From my past 第4話~嵐の"重要参考人"
__また昔の夢を見た。
例の如く"あの子"の夢。
女の子:...ほんまにいってまうの?
目の前の女の子は泣いている。前にも見た事のあるようなシチュエーションだが、今回は少し違うように思えた。
女の子:...だいじょうぶ!◯◯くんがどこへいっても...うちら"まぶだち"やで!やくそくや!
女の子は涙を拭って精一杯笑い、僕を抱きしめてくれた。
女の子:いつかまた...ぜったいあえるって..."ほの"...しんじてるで!
◯◯:...っ!?
目が覚めると汗だくだった。いや、そんなことより...
◯◯:(..."ほの"って...確かに言ったぞ!?)
いつもは朧気な夢が今日はやけに鮮明だった。
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第4話
嵐の"重要参考人"
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ずっと夢に出てきていたあの女の子は...もしかして保乃なのだろうか...?
◯◯:(...いやいや、そんなわけない...)
夢の中で彼女はこう言っていた。『本当に行ってしまうのか?』、『どこへ行っても友達だ』と。
これでは僕がどこかへ引っ越してしまったことになる。僕の初恋のあの女の子の時とは逆だ。
しかしやけにリアルな夢だった。抱きしめられた感触まで覚えている。
人間は経験したこと以外は夢に見ないのだと以前どこかで聞いた。ということは...
◯◯:(...本当にあった出来事なのか?)
何となく掴みかけた結論も朧気で、すぐに消えてしまう。
◯◯:(いや...今はいい。ゆっくりでいいんだ。)
今の状態ではあまりにも判断材料が少ない。確かに初恋の女の子のことは大事だが、学校生活も同じくらい大事だ。
僕は一旦考えるのをやめ、支度をして部屋を出た。
ひかる:...おはよ。
◯◯:あぁ...おはよう、ひかる。
始業式から1週間。ひかるは毎朝必ず僕より早く部屋の外で待っていてくれる。
◯◯:毎朝ありがとう。待っててくれて。
ひかる:えっ!?いっ...いや...べっ...別にただ私が一緒に行きたいだけやけん...◯◯の為とかやないし...かっ勘違いせんで?
夏鈴:...ひかる...それやと隠したいとこ隠せてへんで、ふふっ...おはよ、2人とも。
◯◯:...おはよう、夏鈴。
ひかる:...えっ!?そうなん!?えっーと...えっと...
顔を真っ赤にして別の理由を考えるひかるを笑いながら、夏鈴が部屋から出てくる。
◯◯:...いいじゃない、一緒に行きたいって言われた方が嬉しいよ。
ひかる:そっ...!そそそそっか...じゃあ...それでいいけん...
下を向いたまま先を歩くひかるを見て、夏鈴は優しく微笑んだ。
夏鈴:...ひかる、ちょっと明るくなった。◯◯のおかげやと思う。ありがとね?
◯◯:...えっ?そうなの?
夏鈴:...昔はもっと人見知り酷かったし、何よりあんなに楽しそうに笑わへんかった。
しみじみと語る横顔には何か複雑な想いが感じられる。
◯◯:あのさ...気になってたんだけど、2人は仲良いけど...いつからの付き合いなの?
夏鈴:ウチらは...って言うか保乃もやけど、幼稚園からずっと一緒なんよ。だからもう家族みたいな感じ。保乃の口癖を借りるなら"マブダチ"ってやつやね。
◯◯:...!!
ふと今朝の夢がフラッシュバックする。確かに夢の中の女の子も"マブダチ"と言っていた。
◯◯:(...やっぱり今日の夢で見たのは...保乃なのか?)
夏鈴:...◯◯?
呼ぶ声に我に返ると、目の前に夏鈴の顔。
◯◯:わわっ!ごっ、ごめん...ちょっと考え事しちゃって...
夏鈴:ふふっ...変なの。
ひかる:ちょっと!2人とも何やっとるん?早く早く!
気付くとひかるはだいぶ前を歩いている。
◯◯:ごめんごめん!今行くよ!
夏鈴:...ホンマに覚えてないんやね...ふふっ...
◯◯:え?何か言った?
夏鈴:...ん?ううん、何も。さ、行くで?
夏鈴に腕を引かれ、ひかるの元へ小走りで向かう。
ひかる:今日は"催実"の人らと打ち合わせやろ?早く行かんとね。保乃はもう先行っとるけん。
夏鈴:せやでー。
◯◯:うん...って、2人も来るの?
今日は学校は休みなのだが、催事実行委員、略して"催実"の人達と来たる新入生歓迎会の打ち合わせを体育館で行う。
予定では生徒会メンバーはみぃさんと保乃と僕の3人だけだったはずだけど。
ひかる:...催実には"アイツ"がおるけんね。見張っとかんと◯◯が危ない。
夏鈴:...ひかるに同じ。
急に苦虫を噛み潰したような顔をする2人に不安を煽られる。
◯◯:...アイツ?そんなにヤバい人でもいるの?
ひかる:...行けばわかる。保乃には行くって言ってあるけん、大丈夫。
夏鈴:どっちにしろ経費の話とか、催実と話さないかんこともあるしね。
◯◯:...何か怖くなってきた...
夏鈴:...一応ウチらの知り合いやから、大丈夫やと思うけど...ちょっと...変わってると言うか...
◯◯:...そうなんだ...
不安ながらも、生徒会らしい初めての仕事に少しワクワクしている自分がいる。
体育館に着くと、保乃とみぃさんが誰かと何やら話しているのが見えた。
◯◯:おはようございますー。
保乃:あっ、◯◯おはよ!ひぃちゃんと夏鈴もホンマに来たんやな!
美波:ちょうど良かったわー、椅子とか並べたいから人手欲しかったんよ。
夏鈴:手伝いますよ。ウチらも催実の子と打ち合わせしたくて...
美波:なるほど、せやったら先打ち合わせする?催実の子らまだ全員来てへんから。
__刹那。僕の脇腹に凄まじい衝撃が走った。
◯◯:...うぐっ!?
視線を下に落とすと、先程まで保乃たちと話していた催実の生徒が僕に抱きついてきていた。咄嗟のことに思考が停止する。
??:...すごい...ほんとに◯◯くんや...会いたかったぁー!!!♡♡
ひかる:ちょ...ちょっと!!いきなりそれは...
夏鈴:...あかんって!
ひかると夏鈴が物凄い形相で僕にへばりついた女の子を引き剥がす。
ひかる:..."美空"!まずは自己紹介せんと...
"ミク"と呼ばれた女子生徒は不思議そうな顔をしながらこちらを見る。
美空:なんで?...もしかして私のこと忘れちゃったと?
顎に人差し指を当て、首を傾げる仕草は男なら一瞬で心を奪われてしまいそうな威力だ。
◯◯:...え、えーと...ごめんなさい...本当に覚えてなくて...
僕の言葉に少し残念そうな表情を一瞬見せた彼女だったがすぐに立ち直り、再び僕の方へ駆け寄ってくる。
美空:私、一ノ瀬美空!幼稚園の頃一緒やったけん、覚えとらん?
夏鈴:ちょっと...美空ちゃん...それはまだ...
保乃:...あかん...これはあかん...
夏鈴はオロオロと慌て、保乃が頭を抱え出す。しかし僕はそれどころではない。
◯◯:...!!同じ...幼稚園...?
美空:そう!お家も近くて、よく一緒に遊んだっちゃろ?おままごとしたり...川で遊んだり...思い出したと?
待って...待ってくれ。同じ幼稚園で家も近くてよく一緒に遊んでいた?それってつまり...
ダメだ。情報量が多すぎて頭が追いつかない。
◯◯:(...もしかして...この子なのか!?)
ひかる:...美空...ちょっとこっち来て。
美空:...えぇ!?ひかるたち何でそんな怖い顔しよると?待って...私なんか悪いこと...あぁーっ!?
恐ろしい形相のひかると夏鈴に羽交い締めにされ、保乃に足を抱えられて体育館の隅まで連行される一ノ瀬さん。何やら4人で激しく言い合いをしている。
美波:...なんや、2年生は今日も元気やね。
能天気に笑うみぃさんの隣で僕の脳はフル回転していた。
◯◯:(...待てよ?確かあの手紙には..."名乗り出る勇気がなかったって...)
そう、あの手紙には確かに"勇気がなくて名乗り出ることが出来ない"、"だから私を見つけて欲しい"とあった。
一ノ瀬さんが僕の初恋の人なのであれば、あんなに積極的にアプローチはしてこないはずだ。
段々と思考がクリアになり、落ち着いてきた。
しかし、"一ノ瀬美空"と名乗った彼女のことは思い出せない。
未だ状況を全て理解出来ていない僕の元へ、4人が戻ってきた。一ノ瀬さんは申し訳なさそうに俯いている。
美空:...覚えとらんのにいきなりあんなこと言われたら怖いよね、嬉しくてはしゃいじゃった...ごめんね?
◯◯:...いや...大丈夫。それより同じ幼稚園って言うのは...?
美空:...本当だよ?お家に写真もあるけん今度持ってきてあげるね?そしたら思い出すかもね?
先程より勢いはなくなったものの、まだ少し前のめりで一ノ瀬さんは僕の手を取り捲し立てる。
◯◯:う...うん...何かごめんね、思い出せなくて。
美空:私...◯◯くんが思い出せるなら何でもするけん...頼ってね?
上目遣いの一ノ瀬さんはいつの間にか僕の懐まで入ってきていた。
ひかる:...ちょ...近い...ねーぇ、美空!!
夏鈴:...そろそろええ加減にせえよ?
美空:...逆に何でひかるたちはこうせんと?本当はみんな...
保:あかーん!!!!!
美空:いやー!!!
またしても3人に連行されていく一ノ瀬さん。
美波:あっはは!コントみたいやな!ホンマにおもろいなぁ2年生は。
◯◯:...いいんですか、あれで。
美波:ええやん、あの子ら幼稚園からの幼馴染らしいし仲良しなの素敵やん?
◯◯:...幼馴染?あの"4人"が...ですか?
美波:...さっき保乃と美空ちゃんが話しとった感じやとそうやと思うよ?
再び頭が混乱する。
一ノ瀬さんは僕と幼稚園が同じ。その一ノ瀬さんと幼稚園からの幼馴染ということは...
◯◯:...保乃たちも...僕と同じ幼稚園...だったって...こと?
一ノ瀬美空...思わぬ重要参考人の登場により、僕の想い出はさらに複雑に未来へと繋がっていくのだった__
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美空:...にしても、ホントに覚えてないんやね。そんなところも可愛い♡
ひかる:...まったく...余計なこと言わんって約束したじゃん...
保乃:...ウチらは黙っとかないかんで?美空ちゃん、約束や。
美空:...うーん...
夏鈴:...それが◯◯の為やって、3人で決めたんや。
美空:...わかった。でも、3人だけでずるくない?
保・ひ・夏:...へ?
美空:...私も参戦する!私だって...私だって...◯◯のこと好きやけんね?
ひかる:...
保乃:...まぁ、ええわ。どちらにせよ決めるのはウチらやない。
夏鈴:...今度こそ正々堂々...勝負、だね。
______________be continued.
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