From my past 第6話~過去と現在~
__僕は過去に縛られているんだろうか。
思い出すことさえ出来ない朧気な過去に__
______________
第6話
"過去と現在"
_______________
部屋の前で蹲る僕を意外に強い力で抱え込み、ひかるは自分の部屋へと連れて行ってくれた。
◯◯:...ご...ごめんね...
ひかる:...気にせんでいい。それにしても美空に何言われたん?全くあの子は...
『不確かな過去を探すより...幸せな未来を見た方が...いいんやない?』
一ノ瀬さんの言葉がまた蘇る。
◯◯:...僕は...
ひかる:...言いたくなければ無理に言わんでもいいけん。
◯◯:...ひかる...ごめん、ありがとう。
ぶっきらぼうに言いつつも背中に優しく手を添えてくれるひかる。早かった動悸も徐々に落ち着いてきた。
ひかる:...◯◯は優しすぎるんよ。
◯◯:...えっ?
ひかる:...前言ってくれたよね、『自分に正直に』って。だから私の正直な気持ち話すけん、聞いてくれる?
その大きな瞳には僕を頷かせるだけの力があった。
ひかる:..."あの子"にそんなに縛られなくてもいいんよ。◯◯は◯◯の好きなように生きればいい。他に好きな人が出来たなら、きっと"あの子"も...納得してくれるけん...だから大丈夫。きっと大丈夫やけん。
小さくか細い声には強い意志が籠っていた。
__まるで自分に言い聞かせるかのように。
◯◯:....うん。ありがとう。いつも僕のこと気にかけてくれて。ひかるだけじゃないけど、みんなが僕のそばに居てくれて本当に嬉しい。
ひかる:えっ...!?いやあの...別にそう言う訳じゃ...うぅん...いや...そうかも...えぇと...うん...気にせんで...
顔を真っ赤にして口篭るひかるに思わず笑みが零れる。
◯◯:...ふふっ...でもね。
ひかる:...ん?
◯◯:決めたんだ。"あの子"を迎えに行くって。僕にとってとても大事な人なんだ...きっと...
僕の言葉を聞いたひかるの表情は
少し寂しそうな...笑顔だった。
ひかる:...そっか。それなら私も文句はないけん...協力する。
そう言うとひかるは机の引き出しから何かを取り出した。
ひかる:...これ。私の小さい時のアルバム。◯◯とかみんなも写っとるよ。
綺麗に保管されていたであろうピンクのアルバムを開くと、何だか見覚えのある景色と顔ぶれに懐かしさを感じる。
◯◯:...この写真...。
目に止まった一枚の写真。幼少期の僕の右手には包帯が巻かれている。
満面の笑みの僕の傍らには、ひかるたち3人の姿もあるのだが...3人の表情は暗い。とても記念写真とは思えないくらいに。
ひかる:...あぁ、その写真の前の日に◯◯が大怪我しよったけんね...大変やったんよ?
苦笑いしながらも懐かしそうに笑うひかる。しかし僕は別の事を考えていた。
◯◯:その"大怪我"の事...詳しく覚えてない?どこで怪我したとか...
ひかる:...溺れたんやって、川で。
◯◯:...溺れた?
ひかる:...うん。流れの早い川だったみたいで、流されてる途中で大きい岩にぶつかって...それで大怪我した...って聞いとるよ...私はそこにはおらんかったけん...詳しくは...わからんけど。
写真を見ながら語るひかるの表情が急に固くなる。
思い出したくない事でもあるかのように。
空気が少し重くなり、続きを聞く気にはなれなかった。
しかし、この傷は『幼少期川で溺れて出来たもの』だと分かっただけでも前進だ。
それにしても、そこまでの大怪我を全く覚えていないと言うのもおかしな話だが。
また右手が少し疼いた気がした。
◯◯:そっか...ありがとう。話してくれて。
ひかる:...ううん、大丈夫。それとさ...
なんとも言えない表情のままこちらを見て、ひかるは言った。
ひかる:...."お母さん"の事...どのくらい覚えとる?
予想していなかった質問に少し戸惑う。
◯◯:...えっ!?母さんの事?もちろん覚えてるよ...。一昨年亡くなるまで一緒に暮らしてて...紅茶が好きで.........あれ?
よくよく考えればそれ以外に覚えている事がない。
__なぜ?
ひかる:...そっか。ごめんね、辛いこと思い出させて。
困惑する僕をひかるは後ろから優しく抱き締めてくれる。
ひかる:...ウチらがおるけん、大丈夫。寂しくないよ。大丈夫やけん...
ひかるはまたも自分に言い聞かせるように『大丈夫』と繰り返す。
僕は頭の中に浮かぶ数々の疑問と朧気な記憶の波に飲まれ、段々と意識が薄れていった__
_________be continued.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?