Missing 第9話
激しい怒りと憎しみの後。
__朦朧とした意識が徐々に鮮明になる。
私は
空を飛んでいた。
ひかる:......えぇーーっ!?
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
第9話
~邂逅と片鱗~
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フワフワとした浮遊感。下を見るに2、3m程浮いているようだ。
そして、再び驚く。
ひかる(...あれは...私...?)
眼下で鳴り響く凄まじい轟音。目を凝らすと、サキに飛びかかる自分の姿が確認出来た。
人間離れした動きでサキを攻撃している"私"の身体は淡く光っており、その眼は...私のいつもの黒目ではなく、淡いピンク色をしていた。
ひかる(...えっと...つまりどういうこと...?)
混乱する頭で考える。
自分の身体が怒りに支配されるあの感覚。
私に呼びかけるサキとピーターの声。
そこまでは覚えているのだが...
ひかる:(...つまり私の意識だけが追い出されちゃってここに浮いてる...みたいなこと...?)
つくづく思うけど、ファンタジーが過ぎるでしょ最近の私...
??:...そう、正解。
ひかる:っ!?
すぐ傍で聞こえた声に振り向くと、そこには女の子が。15、6歳くらいだろうか。
??:やっとまともに話せるね、ひかるちゃん?
ひかる:...あなたは...誰?私の事...知っとるん?
??:もちろん。今までずっと一緒にいたからね。
あどけない笑顔を向ける彼女にピンときた。
ひかる:......もしかして...あなた...アキ...さん?
アキ:うん、私はアキ。ずっとあなたの中にいた...話は...サキに聞いてるでしょ?
ひかる:...はい...。
アキ:...ふふっ、そんなにかしこまらなくてもいいよ?普通に話して?聞きたいこと、沢山あるんでしょ?
幼い顔で笑う彼女には、人を落ち着かせる不思議な雰囲気があるのか、混乱していた私の頭もだんだん落ち着いてきた。
どこかで見た事のある笑顔だった__
ひかる:あの...今のこの状況は...どう言うことなんかな?
アキ:...サキがあなたの力をちょっとだけ解放したの。でもひかるちゃんはまだ慣れてないから"あれ"が出てきちゃう。あの時みたいにね。だから一旦ひかるちゃんの意識だけをあれから抜き取った。
ひかる:じゃ...じゃあ今あそこにいるのは...
アキ:...あれは..."ひかるちゃんだけどひかるちゃんじゃないもの"...
ひかる:...私だけど...私じゃない...?
呆ける私に彼女は少し間を置いて、ゆっくりと話し始めた。
アキ:...人間の中には、色んな感情が詰まってる。その中にはもちろん良くないものも沢山あるの。怒りや憎しみ、妬みや傲り..."あれ"はそれらが集まったもの。
なるほど...確かに言われてみれば...
意識がなくなる前。私の頭の中には憎しみと怒りが溢れていた。
鳴り止まない轟音と舞い上がる砂煙の中は見えないが、サキとピーターが私を止めてくれているのはわかる。
ひかる:...あれの正体は分かったけん...早く止めないと2人が...どうすればいいん?
アキ:...ひかるちゃんはさ..."あれ"を見て、どう思った?
焦る私とは対照的に、落ち着いた様子のアキちゃんは私の目を真っ直ぐ見据えている。
ひかる:...どうって...悪いものなんよね?だったら止めた方が...
彼女の言うことが正しいのなら、下で暴れているのは言わば私の"邪悪な感情"...
アキ:...そっか...確かにそうだね。でもね、"あれ"もひかるちゃんなの。だから...受け入れて欲しいと思うの。
ひかる:受け入れる...って言ってもどうやって...
ピ:ぐっ...!!
砂煙の中から吹き飛ばされてきたピーターは血を流しながらも立ち上がる。そこへ"私"が追い討ちをかけるべく拳を振り上げ飛びかかる。
ピ:...!!
すんでの所でサキが間に割り込み、"私"の拳を受け止めた。
サキ:...ほっほっ...なんじゃ堅物...もう限界かの?
ピ:...見くびるな...まだまだ...
サキ:ふっ...威勢だけは1人前じゃな...
笑うサキの額に汗が流れるのがここからでも見える。
ひかる:...早く2人を助けなきゃ...!
どうにかしたいけどどうすればいいか分からない。縋る気持ちで彼女の方を見る。
アキ:...もちろん助けてあげる。その為に私はここにいるから。ただ、忘れないで。
アキちゃんは私の手を取り、また真っ直ぐ私の目を見た。彼女の目が黒から桜のような薄いピンクへと変化していく。
アキ:...弱さを受け入れて、人は初めて強くなれるの。自分を見つめて、受け入れること...それが大事。"この力"が欲しいなら...いつかは向き合わないと...ね?
彼女は言い終えると、暴れる"私"の方へ飛んでいく。
ひかる:ま...待って!まだ聞きたいこと沢山...
アキ(大丈夫...また会えるから)
振り向き微笑む彼女を追いかけたいが、私はここから動けないみたい。
対峙する"私"とサキの間に降り立ったアキちゃんは、ゆっくりと"私"の方へ歩いていく。どうやら2人には彼女の姿は見えていないようだ。
何かに縫いとめられたように突然動かなくなった"私"の額に手を当て、彼女がなにか呟くと、"私"は糸の外れた操り人形の様にその場に座り込んでしまった。
ひかる:っっっっ!!
途端に身体が強く引っ張られるような感覚と共に視界が真っ白になる。
薄れゆく意識の中で、私は確かに声を聞いた。
『...亡失...せし...者たちよ.........今こそ...大いなる......ングの...』
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目を開けると、私を抱きかかえるサキと目が合った。
サキ:...気がついたか。
ひかる:大丈夫?2人とも...ぐっ...
身体が鉛の様に重たい。激しい戦闘は私の身体に想像以上の負荷を掛けたようだ。
ピ:...私達の事なら心配いらない。戻ってられてよかったよ。
拭った血の跡が残るピーターの顔には、安堵の表情が見て取れる。
サキ:...して、どうじゃった?何か掴めたか?
ひかる:...正直、まだわからん...かも。ただ...
ピ:...うん?
ひかる:あの子に...アキちゃんに...会ったよ。
私の言葉にサキが目を見開く。
サキ:なんと!やはりお主の中には彼奴が宿っておったのだな...妾の思い違いではなかったようじゃ...それで、彼奴は何と?
ひかる:...弱さを受け入れて、強くなれるんだ...って。
ピ:...なんとも漠然とした助言だな。
サキ:...ふふ...彼奴らしい物言いじゃ...きっと彼奴は.........っ!?
突然天を仰ぐサキ。その表情が険しくなる。
ひかる:...どうしたん?
サキ:...あの子らが...天達が危ない...
ひかる:えっ!?
ピ:...彼女達からの救難信号か?
サキ:...そうじゃ。行かねばならん。お主達は少し休んでから来るがいい。その牙を通じて妾のいる場所に飛んでこれるからの。
サキは話しながら何やら手を動かし、目を閉じる。
サキ:『癒法・天鈿女命(あめのうずめ)』
呪文...の様な言葉の後、私とピーターの身体を光が包む。先程まであんなに重かった身体が軽くなっていくのを感じる。
ひかる(...すごい...回復魔法...的な?)
ピ:...どうやら回復させてくれているようだ。少し休めば全快出来そうだな。
サキはそんな私たちの様子を見て微笑むと、一瞬にしてどこかへ消え去った。
ひかる:...天...大丈夫かな。
ピ:...今は彼女に任せるしかない。私達はまず休息し、直ぐに追いかければいい。
ひかる:...そうやね。
自分の中の胸騒ぎが少しずつ大きくなる。
目覚める前聴こえた言葉が頭の中に蘇った。
『...亡失...せし...者たちよ...今こそ...』
何か...何かとてつもない事が起きようとしているような...そんな気がした。
______________be continued.
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