Missing 第5話
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第5話
絶望と突破口
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翌日。私はレッスン。天は撮影で午前中が終わり、夕方までもうあまり時間がない。
あれからピーターは私の部屋でずっと瞑想している。作戦を練ってくれているみたい。
夏鈴と麗奈ちゃんは今日はレッスンには来ていなかった。
マネージャーさん達が何やらザワついていたからやはりそういうことなのだろう...
心配だがレッスンはいつも通りこなし、帰宅するともう天は帰ってきていた。
天:おかえり、ひかる。
ひかる:...ただいま。
ピーター:おかえり。早速だが準備が出来たら出発するぞ。
ひかる:うん、着替えだけさせて。
なるべく動きやすい服装に着替え、リビングに3人が集まるとピーターがこちらを向く。
ピーター:...あれから色々とこの世界の過去の文献や伝承を調べたが、やはりどれも信憑性にかけるものばかりで、確実な作戦はたてられなかった。
成功率は...50%と言ったところだな。
天:それだけあるならやろうや!2人を助ける!
意気込む手には大きなビニール袋が握られていた。
ひかる:...天...それ、何入ってるん?
天:油揚げ!
...なるほど。その発想はなかった...
天:これで何とかなるかはわかんないけど、思いつくことは全部やってみたくて。
ひかる:その通りやね。
ピーター:先程も話した通り、作戦と呼べるようなものでは無いが、聞いてくれ。
まず奴と対峙したら、私が奴を引き付け、人質の2人からなるべく遠ざける。
その隙に君たちはできる限り人質の2人に接近してくれ。出来れば触れている位の距離が望ましい。
そこからは私が隙を見てそちらに近づき、5人で結界を出る。理解出来たか?
ひかる:...真っ向から戦うわけじゃないんやね?
ピーター:相手の実力から見て、戦うのは厳しい。仮に私が全力を出せる状態でも怪しいだろう。
そして何より、今回の目的は"救出"だ。戦うことなく切り抜けられればそれに越したことはない。昨日の様子から見ても、"奴"はあの結界の外には出られないと見ていいだろう。
天:...なるほど、とにかく私たちは夏鈴たちを見つけて一緒にいればいいんや。
単純な作戦だが私には1つ不安があった。
ひかる:...ピーター...1つ約束して。
ピーター:...あぁ、大丈夫だ。分かっている。
やはり、ピーターは私の言いたいことが分かっているらしい。だったらこの先は言わないでおこう。怪訝な顔をする天をよそに、ピーターは目を閉じる。
ピーター:...さて、2人とも覚悟はいいな?
ひ・天:...はい!
返事とほぼ同時に、私たちは光に包まれ、目を開くとそこはあの神社だった。
??『...思うていたより遅かったのぅ...それとも万策尽きて、命乞いでもしに来たのかぇ?』
待ち構えていた彼女と対峙する。姿は昨日見た巫女服姿のままだ。夏鈴と麗奈ちゃんの姿は見えない。
天:2人はどこ!?
??『...なに、妾の知りたいことを教えてくれればすぐにでも解放しよう...妾も無駄な力は使いたくないのでな』
今のところ彼女から敵意のようなものは感じないが、油断はしない方がいいだろう。
ピーター:....一先ず話を聞こうか
(2人とも油断するな。隠しているが、殺気に満ち溢れている。我々の返答次第ではすぐにでも襲ってくるぞ)
ピーターの声が頭の中に響く。
??『まず...お主らは何者かぇ?見たところそちらの小娘共はただの人間のようじゃが...貴様だけ何か違う...よもやただの兎ではあるまいて...しかし我らのような物の怪の類...という訳でもなさそうじゃ...』
ピーター:簡潔に言おう。私はこの世界とは違う世界からやってきた者だ。とある事情で彼女たちに出会い、救われた大恩がある。故に彼女たちの大切な友人を放っておくわけにはいかない。
??『...成程...道理で面妖な力を持っているわけじゃ...申し遅れたな。妾の名はサキ。人間共が九尾の狐と呼び、恐れ崇めるものじゃ。』
彼女の周りの空気が重くなるのを感じる。
やはり彼女は私達の予想通り九尾の狐...穏便に交渉、という訳にはいかないみたい。
サキ『...ではもう一つ問うぞ...?異世界の者よ、貴様はどうやってその小娘共から力を得ている?どんな手を使って?妾はそれが知りたい』
ピーター:...それを教えたら何をするつもりだ。
サキ『ほっほっほ...問うているのは妾の方。貴様の問いに答えてやる気はない』
ピーター:...お前の考えていることは大体分かっている。確かにこの力は彼女たちが生み出してくれたものだ。だがお前のように無理矢理引き出そうとして生まれるものではないぞ。
サキ『...成程...やはり人間同士の間に生まれる力であったか。矮小な人間共が自らでは決して扱うことの出来ぬ力を生み出すことが出来るとはなんと滑稽か...まあよい、これが最後の問いじゃ。貴様らは...妾の邪魔をするのじゃな?』
ピーター:お前の目的次第だ。人質に少しでも危害が加わるのなら阻止する。
ピーターがそう言い終えた所で、辺りの空気が先程と比べ物にならないほど重くなった。立っているのがやっと...これが、殺気?
サキ『よいよい...貴様らの気持ちはよう分かった。ならば力づくで止めてみよ!』
彼女の周りに黒い靄がかかり、紫色の光が彼女を包む。そこには、私が想像していた通りの"九尾の狐"の姿があった。姿は人間のままだが、キツネのものであろう耳と、9本の尾。
恐ろしいまでの威圧感に背中を汗が伝う。
ピーター:...2人とも、作戦は覚えているな?恐らく人質は建物の中にいる。探し出したら私に呼びかけろ。
私と天は頷き、ピーターの傍を離れる。
サキ『...おやお前たち、自分達だけ逃げるつもりかぇ?』
走り出した私たちの目の前に、突然彼女が現れた。
ひ・天:...っ!!!!
妖しく笑う彼女の前に私たちは為す術なく立ち竦んだ。そこへ一筋の閃光。
ピーター:お前の相手は私だ。
いつの間にか人型に変化したピーターが凄まじい速度で彼女に体当たりし、吹き飛ばす。
私たちは我に返った。作戦開始だ。
ひかる:...ピーター...約束...忘れんでね?
私は届いているかも分からない呟きを残し、天と共に走った。後方からは、爆発音が続け様に聞こえてくる。
天:2人を探さなきゃ!
ひかる:...あの映像と同じ場所にまだいるなら、この大きな建物の中やと思う。
私たちは賽銭箱の奥、本堂へと足を踏み入れた__
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サキ『ほっほっほ!威勢がいいのは最初だけかぇ?守ってばかりでは妾を止めることは叶わんぞ!』
九尾の狐の攻撃は炎や雷となり、私を襲う。しかし幸いなことに眼前に展開した光の壁は、彼女の攻撃を防ぐには充分な強度であったようだ。
ピーター:成程、この程度であれば流石に期待外れと言わざるを得ないな。これがこの国きっての大妖怪、九尾の狐とやらの力か?
サキ『...何じゃと?貴様今なんと言ったぁ!?』
あからさまな挑発はどうやら効果覿面だったようで、サキの攻撃は先程より強力になる。
ピーター(...頼むぞ2人とも...どうやらこちらはあまり長く持ちそうにない)
私は額に残り少ない力を集中させた___
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天:...夏鈴、麗奈!
私たちは割とあっさり2人を見つけた。駆け寄り、2人を揺り起こす。
夏鈴:...ん...んん...ここは?
麗奈:...あれぇ、私寝ちゃってた?
2人は呑気なことを言いながら起き上がる。
天:ピーター!2人と接触したよ!ねぇ、ピーター!
天が目標達成の声を挙げるが、応答がない。
___胸騒ぎが大きくなる。
ひかる:とにかくここを離れよう。2人とも、歩ける?
夏鈴:っていうかここどこなん?ウチらなんでこんなこと...
ひかる:...後で全部説明するけん、今は付いてきて?絶対4人離れたらいかんよ?
私の真剣な眼差しに夏鈴が口篭る。
麗奈:...夏鈴、ここはひかるちゃんの言う通りにしよ?
夏鈴:...わかった。
麗奈ちゃんに諭され、夏鈴が頷く。麗奈ちゃんが意外と冷静でいてくれて助かった...
本堂から出ると、先程の爆発音は一切なくなっていた。静寂が不安を煽る。
サキ『おやおや...勝手に御堂の外に出るとは悪い童どもよのぉ...まあよい...こちらは片付いた...次はお前たちの番』
サキの足下を見た私と天の呼吸が止まる。
そこにはうさぎの姿に戻ったピーターが血溜まりに倒れていた。
天:...う...そ...
ひかる(...ピーター...やっぱり)
悪い予感とはどうしてこうも的中するのか。ピーターは最初から分かっていたのだ。勝ち目のない相手であることを。それでも私たちの為に...
天:ピーター!!!!!!
天がピーターに駆け寄り抱き上げる。
ひかる:天!!ダメ!逃げて!!!
天:...っ!!!!
ピーターを案じるあまり、サキの足元に駆け寄ってしまった天はうねる尻尾に吹き飛ばされ、私の前に転がってきた。
ひかる:...うそ...天...天!!!!
ピーターを抱き抱えたまま数メートル程吹き飛ばされた天はぴくりとも動かない。
夥しい血が、絶望的な状況を痛いほど感じさせる。
夏鈴:嘘やろ...?何これ...夢?
サキ『なぁに...貴様らもすぐ同じところに送ってやるとも』
彼女が少しずつこちらへ近づいてくる。逃げなければ...しかし、どこへ?ピーターがいない今私たちに逃げ場などある?
いや、それよりも...天が...私の目の前で...
頭が回らない。どうすればいいの?
ひかる:あ...あぁぁ...
麗奈:ひかるちゃん!落ち着いて...
麗奈ちゃんの制止を振り切り、倒れた天を抱く。
ひかる:...天!!いや!!待って...今...助けるから...
天:...ひか...る...逃げて...
か細い声でそれだけ発し、彼女は目を閉じた。
ひかる:うわあああああああああああぁぁぁっ!!
絶望。今まで味わったことのない絶望。
何故?何故私たちがこんな目に?
興味本位で非日常に首を突っ込んだ結果がこれ?
ほんの一瞬の間に私の頭の中には天とピーターとの思い出が浮かぶ。
『喋るウサギは珍しいか?』
『...君たちから不思議な力を感じたんだ』
『えーっ!?やっぱりウチら特別なんだよひかるぅ!』
何が特別だ。私は何も出来ないじゃないか。
目の前で恋人と友人を同時になくそうとしているというのに。
『"サクラ"とは高純度のエネルギー体...言わば"願いを叶える力"...と言ったところだな』
...願いを叶える力?
だったら...
ひかる:だったら私の願いを叶えてよ!!!!
空に向かって叫んだその時だった。額が熱くなり、どこからか何者かが私に問いかける。
"悔しいか?"
...言うまでもない。
"憎いか?"
...当たり前だ。
"奴を...殺したいか?"
ひかる:............殺したい...!!
自分の口からそんな言葉が出る日が来るなんて。
"いいだろう...力をくれてやる..."
私の身体に、不思議な熱が宿っていくのがわかる。
これって...もしかして...
サキ『ほーほっほっ!!、殺してやるとな?やれるものならやってみい!』
高笑いを上げ飛びかかってくるサキ。
不思議と怖くなかった。私はやけにゆっくりと振り下ろされた彼女の腕を掴む。力も重さも感じない。
サキ『...っ!?なっ...!!!』
突然の事に困惑するサキ。私はがら空きの彼女の脇腹に思い切り掌底をぶち込んだ。
掌がめり込む確かな感触。
サキ『ぐっ!!!!がはぁっ!!!』
数メートルぶっ飛んだサキは蹲り、血の塊を吐き出した。
サキ『はぁっ...はぁっ...なんじゃ...この力...お主...ただの人間ではなかったのか...?いやそれよりその姿...』
彼女の狼狽が伝わってくる。私には関係ない。
私は1歩ずつ彼女に近づく。不思議と負けるビジョンが見えない。
ひかる:...絶対に...殺しちゃるけんね...
"...そうだ...殺せ..."
頭の中に響く声と胸の奥から生まれるどす黒い感情に、私は身を委ねた___
_____________be continued.
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