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Missing 第8話

薄暗い部屋の中心に置かれた円卓に腰掛けた何人かの人々__


彼らは互いを気にすることもなく虚空を見つめている。その目は暗く濁っているが、どこか貪欲な光を灯していた。


やがて部屋に1人の人物が入ってくる。恐らくリーダー的な立ち位置の人物なのか、腰掛けていた全員が立ち上がり、深々と一礼した。


??:やぁ、皆御機嫌よう。座ってくれたまえ。


彼の言葉に全員が再び円卓につく。人数は全部で12人。


??:...皆に集まってもらったのは他でもない。とうとう..."あれ"を見つけた。


静かだが、興奮の入り交じった彼の声に、


?:なんと!ついに!?


?:ようやく我々の悲願が...


?:...どこにいるのです?まさかこの日本に?


それまでの雰囲気が一変し、他の全員がざわつき出す。


??:まぁ落ち着きたまえ。見つけたとは言ったが少々厄介事も付帯している。喜ぶのはまだ早いぞ?


リーダーらしき人物は一息付き、全員を見渡してから、言った。


??:”あれ"は今いくつかに分裂している。宿主が何人いるのかは把握出来ていないが、少なくともわかっているだけで4人...


?:4人!?なんと面妖な...


??:あぁ、全くだ。しかし我々の悲願と目的は変わらない。まずは、その人物らと接触を試みる。


彼は立ち上がり、もう一度全員の顔を見た。


??:...親愛なる我が同士達よ。今こそ各々が力を発揮する時がやってきた。我らが"機構"の為、全力で任務に当たってくれたまえ。


?『...御意』


部下らしき人物が全員部屋から出て行った後、彼は再び椅子に座り、顔の前で手を組んだ。


??:ようやく見つけたぞ..."亡失せし者"...

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第8話

~面影~
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『それじゃあ今日はここまで!皆お疲れ様でしたー!』


『お疲れ様でした!ありがとうございました!』



ダンサーさんの一声で、今日のレッスンも終わりを告げる。



サキとの一件から2週間程経っただろうか。私はそれまでの驚くべき出来事の連続が嘘のように元の日常を過ごしていた。



もうすぐ櫻坂46の2ndツアーが始まることもあり、連日のレッスンにも気合いが入る。



天:ひかるー?この後はー?



ひかる:私は今日レッスンだけー。天は?



天:私は夏鈴と麗奈と取材やってー。



ひかる:え、その3人珍しいね?



天:そーやろ?私も思った。飛び入りの取材みたいで。



最近多い飛び入りの仕事。少しずつ知名度が上がっている証拠でもあるが、何せこの時期は忙しい。




ひかる:無理せんでね?お家でご飯作って待っとるけん。



天:うん!ありがと!



私は天と一旦別れ、マネージャーさんの車に乗り込み、帰宅した。



着替えてリビングのソファに座る。時刻はまだ13時を回った所だ。



ピ:...おかえり。おや、ひかるだけか?



ソファでスマホを眺めているとピーターが隣に跳んできた。



ひかる:ん、ただいま。天はまだ仕事残ってたけん先帰ってきた。



ピ:そうか。



ピーターの頭を撫でながら私は天井を見上げる。



ひかる:あのさ、ピーター。



ピ:どうした?



ひかる:...サキの所、行ってみない?




__あれからずっと気になってた。自分のこと。


私は自分を普通の女の子だと思ってた。でもどうやら違うみたいで。


まさかファンタジーの主人公ばりにあんな経験するなんて思ってもみなかった。当たり前だけど。


ピーターの力を取り戻し、元の世界に返してあげる前に、まず知らねばいけない。自分のこと。



...私は何者なの?



ピ:...知りたくなったのだな。いいだろう、私も聞かねばならんことがある。



ひかる:ん、ありがと。



私は首に掛けた首飾りを握って念じてみた。



ひかる(サキ...?お話したいけんそっちに行ってもいい?)



その瞬間。


ひかる:っ!!


目の前の景色は自宅から”あの神社”へと変わっていた。


サキ:よう来たのう...


目の前に現れたサキは優しく微笑む。


ひかる:急にごめんね?色々聞きたくて...


サキ:分かっておる。遅すぎると思うた位じゃ...おや、堅物兎も一緒か。


ピ:...堅物とは心外だな。私も聞きたいことがある。


サキ:ふっふっふ...よかろう。あちらで座って話そうか。


サキの後に続く。誘われたのは大きな桜の木の前の小さなテーブル。

ひかる:...すごい。綺麗。


時期は夏真っ盛りだが、桜の木は満開で、思わず目を奪われてしまう。


サキ:この神社の御神木じゃ。"彼奴"がこの下に眠っておる...そのせいか花が散ることがないのじゃ。


"あやつ"とサキが語る人物。大昔にサキをここに封印し、共に暮らしたと聞いた。そしてその生まれ変わりが私たちかもしれない...とも。


ひかる:...今日はね、"その人"のこと...詳しく教えて欲しいの。


サキ:...よかろう。お主には聞く権利がある。さて...まず何から話そうかのう...


ピ:…待ってくれ。先に私の質問に答えてもらう。

サキ:…おや…随分と焦っておるのう…よいか?ひかる。


ひかる:私は構わんよ?多分私たちも気になってることやけん。


ピーターは一息置いた後、ゆっくりと話し始めた。


ピ:…単刀直入に聞こう。"誰に唆された"?

途端に空気が張り詰めたような気がした。


唆された…ってことは…サキに"あんな事"をさせた誰か黒幕的な人がいる…ってこと?


サキはふう、といきを大きく吐き、私たちを真っ直ぐ見つめた。


サキ:…当然の疑問よな。しかし、すまなんだが妾はその答えを持っておらぬ。ただ一つ言えるのは…頭に響いたのじゃ…声が。思い出すのもおぞましい気配...その後は自分の中の悪しき心の赴くまま…あのようなことをしてしまった。折角"彼奴"が癒してくれたにも関わらずじゃ...本当に情けない事じゃて...


ひかる:…声?


サキ:...如何にも。何度も何度も頭に響いたのじゃ..."力を取り戻したいか?"と。"昔のように暴れ回りたくはないか?"と。


背中が寒くなる。私にも似たような声が聞こえたから。


"力が欲しいか?"と。


ピ:...成程。やはり何者かが裏で糸を引いている事は間違いないようだな...その人物に心当たりはあるか?


サキ:...すまなんだが全くない。そもそも妾が暴れ回っておった頃、妾に敵うものなどおらんかった。ましてや指図するような者も...な。


確かに。あれ程の力を持ったサキを裏で操るなんて...どれほどの存在なんだろう...


アニメで敵のボスを主人公達がギリギリで倒した後、本当の黒幕が現れて絶望するシーン。何度も見た。


サキ:...じゃが一つだけわかる事がある。


ピ:...何だ?


サキは少し厳しい表情を見せ、声のトーンを下げた。


サキ:...妾よりも強大な力を持っておるなら、こんな回りくどいやり方などせん。妾を閉じ込めていた結界を解いて、好き放題暴れさせれば良かったのじゃからな...それをしてこんという事は...


ひかる:...力ではサキを抑え込めないから、わざわざあんな事させたって事?


サキ:...その通りじゃ。昔殺し合った多くの物の怪の中にも、幾つか似たような奴がおった。力はないが、操る事に長けている者...妾を拐かしたのも、そんな奴な気がするのじゃ。


ピ:...ふむ...確かに筋は通っている...


ピーターは俯いて少し考え込んだ後、サキに向き直る。


ピ:...情報提供に感謝する。今後ももし何か気付いたことがあったら、教えて欲しい。


サキ:ほっほっほっ...殺されかけた相手にすら縋らねばならん事情...か。よかろう。お主はひかる達の友人...妾に出来ることがあれば協力しよう。


ピ:...ひかる。話の腰を折ってしまって済まなかった。私の質問は終わった。改めて聞きたいことを聞くといい。


ひかる:う...うん。


サキ:"彼奴"の事を聞きたいんじゃったな...


サキは満開の桜の木を眺め、懐かしそうに話し始めた。

サキ:彼奴の名はアキ。お主らも知っての通り、当時好き放題しておった妾を初めて負かし、ここに封印した人間じゃ...。あの子は本当に"不思議な力"を持っておった。


ひかる:...その力って?


サキは私の顔をじっと見て、口を開いた。


サキ:ひかる...天...お主らが使っておった力にそっくりじゃった。人間とは思えぬ膂力、素早さ、癒す力...他にも様々じゃ。それに...あの眼...


言われて思い出す。力を望み、サキに立ち向かった私に彼女は『何故お前がその"眼"を!?』と言っていた。


ひかる:...どんな眼?


サキ:...この桜の木と同じ色に輝く眼じゃ...彼奴が力を使う時...彼奴の眼は普段の黒目から鮮やかな桜色に変わる...


桜の色...つまりピンク色...か。ピーターがいつも言っている"サクラ"の力...力を取り戻す度その額に増えていく桜の花びらのような痣...そしてサキの言う"桜色の眼"...


私たちが見舞われている世にも奇妙な出来事の数々は、余程桜に縁があるみたい。


そして私たちが所属しているアイドルグループは"櫻坂46"という名前だ。


何か関係があるんだろうか...


ひかる:そっか...それで...その...どうして私たちがアキさんの生まれ変わりだと思ったの?


サキ:...ひかる。"あの時"のことを思い出してみよ。力を...使ってみるのじゃ。

ひかる:...え!?何で!?


突然の申し出に心底驚く。


サキ:言われるより実際にやってみた方が早いと思ってな...そこの堅物。

ピ:...私は堅物という名ではない。ピーターだ。


いやここで謎の言い合い...


サキ:ぴ...ぴぃたぁ?南蛮の名前かぇ?ほっほっほっ...妾にはちと難しいのぉ...

ピ:...くだらない...早く話を進めてくれ。


サキ:…そう怒るでない。お主、ひかるが力を使うのを止めておるな?


ひかる:...そうなん?


ピ:...当然だ。"あの力"は人間が使うには危険すぎる...黙っていたことは...済まない。


ひかる:いや、いいんよ。私の事考えてそうしてくれたなら。


サキ:...ひかる。お主はどうしたい?


ひかる:えっ...どういうこと?

サキ:...その力...使いこなせる...と言ったら?


衝撃の言葉。あまりの事に言葉を失ってしまう。


使いこなす...?あの力を?少なくともあの時はそんな余裕はなかった。


ピ:...莫迦なことを。あの力を人間に使いこなせるはずがない。


サキ:ふははっ!だからお主は堅物だと言うんじゃ。ひかるの友人なんじゃろ?ならば信じることもせねばいかんのではないか?


ピ:...


先程まで激しく反論していたピーターが黙ってしまう。

ひかる:あの...2人とも...



ピ:...いいんだ、ひかる。私が間違っていたのかもしれない...彼女の言う通りだ。私はひかると天が心配であるあまり、君達を信頼出来ていなかった。これからの事を考えると、たしかにあの力は必要だ。



サキ:ほっほっほっ!思うていたより素直なようじゃ...ならば後はひかるの意思じゃな...正直に答えれば良い。



ひ:...私...は...



何度も蘇るあの時の光景。



しかし、私の心に強く残っているのは恐怖ではなく...




__強い後悔だった。



あの時、私が自分の弱い気持ちに呑まれることがなければ...力を使いこなせていたら?



みんなをもっと安心させられたかもしれない。



そしてこれからも...みんなを護れるかもしれない...!



考えるまでもなかった。



ひかる:...私に...使いこなせるの?



サキ:...妾はお主を信じておる。それにお主達には本当に不思議な力を感じるのじゃ...彼奴の面影とは関係なく...な。



サキの表情はとても優しい。本当に私のおばあちゃんになったかのように。



ピ:...具体的にはどうする?



サキ:...まずはひかるに力を解放させる。その状態で自我を保てるようになるまで訓練するのじゃ。



ひかる:...でもそれだとこの前みたいに...暴れちゃわない?



サキ:...もちろん妾が抑えるとも。心配せんでいい。



ピ:...私も協力しよう。



2人はお互いに目を合わせたあと私の方を見て頷いた。



ひかる:...わかった。私も2人を信じるけん...でも具体的にどうすればいいん?



ピ:...私はあの戦いの後、ひかるの力が外に漏れ出ないよう"枷"をかけた。それを今から外す。心の準備はいいか?



ひかる:...うん。



ピ:...では行くぞ。



ピーターが私の額に触れると、変化はすぐに現れた。



ひかる:頭が...熱い...



あの時もそうだった。頭に感じた熱は全身に行き渡り、力が漲るのを感じた。



と、同時に、足先から這い上がってくる激しい怒りと憎しみが私の身体の自由を奪う。



ひかる:...ぐっ...あぁ...サキ...ピー...ター...ダメ...これじゃ...また...



サキ:...ひかる。妾の目を見るんじゃ。怖がらんでいい。



ピ:ひかる、大丈夫だ。君なら必ず出来る。



2人の掛けてくれる言葉も朧気になり、私の意識は次第に遠のいていった...


______________be continued.

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