見出し画像

Missing 第10話

マネージャーの〇〇さんに連れられ、3人揃って入った部屋は取材に使うには少し広い部屋だった。

これまた取材には似つかわしくない長いテーブルの奥に男性が1人座っており、こちらを見て会釈する。

〇〇:お待たせ致しました!本日お世話になります、山﨑、藤吉、守屋の3名です。よろしくお願いします!


天・夏・麗:よろしくお願いします!


男:...お初にお目にかかります。私△△編集部の愚地、と申します。皆様の日頃のご活躍、拝見させて頂いておりますよ。どうぞおかけ下さい。


"オロチ"と名乗った男性は微笑む。身なりの整った30代くらいの物腰柔らかな紳士って感じ。しかしどこか人を不安にさせる雰囲気を持った人...。


私たちは何となく違和感を覚えつつも、挨拶もそこそこに椅子に腰かけた__


___________

第10話

"The white python"
___________

愚:さて...では早速取材を始めさせて頂きますね。

夏:...


夏鈴が不思議そうにこちらを伺ってる。それも仕方ない。"取材"と言っているのに彼は録音機器はおろかメモすら持っていなかったから。


愚:...まず...皆様は..."他人には無い特別な力"について、どのように考えますか?


再び違和感。てっきりこれから始まるツアーについての質問だと思っていた。


天:えっと...それは一体どういう...


言葉を吐き出すも思わず口ごもってしまう。しかし彼は私から目を離さない。


愚:...あぁ、申し訳ございません。説明が足りませんでしたね。山﨑さん。貴女は最近ご自身に芽生えた"不思議な力"についてどうお考えですか?


天:...!!


身体が固くなる。この人、絶対記者さんじゃない。"不思議な力"って...もしかして...

夏鈴と麗奈も同じことを思ったのか、緊張した空気が流れる。


愚:...やはり心当たりがあるようですね...


やばい...表情で悟られてしまった...


天:...その力...?とかって言うのがどうかしたんですか?


精一杯惚けてみるが、無駄だと思う。彼は子供に笑いかけるような笑顔を顔に張りつけ、こちらに近づいてくる。


愚:...ふふ、嘘をつくのは苦手なようですね。最も、その方が私も助かりますが...。あまり長引くようだとこちらも"手荒"になりかねませんからね...


口調は柔らかだが目は全く笑っていない。これは...やばい。


天:っ!?


逃げなければ、と思った時にはもう遅かった。何故か身体が動かない。先程までいたマネージャーさんの姿もなくなっていた。


愚:...まさか、逃げられるとでも?まぁ、私の知りたいことを話して頂ければ、お友達共々直ぐに解放して差し上げますがね...


夏鈴:天...


未だに状況が呑み込めていない私たち。しかしこのままではどんな目に遭わされるか分からない。私は観念して口を開いた。


天:...正直なぜ私に"あんな力"が芽生えたのかは分かりません。本当に。ただ、この力について教えてくれた人は..."絆の力"だって言ってました...。


嘘はついてない。ただ何となくピーターやサキの事は話さない方がいいような気がした。


愚:...成程...特定の誰かとの強い絆が発現の条件という訳ですね...それで、どんな力を"授かった"のですか?



彼は満足気に頷きながら問いかける。



天:...うまく説明出来ないんですけど...治す...力?みたいです。


愚:ほう!"癒し"の力を授かったのですね?素晴らしい!...なんと神秘的な...


まるでずっと欲しかった玩具を目の前にした子供のように興奮しながら、彼はポケットから何かを取り出した。




__それが小さなナイフである事に気付くまでに時間はかからなかった。



天:...!!何を...するつもりですか?



愚:...言うまでもないでしょう?奇跡を目の当たりにしてみようかと思いまして。



いつの間にか目の前に迫った彼は私の頬をナイフで軽く撫でる。鋭い痛みと、血の流れる感触。



天:痛っ!!!



麗奈:天ちゃん!!!ちょっと!やめて!!



夏鈴:...何で動けへんの...!!!



しかし痛みはほんの一瞬。額が熱くなり、目には見えなかったが、頬の傷が消えていくのを感じることが出来た。



愚:...おお...!!その瞳...その力...間違いない...ご自身以外を治す事も可能なのですよね?では...




彼は私から離れ、夏鈴に近づく。何をするのかなど考えるまでもなかった。




天:やめて!!!お願い!!




その時だった。胸の辺りが熱くなる。




天:(そうだ...首飾り...!!)




あの日から肌身離さず持ち歩いているサキの首飾り。今は首にかけてある。幸い見られるような位置にはない。




天:(サキ...聞こえる...?助けて...!お願い...!!)



心の中で助けを呼ぶ。何度も。



夏鈴:...ひっ...いやっ...!



愚:...恐怖で声も出ませんか?ふふふ...こんなもの、これから起こる事に比べれば可愛いものですがね...



楽しそうに笑いながら、彼は怖くて目をつぶってしまっている夏鈴にナイフを向けた__



__その瞬間。


愚:っ!?!?



突然の轟音。目の前が煙で見えなくなる。



『...妾の可愛い童達を随分と可愛がってくれたようじゃな...』



何も見えなくても聞き覚えのある声に安堵からか、身体の力が抜けていった。



天:...サキ...!!



サキ:...遅うなって悪かった。怖かったのう。もう大丈夫じゃ。


晴れる視界の中には見知った頼もしい背中。



麗奈:良かった...夏鈴...



涙ぐむ麗奈の頭を優しく撫で、サキは愚地の方を向く。辺りの空気がとてつもなく重くなった。



サキ:...さて、何処の馬の骨かは知らぬが...覚悟は出来ておろうな?



愚:...それはこちらの台詞ですよ...あなたは一体...どこから現れたのですか...?



サキの姿を見て明らかに動揺した様子の愚地にゆっくりと近づくサキの背中は、私にも分かるくらい怒りに満ち溢れていた。



サキ:...妾は九尾の狐...覚えなくとも良いぞ?...これから死ぬお主には必要ないじゃろうからな...



愚:...九尾の狐...!?何を馬鹿な事を...



サキ:...信じられぬか?...ならその命を持って知るがよいわ!!!



サキが掌を翳すと、愚地の足元から青い炎が舞い上がり彼を覆う。



愚:...ぐっ...がああああっ...まさか...こんなことが...ぐおおおおおおおおっ!!



彼の声が聞こえなくなっても、炎は燃え続ける。



サキ:...お主ら、無事か?



サキは私たちに駆け寄り、それぞれの額に軽く触れた。途端に身体が動くようになる。



夏鈴:...っ!はぁっ...はぁっ...何なんホンマに...



麗奈:サキちゃん...ありがとう...



天:...サキ...あれは一体何だったの?



サキ:...わからぬ。じゃが恐らく...




そう言ってサキが振り向いた瞬間___




サキ:......っ!!!



炎の中から何かがものすごい速さで飛んでくるのが見えた。サキは尻尾でそれを叩き落とす。



天:...蛇?



飛んできたのは真っ白な蛇だった。



サキ:...やはり人ではなかったか。



愚:...やれやれ...まさか戦闘になるとは思っていませんでしたよ...



燃え盛る青い炎から出てきたのは体長5mはあろうかという巨大な蛇だった。それは愚地の声で喋り、サキと向き合う。



サキ:...3人共、下がっておれ。



サキと初めて会った時のことを思い出す。未曾有の恐怖との遭遇。




天:...サキ...!!




サキ:...なぁに、妾の事は心配要らぬ。"九尾の狐"の真の力、今こそ見せてやろう...



そう言うとサキは両手を合わせ、何か唱え始める。


サキ:...『"護法・天岩戸"(あまのいわと)』



私たちの周りに赤いドーム状の光が現れた。



サキ:...そこにおれば大丈夫じゃ。動くでないぞ?



私たちに優しく微笑む彼女の背後に、巨大な白蛇が迫る。それはサキを丸呑みにしようと、大きな口を開けた。



しかしサキは全く動じることなく、それを片手で受け止め、そのまま地面に叩きつける。



凄まじい揺れと白煙が辺りを包む。周りを見渡すと、そこは私たちがさっきまでいたビルの一室ではなく、広い荒野だった。



サキ:...狭い所では思う存分暴れられんでな。のう...蟒蛇よ。


愚:...不意打ちを一発防いだくらいで調子に乗ってもらっては困りますね...


愚地は少し動揺したようだったが、構わずその長い尻尾をサキに叩きつけた。


愚:...どうやら伝承通りの出鱈目な力をお持ちのようだ...しかし...



サキ:...っ!!??



愚地の身体から紫色の煙が吹き出て、辺りに広がった。



愚:...九尾の狐とて毒は効くでしょう...?私のは強力ですから...恐らくもう聞こえてはいないでしょうね。



天:...うそ...サキ...サキ!



サキのドームの中までは毒の煙は入ってこない様だ。しかしそれは地面や周りの岩を急速に腐らせていく。


夏鈴:そ...そんな...これじゃ...


私たち3人の脳裏には同じビジョンが浮かんでいただろう。煙が晴れた後、倒れているサキの姿...


しかしそんな私たちの杞憂を突風が吹き飛ばした。


そこには何事も無かったように立っているサキの姿があった。


愚:...馬鹿な...



サキ:...なかなかに強い毒じゃが...妾には通じんよ。そんなもの...それこそ何百何千と喰ろうてきたわ。


愚:...本当に何から何まで...私が敵う相手ではありませんね...


観念したのか、愚地は人間の姿に戻った。


途端に彼の周りを無数の赤い光が飛び回り、鎖となって拘束する。


サキ:...さて。妾の友人達を傷付けた罰は重いぞ...?しかし、お主には訊かねばならんこともある...
返答次第では...生かしておいてやってもよい。



愚:...かつて"日本三大妖怪"のひとつにまで数えられたという化け物が随分とお優しいことで...



サキ:...くだらぬ問答をするつもりならすぐにでもあの世に送ってやろう...心して答えることじゃ。貴様の目的はなんじゃ?誰に命じられてこんな事をする?


愚:...ふふ...ふふふふ...



絶対絶命の筈なのに、笑う彼からは余裕すら感じられた。



サキ:...何が可笑しい?



愚:...いえ...私が喋らずともすぐに分かりますよ...貴方達...亡失せし者..."ミッシング"の数奇な運命がね...くくくくくく...


天:...ミッ...シング...?



サキ:...っっ!?こやつ...まさか...!!



負けた割に満足気に笑っていた愚地の身体が光になって消えていく...



愚:私は所詮"手駒の1つ"に過ぎません...失敗すれば消される運命...お先に地獄で待つとしましょう...しばし左様なら...ふふふ...ふふふふふふ...



完全に消えてなくなるまで、彼の笑い声は広い荒野に響き続けた___


_____________be continued.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?