見出し画像

君と僕の行方 第3話

___嘘とは毒である。ついたものの身体に徐々に回り、最期は___

―――――――――
第3話
治まらない胸騒ぎ
―――――――――

麗奈:〇〇!次あのお店見たいな!



〇〇:ちょ…ちょっと待って...そんなに急がなくても...



僕の手を引き今にも走り出しそうな麗奈を嗜める。



僕達は今、近所のショッピングモールに遊びに来ている。


遡ること3日前__


麗奈:ねぇ、今度の土曜日空いてる?


空き教室の机に腰掛け、麗奈が不意に問う。


〇〇:暇だけど…?


麗奈:やった!じゃあ...デート...しない?


〇〇:えっ!?デ、デート!?


麗奈:…嫌だった?


〇〇:いっ…いやいやそんなことないよ!ただデートって初めてだから...


麗奈:ふふふ...いっぱいオシャレしてくねっ!


はにかむ麗奈に見蕩れながら、僕の気持ちは有頂天だった。


〇〇:(デート...か)


何だか恋人みたいだな、と思う。いや、恋人なんだけど。何か...実感が湧かない。胸がざわつくような...感覚が消えない。


しかしそんな気持ちも、デート当日の麗奈を見た瞬間に吹き飛んでしまった。



本当に同い年なのか目を疑うレベルの雰囲気を放つ麗奈。すれ違う人達も振り返ってしまうほどだ。


麗奈:もう...そんなにジロジロ見ないでよ...


〇〇:ごめんごめん...すごくオシャレだなぁって。


麗奈:本当?嬉しい!


満面の笑みを浮かべ、彼女は僕の手を握った。


麗奈:はぐれちゃ困るから...ね?


〇〇:う...うん...


僕もぎこちなく彼女の手を握り返す。女性らしく細くて綺麗な手は微かに冷たい。


麗奈:ありがとう、一緒に来てくれて。ショッピングデート、夢だったんだ。


横から見る彼女の顔は何故か少し寂しげで、儚さすら感じてしまう。


〇〇:僕もだよ。ありがとう。


麗奈:えへへ...緊張し過ぎだよー?


こんなモデルみたいに綺麗な人と手を繋いで歩いているのだから、緊張するに決まっている。


麗奈:あっ!あそこ!ドーナツ売ってる!食べよ?


嬉しそうに駆け出す彼女に引っ張られ、僕も駆け足になる。何だか恋愛ドラマの中にでも入ってしまったみたいだ。


麗奈:...ちょっと...お手洗い...行ってくるね。


一頻り歩き回ると、麗奈が急に立ち止まる。


〇〇:うん、わかった。外で待ってるね。


何だろう...麗奈が少しよろけている気がする。
歩き回って疲れたんだろうか...


少し胸騒ぎがするが、ひとまず待つしかない。



__10分程待っただろうか。


??:...あれ?〇〇?


急に声を掛けられ驚く。



〇〇:...ひかる!?それに藤吉さんも!なんでこんなところに!?



そこにはひかると藤吉さんの姿が。


夏鈴:...夏鈴でええで。


ひかる:〇〇こそ!私たちは普通にお買い物しにきたんよ。


夏鈴:…で...◯◯くんは女子トイレの前で何を待ってるん?


藤吉さんが訝しげな視線を放つ。


〇〇:あっ!いやこれはその...彼女...を待ってて...


ひかる:えっ!?そうだったんや!なになに?デート?


ニヤニヤしながら僕の顔を覗き込むひかる。


夏鈴:...


ひかる:せっかくやし顔見てみたいなー!転入生なんでしょ?


夏鈴:そうなん?そんな話初めて聞いたわ。


事情を知らない藤吉さんに軽く説明する。
彼女なら他人に話したりはしないだろう。


夏鈴:へー...まだクラス決まってないんや...確かに気になるなぁ、待っとこ、ひかる。


〇〇:えっ...それはちょっと...


夏鈴:なーに?何か後ろめたいことでもあるん?


今度は藤吉さんがニヤニヤしながら覗き込んでくる。


ひかる:ちょっとだけ顔見て挨拶したらすぐ行くけん。


〇〇:まぁ...いいか...


麗奈はそんなことで気分を悪くしたりしないだろう。それにしても...遅いな...


携帯の時計を見ると、先程から20分経っていた。
昔ひかるに『女子のお手洗いは長い』と聞いてはいたが、こんなものなのだろうか?


麗奈:...ごめんね、お待たせー...って、あれ?お友達?


〇〇:あ、おかえり。何か調子悪そうだったけど大丈夫?


麗奈:う...うん!大丈夫!ちょっと疲れちゃって!

ひかる:守屋麗奈ちゃん...やんね?私森田ひかる!こっちは藤吉夏鈴。○○と同じ××中の2年だよ!よろしくね!


麗奈:...あなたが...ひかるちゃん...


見間違えだろうか。嬉しい様な悲しい様な...上手く言い表せないが、ほんの一瞬麗奈がそんな表情を見せた気がした。


麗奈:〇〇からよく聞いてる子達だー!ひかるちゃんと...藤吉ちゃん!よろしくね?


夏鈴:...夏鈴でええで。


麗奈:うふふ...夏鈴ちゃんね?本当に美人だね!


夏鈴:…〇〇くん...何話したん?


問い詰める藤吉さんの目が怖い...


〇〇:いや...その...すごくモテるって話を...


ひかる:いいじゃない!ホントのことやし!ふふっ。


麗奈:心配しなくても悪口はひとつも聞いてないよ?みんなすごく良い友達だって!


〇〇:も...もういいよ...


麗奈:あっ!そうだ!みんなでご飯食べない?せっかく仲良くなったんだし!


ひかる:え...でもデート中やったんやないん?


麗奈:...前からお話してみたいって思ってたの!学校だとなかなか会えないと思うし...〇〇いいでしょ?

〇〇:僕は大丈夫だよ?


麗奈:やった!じゃあ行こ行こ!


夏鈴:...


さっきの弱々しい姿が嘘のようにはしゃぐ麗奈に連れられて、僕達はモール内のフードコートへやってきた。


ひかる:お腹すいたぁー、何食べよ...夏鈴は?


夏鈴:...たこ焼きやな。


それぞれ思い思いのものを注文し、席に着く。


〇〇:...あれ?麗奈はそれだけ?


麗奈の前にはスムージー...だろうか、飲み物だけが置かれている。


麗奈:...元々あんまり沢山食べられなくて、気にしないで?


ひかる:...〇〇、女の子は色々あるんよ?詮索しちゃダメ!


〇〇:そ、そうなの?


夏鈴:...


僕達は食事をしながら談笑し、気付けば夕方に。


麗奈:...あっ、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ!みんな、今日はありがとう!とっても楽しかった!


〇〇:うん、気を付けてね。


ひかる:学校でもまた会いに行くけんね!


夏鈴:...


笑顔で手を振り、麗奈は帰って行った。


ひかる:...それにしても美人やったね...ホントに同い年?


〇〇:...それは僕も思った。


夏鈴:...2人とも、ちょっとええ?


楽しさの余韻がまだ残る空間で、藤吉さんだけが神妙な面持ちだった。そういえば会話にもあまり入ってこなかったような...


ひかる:...どうしたの?夏鈴?


夏鈴:...あの子...むっちゃ体調悪いと思うで。ずっと無理して喋っとったし、今帰る時もちょっとフラついとった。あれは...相当ヤバいと思う。


〇〇:えぇっ!?


ひかる:...全然気付けんかった...1人で大丈夫かな?


夏鈴:...席立つ前に誰かに連絡しとったから迎えに来てもらえるんちゃう?あんなにフラフラで帰れへんやろうし。


藤吉さん...人のことよく見てるな...
僕は追いかけたい気持ちを一旦押し殺した。


〇〇:じゃあ今日1日、ずっと無理してたのかな...


今日の楽しかった想い出が蘇る。


ひかる:麗奈ちゃん...


夏鈴:...無理してでも一緒にいたかったんやろ?〇〇君が気にすることやない。


〇〇:...そう...だね。


後で連絡してみよう。楽しみにしてくれていたのは嬉しいが、無理はして欲しくない...


ひかる:私たちもそろそろ帰る?

夏鈴:せやね。〇〇君、麗奈ちゃんのこと頼むで。


〇〇:う...うん。


藤吉さん、クールなイメージ強いけど優しいんだな...



ひかる:じゃあね!また明日!



〇〇:うん、2人ともありがとう。



2人と別れ、帰り道で1人考える。



この胸騒ぎはなんなんだろうか...



楽しいデートだった。僕が想像していた以上に。



でも何かが...何かがおかしい...ような...



麗奈の眩しい笑顔の裏に隠れた何かを見落としている...気がする。



謎の胸騒ぎは帰宅して部屋に戻っても、まとわりついて離れない。







そして次の日から、あの教室で麗奈の姿を見ることはなかった____




_____________be continued.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?