君と僕の行方 第2話
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第2話
~窮地とお人好し
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___私達、付き合わない?
麗奈と付き合い始めて1週間が経つが、僕達の関係は今までとさほど変わらない。
相変わらず保健室登校の彼女とは放課後にしか会えないし、帰りは親が迎えに来るので一緒に帰ることもない。
だけど僕は、毎日のこの少しの時間がすごく好きだ。
今日あった出来事を話し、それを楽しそうに聞いてくれる彼女。
__これが...恋人がいる、という感覚なのか。
考えてみれば人生初の恋人、何をしていいかなどわかるはずもない。
でも何もしなくても、胸の奥が満ち足りていくのがわかる。
改めて麗奈を見る。僕にはもったいないと思うほどの美人だ。
麗奈:なぁーに?麗奈に見蕩れちゃったの?
悪戯っぽく笑う彼女。
〇〇:う...うん...その、美人だなって...
麗奈:あははっ!恥ずかしいのにちゃんと言ってくれるんだね、嬉しい。
彼女は微笑んで近付いてくる。
僕より少し背の低い彼女は僕と向き合うと自然と上目遣いになり、それが僕の心臓を高鳴らせる。
彼女は僕に抱きつくと、胸に顔をうずめる。
〇〇:麗奈...?
麗奈:...こうするとすっごく安心するんだよね...付き合ったんだからこれくらい普通...だよね?
ひかると同じことを言い、照れくさそうにはにかむ彼女。いい香りに鼓動がさらに早くなる。
麗奈:...〇〇、すごいドキドキしてる...
〇〇:そりゃそうだよ...こんなの初めてだもん。
僕はうるさい心臓を無視して、麗奈を抱きしめた。
さっきよりも距離が近くなった感じがして心地良い。
麗奈:ふふっ...もうちょっとこうしてていい?
〇〇:う...うん...
どのくらいそうしていただろう。麗奈の携帯が鳴る。
麗奈:...もー、いいとこだったのに...今日はここまでだね?また明日...
〇〇:うん、また明日...
意味深な言葉を残し、教室から出ていく麗奈に手を振る。
"今日はここまで"...それが何を意味するのか想像しただけでドキドキする。
〇〇:...何か...幸せだな...
今の自分の顔を鏡で見たら、さぞ気持ちの悪いことだろう。口角が自然と上がっていってしまう。
しかし、幸せを噛み締める時間を遮るように、背後で扉の開く音が。
ひかる:...〇〇...?
そこにはひかるが立っていた。
ひかる:今見たことない女の子が出てったけん、気になって覗いたら〇〇がいて驚いたわー!
〇〇:...ひかるもまだ残ってたんだ。
何故だろう。ひかるの顔を見ることが出来ない。
ひかる:放送室で宿題しとったんよ。
〇〇:あぁ、そうだったんだ...
僕達は教室を出て下駄箱を通り、自然と並んで歩き出した。
一緒に帰るのも久しぶりな気がする。
ひかる:...さっきの子、誰?同じ2年生よね?
〇〇:...転校生の守屋麗奈。僕の...彼女だよ。
ひかる:えっ!?付き合っとるん!?すごい!おめでとう!!
自分の事のように喜ぶひかる。この胸に何かが刺さるような感覚はなんだろう。
ひかる:でも...教室で見たことない子やけん...何組の子?
〇〇:あぁ...それは色々あってね...
ひかるに当たり障りのない範囲で麗奈の事情を話した。
もっとも、麗奈が何故保健室登校になっているのか、具体的な理由は僕も知らないが。
ひかる:そうだったんやね...でも、折角やし仲良くなりたいな!
〇〇:毎日放課後ここにいるよ。来る?
ひかる:いやいや!2人の邪魔は出来んよー!私は麗奈ちゃんが普通に登校できる日を待っとるけん。
〇〇:そうだね。それよりひかるは彼氏とどうなの?
ひかる:あぁ...言わないけんと思っててなかなか言えんかったんやけど、お別れしたんよ。
なんとも言えない表情でひかるはとんでもないことを言い出す。
〇〇:えっ!?何で!?
ひかる:…ちょっと...色々あったんよ。
〇〇:そっか...
こういう時なんて声をかければいいんだろう。
ひかる:〇〇が悲しそうな顔せんでよもうー、私は大丈夫やけん。
ひかるはそう言って笑う。僕にもわかる作り笑いで。
〇〇:...なんか辛いなら聞くよ。大丈夫には見えない。
ひかる:...やっぱり〇〇にはバレちゃうか...流石やね...じゃあ、ちょっと寄り道してもいい?
僕達はいつもの帰り道にある公園にやってきた。
近くの自販機で暖かい飲み物を買い、ひかるに渡す。
ひかる:え...いいの?ありがとう。
〇〇:...それで、何があったの?
ひかる:実はね...私に告白してくれた人、夏鈴の好きな人だったんよ...
〇〇:藤吉さんの...?
藤吉夏鈴さんと言えば、"鉄壁"の異名で知られる我が校のマドンナ的存在だ。
ひかるとは小さい頃から家族ぐるみで仲が良く、いつも2人で一緒にいる。
ひかる:私ね...知ってたの。夏鈴がその人のこと好きなの。相談乗ったりしてたけん。
〇〇:...なのに、告白されてOKしちゃったんだ...
ひかる:うん...正直、どうやって断っていいかわからんくて...話したこともないし、付き合ってからも向こうから話しかけてこんし...だから、お別れしたんよ。やっぱり好きじゃないのに付き合うのは無理やって。で、それが夏鈴に知られちゃって...怒らせちゃった...もう何日も話もしてくれん。
〇〇:それは...キツいな...
ひかる:...元はと言えば私がちゃんと断れんかったけん、私が悪いのはわかっとる。でも、話も聞いてくれんから謝ることも出来んくて...
ひかるの頬を涙が伝う。
僕はいてもたってもいられず、立ち上がった。
〇〇:謝りに行こう、藤吉さんの家まで。
ひかる:えっ!?今から!?
〇〇:謝るなら早い方がいい。取り返しがつかなくなる前に、行こう?
ひかる:でっ...でも...
〇〇:大丈夫。僕もついて行くから。ひかるは独りじゃない。
正直僕がついて行って何になるのかと自分でも思う。でも、このままひかるを放っておけない。彼女は僕の大事な...友達...だから。
ひかる:ありがとう...〇〇は本当に昔から変わらんね...
〇〇:...お礼は上手くいってからでいいよ。
僕達は立ち上がって歩き出す。藤吉さんの家はひかるの家からそう遠くない。時間もまだ遅くないし、間に合うはずだ。
ひかる:...なんて謝ればいいんかな?
〇〇:ひかるの正直な気持ちを伝えよう?変に取り繕っても仕方ないと思う。
程なく、藤吉さんの家の前に着く。ひかるがインターホンを鳴らすと、藤吉さんが出てきた。
夏鈴:...何しに来たん。
ひかる:…あのね...夏鈴に...謝りたくて...その...
夏鈴:...私はひかると話すことはないから。
藤吉さんは冷たく言い放ち、ドアを閉める。僕は思わずそのドアを掴んでいた。
夏鈴:っ!?何?〇〇君には関係ないやろ?
〇〇:...そうだね。詳しい事情は分からないけど...でもひかるの話を聞いてあげて欲しい。このまま2人が...離れてしまうのは...見たくないんだ...お願いします...
深く頭を下げる僕に藤吉さんがどんな顔をしたのかは分からないが、ドアを閉めようとする力が緩むのがわかった。
夏鈴:...入って。
ひかる:...うん...〇〇は...
〇〇:ここで待ってるよ、大丈夫。
ひかる:ありがとう...
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携帯を見る。あれから1時間ほどが経つが、大丈夫だろうか...
そんなことを考えていると家のドアが開き、ひかると夏鈴が出てくる。2人とも笑顔だ...よかった...
ひかる:遅くなってごめんね?寒かったよね?
〇〇:いや、大丈夫だよ。
ひかるの後ろから藤吉さんが申し訳なさそうに顔を出す。
夏鈴:あの...〇〇君、さっきはごめんな?あんな風に言っちゃって...
〇〇いやいや!全然気にしてないよ!こちらこそ急に押しかけてごめんね。
夏鈴:...それにしても…○○君見た目より根性あるんやな。見直したわ。
ひかる:…ふふっ...そうでしょ?
夏鈴:…ひかるにはホンマは...いや、何でもない。2人とも気をつけて帰ってや?
ひかる:うん!また明日ね!
笑顔で手を振るひかると共にまた歩き出す。
ひかるの家はもうすぐそこだ。
ひかる:...改めてありがとう。〇〇の言う通り、行ってよかった。〇〇のおかげやね。
〇〇:いや、ひかるが勇気出したからでしょ?僕は話聞いただけ。
ひかる:...〇〇...あのね...
〇〇:...ん?
ひかる:______て...ほしい...
急に強い風が吹き、ひかるの言葉は途切れ途切れにしか聞こえない。
〇〇:ごめん、聞こえなかった。なんだって?
ひかる:んーん!やっぱりいい!いつか必ず言うけん!
〇〇:なんだよそれ...気になるなぁ…絶対教えてよ?
ひかる:ふふふ...約束する!またね!
彼女は笑顔で家へ入っていった。
僕も何だか清々しい気持ちで帰路に着く。
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帰っていく彼の後ろ姿を窓から眺めながら、私の頭には色々な想いが浮かんでいた。
彼の事は好き。でも、この気持ちは恋愛感情なんだろうか...わからない。
ひかる:...私にとっての...〇〇って...何なんやろ...
彼の姿が見えなくなっても、その答えが出ることはなかった__
______________be continued.
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