Missing ~序曲~
___目の前さえも見えない暗闇。
誰かの声が聞こえる。1人ではなく大勢。
『...もう、終わりかな』
『やっぱり荷が重いんだよ...』
『...がっかりだな』
幾重にも重なるネガティブな言葉たちは耳を覆っても脳に直接響いてくる。
たまらず私は走り出す。暗闇の中どこを目指すでもなく。
しかし追ってくる声が止むことはない。
どこまでも
__どこまでも
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Missing
~Overture~
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「っ!!!」
悪夢で目が覚める。動悸が激しい。
もう何度目になるか分からない"何か"からただただ逃げる夢。
その"何か"の正体は何度この夢を見てもわからない。思い出そうにも夢というのはいつでも曖昧で、ぼんやりとしている。
"何か"について一つだけわかっているのは、それが"とても恐ろしいもの"だということ。恐ろしいから逃げているのだ、きっと。
「...うわ...汗やば」
そんな悪夢に加えて時期は初夏。来ていたパジャマは汗でびっしょりだ。
「シャワー浴びよ...」
何とか息を整え、呟きながらベッドを降りると、背後から声が。どうやら起こしてしまったらしい。
??:んー...ひかる?
ひかる:天?ごめん、起こしちゃった?
天:ん...ひかる...すごいうなされてた?...大丈夫?
彼女は同居人の山崎 天。付き合って1年程になる私の恋人だ。
ひかる...大丈夫よ。
天:...またこわい夢みたん?
ひかる:んー...そんなとこ。
天が身体を起こしてこちらを伺っている。私は一旦ベッドに腰かけた。
天:...最近多いやん...心配...
そう言うと天は私を背後から優しく抱きしめてくれる。
ひかる:...ありがと...夢やけん平気。
正直、自分でも悪夢続きの日々にはうんざりしているのだが、彼女の存在はやはり大きい。
彼女の温もりで、夢への恐怖も動悸も収まりつつある。
ひかる:...シャワー浴びてくるね、すごい汗かいちゃったけん。
抱きしめてくれた天の腕を優しく撫で、私は風呂場へと向かう。まだ外は暗い。風呂場の時計を見ると朝の3時を過ぎるところだった。
ひかる:...誰の声だったんやろ。
熱いお湯に打たれながら考えるが、やはり思い出せない。
何かから逃げる夢。多くの人が1度は見たことがあると思う。大抵は悪夢だろう。
それに加えて私には声が聞こえるのだ。誰の声かも何と言っていたのかも思い出せないが、胸に残るのは不安と焦燥。いい言葉ではないと思う。
これまでは、悪い夢を見てもこれといって気にならなかった。所詮は夢だ、と。
だけど、今回は何かおかしい。何度も繰り返す同じ夢...流石に少し気になる。
シャワーを済ませ髪を乾かして寝室に戻ると、天はまだ起きていた。嗅ぎ慣れたいい香りも。
天:...紅茶飲む?
私を落ち着かせようと用意してくれたのだろう。優しさに不安な心と頬が緩む。
ひかる:...ありがと、天...
天:えへへ...気が利く彼女やから!
そう言って笑う彼女。私は胸の辺りに込み上げてくる気持ちを抑えられず、彼女に抱きついた。
天:んー?今日のひかるは甘えんぼさんやな?
悪戯っぽく揶揄いながらも、私の頭を優しく撫でてくれる彼女が好き。
私より身長の高い凛々しい彼女が好き。
太陽のように明るく笑う彼女が好き。
年下とは思えない包容力も...考え出したらキリがない。
ひかる:...好き。
長い理由を端的に纏め吐き出す。
天:私も!大好きやで?
満面の笑みで返してくれる天。
ひかる:...今日オフやしこのまま起きてよっかな。
このまま寝てもいいが、またあの悪夢に苛まれるのは御免だ。
天:私もそうするー、何か食べる?
ひかる:そうやね、何かお腹空いちゃった。
本来ならこの時間に食べることはしないが、今はどうでもいい。今日は2人共オフ。久しぶりに恋人とゆっくり過ごせる日だから。
天:久しぶりに2人で休みやん?今日どっか行こうか?
ひかる:そうやね...行きたいとこいっぱいあるんよ。
天:じゃあひかるの行きたいとこ行くで決定ー!場所は食べながら決めよ?
手早く用意したトーストと目玉焼きを皿に盛り、天が嬉しそうに言う。その後ろ姿にしばらく見惚れる。もうさきほどの悪夢のことなど忘れてしまった。
天:ひかるー?何してんのー?はやくー!
ひかる:ごめんごめん、今行く!
...今更やけん、ここで自己紹介を。
私は森田 ひかる。職業は"アイドル"。
"櫻坂46"というアイドルグループに天と共に所属している。
前置きが随分長くなってしまったが、ここからは、"私たち"の身に起きたとんでもない体験をお話しようと思う。
___信じるか信じないかは、貴方次第。
_______________be continued.
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