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"オタメシカノジョ"第4話

階段をやや乱暴に駆け上がる。大学内のエレベーターは当然屋上まで行くはずもなく、私は長い階段を登らざるを得なくなっていた。


___全く...何でいつもこんな苦労してまで彼は屋上にいたのだろう。気が知れない。



しかし今はそんなことはどうでもいい。




決着をつけなければ。



_____彼女と。


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第4話
"タイケツ"
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屋上に出る扉を勢いよく開けると、少し離れた位置にベンチが置いてあり、2人の女子生徒が座っている。


その内の一人、"一ノ瀬美空"の前へと立つ。


和:...一ノ瀬美空ちゃん...だよね?私××学部の井上和。ちょっといい?


私の言葉に"彼女"は笑顔を見せる。



___絵に描いたような"ツクリモノ"の笑顔を。


美空:...あっ!"◯◯の幼馴染のナギちゃん"よね?よく話聞いとるよ!どうかした?


和:.........っっ!


自分でも頬がひきつるのが分かる。わざわざ彼の名前を出す辺り友好的でない事ははっきり伝わってきた。


いけない。ここで彼女のペースに乗せられては。


1度小さく息を吐き、私は彼の部屋から持ってきた紙切れを掲げた。


和:...これ。"オタメシカノジョ"って...どういう事か説明してくれる?


少しくらいは驚くかと思ったが、彼女は笑顔を全く崩さない。


美空:あらら...見ちゃったん?もう...◯◯ったらおっちょこちょいやね...説明も何も...そこに書いてある通りやけん...


和:...何でこんなことしてるの?"恋人のフリ"なんかして...何が目的?


美空:...ルールの2番。読んで?2人だけの秘密なの。


確かにルール2には"他言は無用"と書いてある。


しかしそんな事は私には関係ない。


和:...言葉遊びがしたいんじゃないの。こんなのおかしい。


美空:...おかしいも何も...◯◯は全部分かった上でそこにサインしとるんよ?申し訳ないけん...これ以上言えることはないの。ごめんね?


謝意など全くない言葉に、私の怒りは限界に達した。


和:...そんな事はどうでもいいの!あなたは◯◯の時間を無駄にしてる!こんな事...もうやめて!


半泣きで喚く私にさっまで余裕ぶっていた彼女の表情がみるみる変わっていく。



美空:.........しぇからしか。


和:...え?


"しぇからしか"という言葉が九州の方の方言で"黙ってろ"とか"鬱陶しい"みたいな意味だと知ったのはしばらく後になってだったが、大きく息を吐き、私を見上げる表情から彼女が"怒っている"ことは明確だった。


美空:...あんた...◯◯がどんな気持ちで...私と"こんなこと"しよるのか...考えたことあると?


それまでの彼女からは想像もつかない程の怒気に一瞬後退りしそうになる。


和:私...は...


美空:..ホントは気付いとったんやろ?◯◯の気持ち。ずっと前から...知っとったやんな?なのに...なのにずっと傍において期待だけさせるような真似して...あんたこそ◯◯の時間を今までどれだけ無駄にしてきたん?


和:......。

悔しい。悔しいが浴びせられる罵倒は全て図星。


___彼の気持ち...分かってた。でもそれをどうしても認められない自分もいて。ただ何の責任もなく傍にいられる幼馴染という立場に甘えていた。


美空:...その様子やと図星やろ?それで彼氏と上手くいかなくて、◯◯に頼って...惨めやね。


和:なっ...何でそれを...

彼女は片方の口の端だけを少し上げ、嘲笑うように言う。


美空:...神村先輩、ああ見えて女好きで手癖悪いって結構有名なんよ?あんたみたいな子、沢山見てきたから知らんでも何となくわかる。それで今度は◯◯に乗り換えるんや。私がいるのわかってて?


和:...そんなつもりじゃない!
...初めてアイツと腕組んで歩いてるあなたを見た時...確かにちょっとモヤモヤした。今自分の気持ちにもやっと気付いた...。
ズルいのなんて私が1番わかってる。
...でも!アイツには幸せになって欲しいの!こんな...都合のいい私に優しくしてくれるアイツには..."オタメシ"なんかじゃなく本物の恋人と幸せになって欲しい...だから...だから...


止まらない涙と息切れでもう言葉が出てこない。



やっぱり私じゃダメなんだ。分かってる。


彼女の言っている事は全部正しくて、言い返す言葉もない。





美空:......いつまで泣いとるん。そんな事してる場合?


和:...えっ?


完全に打ち負かされた私にかけられた言葉は、想像もしていないものだった。


美空:...だから!こんなとこで泣いてる暇あるん!?あんた...ナギちゃんにはまだやることがあるんやないの!?


何故か俯いて叫ぶ彼女の表情は見て取れないが、"何を言いたいのか"ははっきりと分かった。


和:...あなた.....どうして...


美空:...分かったなら早く行って。もうその顔は見たくないけん。


和:でも...


美空:聞こえんかったと!?早く行って!!!

彼女の怒声に押されるように私は屋上を後にした。


向かう場所など決まっている。しかし...


和:(...なんであの子...あんな風に...)


数々の疑問。


そもそも"本当の恋人"でないのなら...


頭の中に次々に浮び上がる仮説が、パズルのように組み上がっていく___


和:......!!!!!!


反射的に身体が動いた。それまでトボトボと歩いていた私は全力で走り出す。


和:(...まさか...でも...もしかしたら...)



走りながら涙が溢れてくる。


和:はぁっ...はっ...ぐすっ...そんな...そんな事って...うぅっ...


その時の私は涙と鼻水でさぞ酷い顔になっていたことだろう。


でもそんな事どうでもいい。



伝えなきゃ、彼に。


私の本当の気持ち。そして...



____"オタメシカノジョ"の本当の意味を。


____________be continued.

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