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君と僕の行方 第6話

__蝉の声が五月蝿い7月。世間は夏休みだと言うのに僕は図書館で真面目にお勉強だ。


高校受験が日に日に近づき、謎の緊張感と闘いながら、ようやく勉強に本腰を入れられるようになったという訳だ。


〇〇:ふぅ...こんなところかな...


一息ついて隣を見る。参考書片手に真剣な表情の彼女。僕はその横顔をしばらく眺めた。


ひかる:...ん?どうしたん?


〇〇:ううん…ちょっと休憩してた。


ひかる:ふふ、そうなん?じゃあ私も休憩ー。


僕の視線に気付いた彼女は微笑んでペンを置いた。気付けばもう時刻は昼。


〇〇:お腹空かない?


ひかる:...言われたら急にお腹空いた!もうお昼やったんね。


〇〇:何か買いに行こうか。


僕らは図書館の売店で昼食を買い、休憩スペースで食べることにした。


ひかる:最近ちょっと勉強楽しくなってきたかも。


梅のおにぎりを頬張りながら満足気にひかるは言う。ハムスターみたいだな...


〇〇:...それは思った。


ひかる:こないだの模試も大丈夫そうやったし、このままやってけば2人とも行けそうやね!


〇〇:...そうだね。


最近は自分でも驚くくらい勉強に身が入っている。きっかけは...やはりあの占い師の言葉だと思う。





『運命を信じなさい。どんな事があっても』




〇〇:(…運命...か)


ひかるとは相変わらず何も進展していないし、彼女が何を考えているのかもわからない。


でも、僕は信じようと思う。好きになった人との運命を。それが例え気休めだったとしても、今の僕には大きな力を与えてくれているような気がする。


ひかる:...お得意の考え事?


〇〇:あぁ...ごめんごめん。


ひかる:...ふふ...その顔...結構好きやけんね...?


彼女が笑って何か呟いたが、僕にはよく聞こえなかった。


〇〇:えっ?何か言った?


ひかる:ううん、何でもない!あっ、あれ見て!


何かに気付いたのか、壁を指さす彼女。


〇〇:...花火大会?


壁には大きなポスターが貼られており、これまた大きな文字で『花火大会』と書かれていた。


ひかる:そういえば今年ももうそんな時期やねー。


〇〇:随分長いこと見に行ってないな...


ひかる:...一緒に...行かない?たまには気晴らししても...いいよね?


今度ははっきりと聞こえる音量で、彼女がこちらを見ずに呟いた。


〇〇:そうだね。久しぶりに見たいし、行こうか。


ひかる:えへへ...やった...浴衣来ていくね?


〇〇:浴衣...家にあったかな...


確か去年母親が夏祭りの為に買ってきてくれていたものがあったはずだ。その年は僕の体調が悪く、結局1度も着ることはなかったのだが。


花火大会は今週末...僕はひかるの浴衣姿を想像して少しドキドキしてしまった。


ひかる:...楽しみやね...?


〇〇:うん...


彼女は先程からこちらを見ないが、耳まで赤くなっているのは分かる。僕も顔が熱くなるのを感じた。



___数日後。



まだ蒸し暑さの残る夕方。僕は着慣れない浴衣に身を包み、ひかるとの約束の場所で待っていた。



携帯を見る。約束の時間まで30分以上ある。



〇〇:...ちょっと早く来すぎたな...



待ち合わせ場所の大きな桜の木。今の時期はもちろん花は咲いていないが、それでも待ち合わせ場所としてはよく使われる。今日も花火大会に行くであろう人達でいっぱいだ。



〇〇:...緊張してきたな...



ひかる:...緊張しとるん?


〇〇:うわっ!ひかる!?


ひかる:...ふふ、相変わらず考え事してたん?目の前来るまで気付かないなんて。


ひかるが僕を見上げながら笑う。人が多いのでいつもより距離の近い彼女にドキドキしてしまう。


〇〇:...早かったね...


ひかる:〇〇はいつも絶対早く来て待っててくれるけん、今日は私も早く来てみた!


〇〇:...浴衣...似合ってるよ…すごく可愛い。


言ってから猛烈に恥ずかしくなる。彼女らしい色の浴衣は本当に似合っていて、そんな言葉が思わず口をついて出てきてしまった。


ひかる:え!?そ...そう?あ、ありがとう...〇〇も...かっこいい...よ?


〇〇:...ありがとう...


お互い急に照れくさくなって俯いてしまう。もどかしい雰囲気も今は好きになれそうだ。



〇〇:行こうか...



ひかる:...うん...あ、あの...手...繋いでてもいい?



〇〇:...もちろん。



まだ俯いたままの彼女の手を握る。しかし彼女はいつもの握手のような握り方ではなく、指を絡めてくる。



〇〇:っ!?ひかる...?



ひかる:...今日は...なんか…そういう気分やけん...



急に心臓が全速力で動き出した。これではまるで...恋...人...みたいな...



ひかる:...行こ?



恥ずかしそうにはにかむ彼女にドキドキしっぱなしのまま、僕らは花火大会の会場へと向かった。



毎年この日になると近くの商店街には、夏祭りの出店が沢山並ぶ。



ひかる:あっ!フルーツ飴食べたい!チョコバナナと...あと綿あめと...



先程からの緊張もだいぶ解け、子供のようにはしゃぐ彼女が愛おしい。



〇〇:ふふふっ...両手塞がってるじゃん。



ひかるは片手にフルーツ飴、もう片方にチョコバナナを持ってご機嫌だ。



ひかる:お祭りの食べ物大好きやけん、いっぱい食べたいの!



結局僕は焼きそばやらたこ焼きやらの入った袋を両手に抱え、彼女の後を着いていく。楽しそうな彼女を見ていると、僕も気分が高まってくるのを感じる。



ひかる:ここ座ろ?ちょうど始まるところみたい!



食べ物を大量に抱えた僕たちは無事会場の河川敷に到着する。もう辺りは暗くなっていた。



ひかる:楽しみー!何発上がるんやっけ?



〇〇:確か...5000くらいじゃなかったかな。



僕らの地域ではかなり規模の大きい花火だ。それもあって見に来る人もかなり多い。



買った食べ物を食べながらそんな話をしていると、1発目の花火が大きな音を立てて空に打ち上がる。



ひかる:わー!!すごい!綺麗...



花火に照らされた彼女の横顔は、いつもよりもすごく綺麗で、見蕩れてしまう。



〇〇:...綺麗...だね。



その後も次々と上がる色とりどりの花火を僕達は夢中で眺めた。



ふとひかるが僕の手に自分の手を重ねてくる。



彼女の方を見ると、彼女もこちらを真剣な眼差しで見つめていた。



ひかる:...あのね…前に言いかけて言えんかった事...覚えとる?



〇〇:...うん、いつか教えてくれるんだよね。



ひかる:そう。決心ついたけん言おうと思って。



彼女は大きく息を吐く。何だろう?もしかして期待してもいいのだろうか。鼓動が早まる。



ひかる:...私ね...〇〇のこと...好きだよ?大好き。
...でも、これが恋愛感情なのかどうしても分からないんよ。今まで何度もこの気持ちのまま〇〇と一緒にいていいのか悩んどった。いっそ告白しようか...って考えとったこともあったの。


彼女の手は震えている。


ひかる:...でも、中途半端な気持ちじゃやっぱり〇〇に申し訳ない。だから...だから私が本当に〇〇のこと恋愛対象として...好きになれるまで...待っててくれますか?自分勝手なのは分かっとる...でも...


〇〇:待つよ。


僕はいても立っても居られず彼女の言葉を遮った。


ひかる:〇〇...


〇〇:...いつまででも待つよ。僕はひかるを...待ってるよ...。


それしか言葉が出てこない。彼女の気持ちをようやく聞くことの出来た安心感と、彼女の言葉が期待したものと違った寂しさで。


ひかる:...ありがとう...


彼女はそう言って、僕の肩に頭を預けた。


僕らを照らす八重芯は、美しく開いては闇に消えていく。それはまるで恋のように儚く、この世のどんなものより美しく感じた。


どうか終わらないで欲しい。このまま時が止まればいい。そう思える程に__


______________be continued.

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