして。
僕の手を握り、優しく声をかけながら背中を摩ってくれたのは夏鈴だった。
◯◯:...ふぅ...あぁ...ありがとう...
何とか言葉を吐き出す。
夏鈴:...ゆっくりでええよ?
◯◯:(...何だろう...こんなことが...前にもあったような...)
酸素のない頭に遠い記憶が蘇ったような気がしたが、当然それを処理できる訳もなく、僕の意識は遠のいていった___
___________________
__また、夢を見た。
誰かが僕を優しく抱きしめてくれる夢。
◯◯:(...安心する匂い...)
◯◯:んん...
目を開けると、ソファに寝転んでいた。どうやら気を失っていたらしい。
夏鈴:...あっ...気がついた。
身体を起こすと、目の前に3人の姿が。
保乃:よかったぁー!ごめんなぁ1人にして...保乃たちが付いてればよかった...
ひかる:...にしてもウチらがいなくなった途端とか...あからさま過ぎて気に食わん。
夏鈴:まぁ...あの子たちにも色々あるやろうし...ね?
どうやら3人で教室を出た後、心配になって3人で僕を探してくれていたらしい。
逃げているところをたまたま夏鈴に見つけてもらえて事なきを得た...という感じだろうか。
◯◯:いや本当に助かったよ...ありがとう...みんなには助けて貰ってばっかりだな。
自分で言いながら少しバツが悪くなる。
保乃:何言うてんねん!水臭い!ウチらもうマブダチやねんからこのくらい当たり前やろ?
夏鈴:...ウチらが大変な時は助けてな?
ひかる:...まぁ...そういうこと。
安心感...いや、これは既視感と言うべきか。
どうもこの3人とは昨日初めて会った気がしない。すぐに仲良くなれたのも、その"既視感"のおかげだろうか。
保乃:とりあえず荷物寮に置いて、食堂行こ?保乃お腹すいたぁー!
ひかる:...全くあのゾンビ女共のせいでお昼食べ損ねるとこやったわ。
夏鈴:...さ、◯◯も行こ?
◯◯:うん、ありがとう。
昨日と同じく4人で僕の部屋に一旦戻り、荷物を置いて食堂へ。しかし部屋を出た僕は違和感に襲われた。
◯◯:...何だろう...これ。
玄関のポストに何か入っている。これは__封筒?
保乃:なんやえらい可愛い封筒やな!もしかしてラブレターとか?
夏鈴:...中、見ちゃう?
ひかる:...夏鈴、意外と悪やね。
◯◯:い、いいよ...みんなで見よう...ちょっと怖いし。
恐る恐る封筒を開くと、懐かしい香りと共に小さな手紙が折り畳まれて入っていた。
_________________
春月◯◯くん
突然の手紙ごめんなさい、びっくりしたよね?
私は春月くんの古い知り合い。
きっともう忘れちゃってるかもしれないけど...
私はひと目でわかったよ?君だって。
すごく嬉しかった。もう会えないと思ってた。
あの時の約束、覚えてる?
もしまだ覚えていてくれてるなら...
私を見つけてください。
迎えに来て欲しい。
本当は名乗り出るべきなんだろうけど
どうしても勇気が出なくて...
君ならきっと見つけてくれるって、信じてる。
大好きな君へ
"あの頃の私"より
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◯◯:...!!!!!
__脳が揺れた。
保乃:...これって...どういうこと?
◯◯:まさか...そんな...
目の前の受け入れ難い現実。しかし夢見てもいた未来。
夏鈴:まだ何か入ってるみたい。何やろ...写真?
夏鈴に渡された写真には見覚えしかない。
__僕が持っていたものと全く同じもの。
これを持っているのは、この世には2人だけ__
保乃:この写真...!!
◯◯:...そんな...本当に...
ひかる:...昨日話してた昔好きだった子から...ってこと?
手足が震える。
◯◯:...どうやら...そうみたいだね...
保乃:えぇーっ!?そんなミラクルある?
◯◯:...でもこの写真を持ってるって事はイタズラではないと思う。
夏鈴:じゃあ...この学校の誰かってことやんね...
ひかる:何か思い出せることないん?顔とか...名前とか...
◯◯:...顔と名前だけ思い出せないんだ。でも最近...よく夢に出てくる気がする...
保乃:...決まりやな!探そ!その子を!ウチらも協力する!
任せておけと言わんばかりに自らの胸をドン、と叩く保乃。
夏鈴:...でもさ、流石に手掛かり少なくない?
ひかる:..."思い出す方"を頑張ってみるとか?
保乃:きっと大丈夫や!だって...運命が2人をここまで引き合わせたんやで?
ひかる:...相変わらずのプリンセス脳...
興奮する3人を眺めながら、僕は心臓が高鳴るのを抑えられそうになかった。
◯◯:(...あの子が...この学校にいる...!)
止まっていた"僕たち"の時間が、ゆっくりと動き出す____
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??:さて、これで準備完了や。気付くかな?
??:...約束通り、ここからは"正々堂々"勝負だよ?
??:...わかっとる。絶対負けん。
_______________be continued.
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