"オタメシカノジョ"最終話 後編
___彼の幸せが私の幸せ。
___例えどんな結末でも。
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最終話 後編
"ホンモノ"
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『本当の彼女になって欲しい』
聞きたかった言葉のはずだった。
でも私の口から真っ先に出た言葉は___
美空:...へっ...?えっ...?でっでも...ナギちゃんは...?
____疑問だった。
もちろん嬉しかった。驚いて変な声が出るくらいには。
でもさっきのナギちゃんの様子からしてどうしても今の状況に納得出来ない自分もいて。
そんな私に彼はいつも通り優しく微笑む。
◯◯:...本当に情けないんだけどさ。和に言われたんだよ。『私はアンタの事好きだけど、アンタを1番大切に想ってるのは多分私じゃない』って。
...その時すぐに美空の顔が浮かんだ。
それで気付いたんだよ。今までずっと感じてた違和感の答えに。
美空:(...ナギちゃん...)
そこまで言うと彼は一息ついて、私の目を真っ直ぐ見た。
◯◯:...毎朝早くから家まで迎えに来てくれた。毎日お弁当を作ってきてくれた。講義も履修してないのまで全部一緒に出てくれたよね。いつでも僕を励まして優しい言葉をくれた...。
気付いたんだ。その優しさは...絶対に"オタメシ"なんかじゃないって...そして僕の"この気持ち"も。
彼の顔が滲んでよく見えない。目から溢れるものを止めることが出来ず、ただ頷くことしか出来なかった。
◯◯:...だから...今更かもしれないけど...一ノ瀬美空さん。誰かの為に尽くせる優しい貴方が...好きです...僕と...付き合って下さい。
美空:...ひっ...えぐっ...わっ...わたしもっ...うぅ...わたしもっ...だいすき...うぇぇぇぇぇ...!!
限界だった。ぐちゃぐちゃの顔のままで彼の胸に飛び込む。それを優しく受け止め、頭を撫でてくれる彼。
感じる彼の優しさと温もり。それは間違いなく"ホンモノ"だった。
____この世は平等じゃない。
でも。
___だからこそ、手に入るものもあるんだ。
彼の胸の中で泣きながら笑う私は、恐らく世界一幸せだ。きっと...いや絶対に___
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epilogue
"ヨッツメ"
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屋上から眺める空は際限なく広がり、眺めていると全てが吸い込まれそうな感覚に陥る。
和:...今日もいないか。
あれから数日。色々あったが私の大学生活は以前とさほど変わっていない。
今まで通り大学に通い、部活も毎日頑張っている。
神村先輩は退学処分になった。噂によれば、"ある女子生徒の匿名のタレコミ"がきっかけで今までの悪行が顕になったらしい。"あの子"の言っていた通り、先輩はかなり女癖が悪かったらしく、大学内でも有名だったそうだ。
屋上の柵からキャンパスを見下ろしながら思う。
和:(...謝りたかったんだけどな...)
あの日から彼女を屋上で見かけなくなった。もちろん彼のことも。
彼女...一ノ瀬美空ちゃんには酷いことを言ってしまった。私の勘違いと自分勝手な思い込みで。
??:...くぅちゃん達なら多分もうここには来ないよ。
和:っっっっ!?
急に声をかけられて驚いた。考え込んでいて近付かれていることに全く気付かなかった。
声を掛けてきたのは、あの時美空ちゃんの隣にいた女の子。
彩:...ごめんごめん、びっくりさせちゃった。私、小川彩。よろしくね、ナギちゃん?
和:よ...よろしく...でも何でここに?私に何か用?
彩:...身構えなくても大丈夫だよ。ちょっとナギちゃんに興味あって。
彩ちゃんは微笑み私の隣にやって来た。
彩:...あのさ、ひとつ聞いてもいい?
和:...うん。
彩:...どうして...◯◯くんの事...諦めちゃったの?
和:......!!!それは...
彩:...ごめんね、思い出させちゃって。でもどうしても気になるの。あのまま付き合っちゃうことも出来たわけじゃない?
無垢な目で真剣に問われると、言い逃れする気にはなれなかった。深呼吸して、ゆっくりと慎重に言葉を選ぶ。
和:...私はね、アイツのこと好きだった。でもアイツはあの時もう私の事そういう風には見てなかったと思う。そしてそれを自覚してなかった。
だから気づいて欲しかったの。"片想いじゃない"って。どうしても...どうしてもアイツには幸せになって欲しかった...相手は私じゃなくてもいい。素直にそう思ったの.........それに...
彩:...それに?
和:...美空ちゃんとここで言い合いになった時...あぁ、敵わないなって思い知らされた。私より美空ちゃんの方が...ずっとアイツのこと好きなんだって。自分を犠牲にしてでもアイツに幸せになって欲しかったんだなぁって...
彩:...そっか。
もう一度空を見上げる。先程と変わらない広くて青い空。
私の頬から流れる涙もいずれ蒸発してあの空へ帰っていくだろうか。私のこの想いと共に___
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__ナギちゃんは気付いているだろうか。
"敵わない"と言っていたくぅちゃんと全く同じ考えで行動していたことを。
いや、きっと気付いてない。ただ彼の幸せを願っていたから。
くぅちゃんと同じように。
彩:(...結局似たもの同士なんだよね...ふふっ...)
空を見上げ、うっすらと涙を流すナギちゃんはとっても美人で、しばらく見蕩れてしまった。
彩:...あのさ。
和:...うん?
彩:良ければ友達にならない?最近"仲良い子"に彼氏出来ちゃって全然遊んでくれなくてさ...私たち、結構仲良くなれると思うんだけど?
上目遣いに顔を見ると、ナギちゃんは笑った。
和:ふふっ...そうだね。私も最近お守りしなくて良くなったし、ちょっと暇だったんだよね...ふふっ...あはははっ!!
大きな声で笑う彼女につられて私も笑った。
彩:えへへ...駅前のカフェ、ずっと気になってたんだけど1人で入りづらくて、今から行かない?
和:いいじゃん!行こ行こ!
笑いながら2人で歩き出す。お互い大切な人の幸せを願いながら___
和:あっ...そうだ。
急に思い出したように真顔に戻る彼女。
彩:どうしたの?
和:..."オタメシカノジョ"のさ...4つ目のルールって何だったんだろ。ちょっと気になった。
彩:...わかる!彩もくぅちゃんに聞いてみたんだけどどうしても教えてくれなくってさ、めっちゃ気になってたんだよね。
黒く塗りつぶしてあった4つ目のルール。今となっては確かめる術もない。まさに神のみぞ知るってやつだ。
私たちは少しの間首を捻って考えたが、顔を見合せ笑うと、屋上を後にした。
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『皆さま、本日はようこそお越しくださいました!大変長らくおまたせしておりますが、まもなく当パークのメインゲートが開門致します... ありえないワクワク、ドキドキの驚きの体験。世界最高の1日が皆さんを待っています!どうぞ、心行くまで...お楽しみくださいませ!!!』
大仰なアナウンスが終わり、大行列が騒ぎ出す。
今日は美空と約束していたテーマパークデートの日。いつもよりずっと早起きし、はるばる車で目的地へとやってきた。
美空:やっと入れる!楽しみやね!!
◯◯:...そうだね、なんか緊張してきた...
考えてみればテーマパークなどいつぶりだろう。それこそ小学生の時の修学旅行以来だろうか。
普段なら考えられないレベルの人混み。それなのに感じられる圧倒的な開放感。
そして...何より隣に彼女がいること。
"ホンモノ"の恋人として。
高鳴る鼓動を必死に抑え、彼女の方を見る。初めて会ったあの日から変わらない眩しい笑顔。
そう...彼女は"ホンモノ"だったんだ。
______初めから、ずっと。
美空:大丈夫?そういう時はね、深呼吸するとええんよ?おばあちゃんが昔言っとった。
背中をさすって微笑む彼女に、ふと思い出した疑問。
◯◯:...そうだ。今こんなこと聞くのもなんだけど、聞いていい?
美空:んん?なに?
◯◯:4つ目のルール...もう教えてくれてもいいんじゃない?
ずっと気になってた。黒く塗りつぶされた4つ目のルール。
美空:...そんなに知りたいん?
少し困ったように笑う彼女に頷く。
美空:...しょうがないなぁ...じゃあ耳貸して?
言われた通り屈んで彼女の方に耳を向けると、頬に柔らかい感触が。経験したことのない感触に脳が停止する。
◯◯:......っ!?美空!?
今のが白昼夢でないのなら、僕は彼女にキスされた。
驚き彼女の顔を見る。
美空:...やっぱり教えられないっ。だから..."それ"で我慢して...ね?
◯◯:...もう...それはズルいよ...
ウインクして笑う彼女に手を引かれ、僕はようやく動き出した長蛇の列に続いてパークへと入っていった____
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頬に手を当て、顔を真っ赤にする彼が愛しい。
それにしても...そんなに4つ目が知りたいんやね。
ふふ...でもね、君には教えてあげない。"君だけには"
1. "オタメシカノジョ"期間中はお互い"本当の恋人"として接すること。
あれは...ルールなんかじゃないから。
2. "オタメシカノジョ"については他言無用である。
あれは私の___
____願いだから。
3. "オタメシカノジョ"に期限はなく、"君の方から申し出る"ことで終了とする。
そしてその願いは...叶うはずのなかった願いは...
君が叶えてくれたから___
4.いつか君の"ホンモノ"になれますように。
________________end.
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