君と僕の行方 第1話
___全ての時が止まったかのように、僕の耳には何の音も聞こえなくなった。
視界が明滅する。今、なんて?
ひかる:私...彼氏...出来た...
〇〇:...そっそうなの!?それで...こんなことしてて...いいの?
僕に抱きついたまま離れない彼女に何とかそれだけ絞り出す。
ひかる:これは...そういうのとは...関係ないけん...〇〇の匂い...安心するんよ...だめ?
そんな上目遣いでお願いされて断れる男がどこにいるだろうか。
〇〇:ま、まぁ...ここでなら誰にも見られないからいいんじゃ...ない?
彼氏が出来たと別の男に抱きつきながら宣言する彼女もなかなかだが、それを承諾してしまった僕もまともではないなと思う。
ひかる:へへ...ありがと...
照れくさそうに笑う彼女はとても可愛い。
何でこれで僕が彼氏じゃないんだろう。些か理不尽ではないだろうか?
〇〇:それで...どんな人なの?
ひかる:んー...まだわかんない...話したことない人やったから...
僕は初対面の男に負けたのか...そもそも誰なんだ。いや、でも顔など見たくもない。苦しみが増すだけだ。
〇〇:そっか...優しい人だといいね...
僕は抱きつくひかるからそっと離れ、帰り支度をする。いつもなら一緒に帰るのだが、今の彼女と一緒にいるわけにはいかない。
〇〇:それじゃ...また、明日ね。
ひかる:うん...またね。
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第1話
闇の先の光
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__出ていく彼の後ろ姿を見送った私は、その場に座り込んだ。自分が最低な人間であることなど分かっている。
ひかる:...ごめんね...〇〇
私は床に向かって、たった今傷付けた親友の名前を呟いた___
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放送室から出た僕は、込み上げる感情を堪えられず、空き教室に飛び込んだ。涙が自然と溢れてくる。
〇〇:...くそっ...何でこんな...
誰もいない教室の床に這いつくばりながら何度も呟いた。何故?と。
僕は彼女が好きだ。こんな風になった今でも。
でももう何をしても無駄なんだ。彼女はもう僕のものにはならない。
だったらこのままいい人ぶって彼女のそばに居続けるのが正解なのか?彼女の幸せを願うふりをして。
無理だ。そんなこと、出来るわけがない。
制服が涙と鼻水で汚れるのも気にせず、僕は泣いた。溢れ出る感情と共に止められない涙。
??:あのさ...泣いてるとこ悪いんだけど...
〇〇:...うわぁっ!?
??:いや...私がいるの気付いてなかったの!?いや...でも気付いててあんな泣けるわけないか...
急に声を掛けられて心臓が跳ねる。どうやら空き教室には先客が居たらしい。
顔を上げると、そこには知らない女子生徒の姿が。
??:...とりあえず...大丈夫?ほら、ティッシュ。
彼女は僕にティッシュを差し出した。
〇〇:ありがとう...ござい...ます。
涙と鼻水を拭き、彼女を見る。制服に着いたワッペンで同学年であることは分かるのだが、1度も見た事のない顔だ。
??:私、守屋麗奈。まだ転校してきたばっかりだからあんまり友達いなくて放課後いつもここにいるんだよね...君は?
〇〇:僕は...〇〇。川合〇〇。
麗奈:川合〇〇くんかー、下の名前で呼んでもいい?麗奈の事も呼び捨てでいいよ?
〇〇:...うん。
守屋麗奈、と名乗った彼女。転校生だったのか。どうりで見知らぬ顔だったはずだ。
改めて見ると、とても美人な人だ...。京介辺りが転校初日に騒いでいてもおかしくない。
麗奈:それにしても...あんなに泣いてどうしたの?もし嫌じゃなかったら麗奈に話してみて?ほら、喋った方が楽になるぞー?ってよく言うじゃん?
いやそれは刑事が犯人を自供させる時のやつ...まぁいいか。見ず知らずの人になら逆に話しやすい。気付けば僕はひかるとの事を全て彼女に話してしまっていた。
麗奈:...なるほど...前から大好きだった子に彼氏が...しかもフラれた次の日に...?何か...蹴ったり踏んだりだね?
...多分『踏んだり蹴ったり』だと思うのだが、横槍はやめておこう。全て話したせいか、気持ちが少し楽になった。少し抜けているような気はするが、よく考えたらすごくいい人だ。
麗奈:...それで、〇〇はその子のこと...諦められないの?
〇〇:...分からない...でも、ひかるの邪魔はしたくない。
麗奈:ふふっ...優しいんだねっ。じゃあさ、明日から放課後麗奈とここでお話しない?友達になろうよ!私何か〇〇の事もっと知りたくなっちゃった!
〇〇:麗奈...さん...
麗奈:呼び捨てでいいってば!私とお喋りして少しでも気晴らしになるといいなっ。
そう言って彼女は笑った。眩しいくらいの笑顔で。
僕の心臓がまた音を立てて跳ねた。
___その日から毎日、僕は放課後放送室で仕事を終えると、例の空き教室へ出向いた。
ひかるとはあれから少し気まずくて、挨拶くらいしか出来なくなっているが、ひかるの方は遠慮なく話しかけてくるので大丈夫だろう。
どんなに遅くなっても麗奈はいつも待っていてくれた。
麗奈:今日は早かったね!昨日より25分も!
〇〇:昨日はごめんって...っていうか毎回測ってるの!?
麗奈:もちろん!楽しみなことは待てないから!でも今日は早かったから罰ゲームはなしね?
〇〇:それはほっとするよ...
麗奈は僕が遅くなると、決まってなにか"罰ゲーム"を要求してくる。モノマネしろとか、変顔しろとか...正直恥ずかしいが、何をやっても麗奈は笑ってくれるので不思議と嫌ではなかった。
〇〇:そういえばさ...麗奈って何組なの?
僕は何となく聞いてみた。普段学校で、この空き教室でしか麗奈の姿を見たことがなかったから。
麗奈:...麗奈ね、まだクラス決まってないんだ。所謂、保健室登校ってやつ?
〇〇:...え?どういう事?
いつも明るい彼女の顔が少し曇る。
麗奈:前の学校で色々あってね...それで...大勢の中にいるのが怖くなっちゃったんだ...周りの人達の視線が怖くて...どうしても教室に行く勇気が出なくて...
額が少し汗ばむのを感じる。まだ出会って1週間程だが、こんな弱々しい麗奈を見るのは初めてだ。
〇〇:...誰にでも苦手なことはあるよ。少しずつ...麗奈のペースでやっていけばいいんじゃない?
僕はありきたりな慰めの言葉しかかけられなかった。
でも、力になりたかった。あの日僕を助けてくれた彼女のこんな顔は見ていられなかった。
麗奈:ふふ...ありがとう。やっぱり優しいんだね?もうちょっとで...好きに...なっちゃうところだった。
〇〇:...え!?
麗奈:あははっ!冗談だよっ!さっきの顔...最高に面白かった!あはははは...写真撮っとけばよかったー!
〇〇:なんだよもう...驚かせるなって...
先程の曇った表情はどこへやら。彼女はしばらく笑っていた。よく見ると目に涙が...泣くほど面白い顔してたかな...でも急にあんなこと真剣な顔で言われたら誰でもそうなると思う...
麗奈:ねぇ、私たち...付き合わない?
〇〇:...それもまた冗談なんでしょ?
疑いの目で彼女を見る。彼女は笑顔のまま近付いてくると、僕の肩に手を置き耳元で囁く。
麗奈:...麗奈、〇〇の事本気で好きになっちゃった...かも。
〇〇:っ!?
身体が何メートルも跳ねたような感覚。
耳に息が当たるくすぐったい感触。
そして...麗奈の口から出た信じ難い言葉。
〇〇:えっと...その...
麗奈:麗奈が"ひかるちゃん"の事...忘れさせてあげる...〇〇は麗奈の事...好き?
狼狽える僕の耳に彼女は囁き続ける。脳裏に浮かんだのは...ひかるの顔。
でも____
〇〇:...好き...かも。
__僕は正直な気持ちを吐き出した。
_____________be continued.
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