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From my past 第10話

『...ウチ...知ってますよ。"あの子"が誰なのか。』


退屈な選考面接に突如現れた女子生徒。


彼女の言い放った言葉は、僕らを大いに困惑させた。


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第10話
"嗤う愉快犯"
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保乃:...ホンマにそんな事言うたん?


夏鈴:...うん...確かに『あの子の事知ってる』って...


ひかる:...山下...瞳月ちゃんやっけ?聞いたことない名前やね...


美空:結構珍しい名前やけん...私も聞いたことない...かも。




面接後、僕の部屋で5人で輪になって首を捻る。


しかし本当に聞いたのだ。


◯◯:...しかも僕らの名前も知ってたんだよね...同じ学年じゃなきゃそう簡単にはわかんないと思うんだけど...


保乃:...で、どうすんねん。いっそ生徒会入れて根掘り葉掘り聞き出す?


ひかる:...何かちょっと物騒に聞こえるけんね、それ。


保乃:だって何か腹立つやんか!"この事"はウチら5人だけの大事な思い出なんやで?それを外野からズケズケと...


ひかる:...それは確かにそうやね。でもまだ外野かどうかも分からんし...


美空:...これってもしかしてもう1人ライバル増えたってこと?


夏鈴:んー...そんな感じやなかったと思う...まぁ何にせよ要注意人物ってとこ...かな。


煮え切らない結論に彼女の顔を思い出す。


確かにあの表情から好意など微塵も感じられなかった。


あれは間違いなく



__悪意に満ちた表情だった。




しかし僕が気にしているのはそんな事では無い。


◯◯:んん...て言うかまずちゃんと生徒会の仕事してくれるかも怪しいしなぁ...今の感じだと雰囲気も悪くなりそうだし...


ひかる:...そうやね。あくまでこれは役員選抜やけん。


保乃:...◯◯とひぃちゃんの言う通りや。ただでさえ人手不足なんやから...



美空:...それにしても目的は何なんやろうね?生徒会入る気なさそうなのにわざわざそんな事しよって...


確かにそれは僕も気になっていた。


彼女、山下さんが"知っていると言った"情報は僕にとっては言わば"餌"のようなもの。


その餌を僕の前にぶら下げてまで生徒会に入りたかった目的は?もっと生徒会に対する熱意をアピールするとか、そもそもハキハキ喋るとか...もっと効果的な方法がいくらでもありそうなものだけど。


◯◯:...まぁひとまず今回の面接は"該当者なし"って事にしておくよ。正直やれそうな子も他にいなかったしね。


由依さんには、『春月に一任する』と言われている。


『該当者がいないのなら、それも仕方ない』とも。


...今は様子を見るべきだ。


彼女...山下瞳月と名乗った女子生徒からは何か危険な雰囲気が漂っている気がする。


それに、自分で思い出さなければ意味が無い。



自力で思い出して初めて、それが"僕の過去"だと証明出来るんだから__


翌日。


生徒会室の前の掲示板に大きな紙を保乃と貼り出す。


『今回の選考での該当者はなし』


と大きく書かれた紙を。


保乃:...しっかし...なんやややこしい事になってきたなぁ...


ぼやく彼女にいつもの元気な表情はない。


◯◯:...まぁほっとけばいいよ。こっちから下手にアクション起こしたらそれこそややこしい事になりそうだし。


保乃:...せやな。


◯◯:...保乃?大丈夫?


僕の想像以上に元気の無い彼女が心配になる。


保乃は1つ息を吐き、低いトーンで言った。


保乃:...同じやんな...ウチらだって。


◯◯:...えっ?


保乃:...ひぃちゃんと夏鈴と初めて3人で◯◯の事どうしよって話した時はな...みんな本気で"◯◯の為"やと思ってた。ホンマやで?1番自然な形で思い出させてあげたいって...でも...


驚いた。彼女の頬に一筋の涙が流れている。



保乃:...でも...それって結局その山下って子がやってる事となんも変わらんやんな?ウチらだけ知ってて◯◯は思い出せへん。"あの子"の事だけやない...ウチら他にも沢山...



◯◯:...保乃。もういい。



自分でも驚くほど冷たく、重たい声色。



後頭部が火傷しそうな程熱くなる。


理由など分からない。


でも僕は怒っていた。かつてないほど。



保乃:...!!



◯◯:...同じじゃない...保乃たちが..."あんな子"と同じなわけない...みんなは僕の為に...僕...の...


どんどん熱くなる身体と急激な眩暈。膝に力が入らなくなる。


保乃:◯◯っ!?あっ...アカン!!由依さん!!



由依:...どうしたの...って春月!?土生ちゃん!保健室に連絡して!今すぐ!!!



徐々に狭まる視界の中で僕が最後に見たもの。それは



僕の身体を必死に揺する"あの子"の顔だった__



__目を覚ますと、そこは自室のベッドだった。


起き上がるとそこには談笑するひかると保乃、夏鈴と美空。


しかし彼女たちは目の前にいるはずの僕には目もくれず、お喋りに夢中の様子だ。


◯◯『あ...あの...みんな』


何となく寂しくなって声を出す。



しかし、僕の方を一斉に見た彼女たちの顔は





笑っていなかった。


夏鈴『...いつになったら思い出すん』


◯◯『...えっ?』


明らかにいつもと違う様子の夏鈴に戸惑う。


保乃『...ここまで言って思い出せへんのやったらもう無理ちゃう?』


掌をヒラヒラと振りながらウンザリしたように言う保乃。


美空『...流石にもうウチら待っとれんよ?もちろん"あの子"も...ね?』


僕の前で笑顔を絶やしたことの無い美空ですら、ガッカリしたような蔑む眼差しを僕へ向ける。


ひかる『...もう終わりにしよっか。今日まで実に退屈な毎日をありがと。じゃあね』


◯◯『まっ...待って!!』


僕の声を無視して冷たく言い放ち立ち上がったひかるに続いて、他の3人も続々と部屋を出ていく。


瞳月『...あーあ...愛想尽かされちゃいましたね...ふふふふ...』


意地悪な声に振り向くと、そこには山下さんの姿が。


瞳月『...意固地にならんとウチに聞いとけば良かったんちゃいます?こんな事になるなら...ね?』


呆然とする僕の部屋に響く彼女の笑い声。


それはまるで悪魔のような...



◯◯:っっっっっ!!!!


再び目を覚ましたのは、見知らぬ場所だった。


◯◯:ゆ...夢...か?


激しい動悸を何とか抑え、周りを見渡す。


ベッドの周りを覆う白いカーテン。


独特の薬品の香り。


ここは...病院?


??:...気がついた?


目の前のカーテンがゆっくりと開き、現れたのは白衣を着た女性。


彼女は優しく微笑み、奥から水の入ったペットボトルを渡してくれる。


??:...ほら、飲んで。落ち着くよ。


◯◯:あ...ありがとうございます...ここは...


??:あぁそうか..."君も"今年からだったね...ここは櫻花高校の保健室。そして私は保険医の山下美月です。よろしくね。


保健室...そうか...僕はまた...


◯◯:...すみません。ご迷惑かけて...


美月:何言ってんの!これが私の仕事じゃん?お礼ならここに君を運んでくれたお友達と理事長に言うんだね。


いたずらっぽくウインクされ一瞬ドキッとしたが、忘れていた不安に気付く。


◯◯:...みんなは?


美月:...流石にいつ目が覚めるかわかんない君の為にあんな大人数ここには置いておけないからさ。一旦生徒会室?に帰ってもらったよ。


あんな夢を見たせいか、みんながいないと少し心細い。


美月:...まぁただの眩暈だと思うから、すぐ戻れるよ。ただその前に1つ...私とお話しない?


◯◯:...お話...ですか?


美月:.........君、記憶喪失なんだって?


急に真剣な顔をした保険医の目を僕はどこかで見たことがある気がした__


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大袈裟に騒ぎながら彼を担架に乗せる"役員様"たち。


私はそれを遠くの窓から眺める。


瞳月:...あーあ...王子様ったら可哀想やなぁ...ぷぷっ...


心にもないことを自ら口に出し、思わず吹き出してしまう。


__とりあえず計画の第1段階は凡そ私の思惑通りに進んでいる。


ここからはもう...文字通り"なし崩し"に。


瞳月:...くく...いつウチに泣きついて来るんやろ...楽しみ...まぁ...生徒会様のお仕事なんぞに1ミリも興味なんかないけどな...あはっ!あはは...


彼はなぜ気付かないのだろうか?


思い出せないのではなく__




__思い出したくないのだ、という事に。


_________be continued.

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