誰が為に鐘は鳴る?
『うわっ!またやられたぁ〜』
深夜2時。来客のせいで今日も我が家は騒がしい。
〇〇:ひかる...深夜だからもうちょい静かに頼むよ...
ひかる:あっ...ごめんなさい...えへへ…
彼女の名前は森田ひかる。会社の後輩。互いのゲーム好きがきっかけで仲良くなり、今では毎日のように僕の家に居座ってはこうしてゲームに勤しんでいる。
全く...こんな関係を続けてもう半年程になるだろうか。
〇〇:それはまぁいいとして、時間平気なの?
ひかる:明日はお休みなので泊まっていきます!いいですよね?
ひかるはこちらを見ることもせず当然のように言う。
〇〇:...いいけど…いつもながら呑気だなぁ。一応独身男性の家だからね?ここ。
ひかる:既婚男性の部屋に奥さん以外の女の人いたらまずいでしょ。
〇〇:いやそうじゃなくてさ...僕だって男だよ?って話。
ひかる:…ほう?それは何かいかがわしいことでもするんですか?私に?別に構いませんけど?
〇〇:だーっ!しないしない!先に寝るよ?
ひかる:...はーい、おやすみなさい。
いつものやり取り。タチの悪い事にこの後輩、先輩である僕をからかっているのだ。
なんと身勝手で自由な...しかし僕はこの後輩に...惚れてしまっているのである。
しかしなかなか想いを伝える勇気が出ず、今に至るというわけなのだ。我ながら情けないとも思うが、今の関係を壊したくない気持ちにどうしても勝てない。
いいんだ。こうして毎日のように遊びに来てくれるだけでも嬉しいのだから。
まぁ、余計な事はいい。とりあえず眠気も限界なのでいつも通りソファに寝転び、目を閉じた。
そして次の日の朝。
ひかる:…先輩…おはようございます、先輩?
〇〇:んん...ひかる?っておおおおい!近っ!!
聞き慣れた声に目を開けると、目の前にひかるの顔があった。あと数センチ前に出たら当たってしまいそうなほど近くに。
ひかる:あっははははは!今の顔、最高でしたよ?
狼狽える僕を見て、笑い転げるひかる。朝から元気な事だ。
〇〇:ひかる...心臓に悪いよ...
ひかる:いいじゃないですか、毎朝の楽しみなんですー。くっ...ふふふふふふ…
〇〇:まだ笑ってるし...
こればかりは何度やられても慣れない...僕は笑うひかるを無視して洗面所へ向かい、顔を洗う。
ひかる:先輩ー?今日のご予定は?
〇〇:特にないよ。
ひかる:じゃあ私行きたいところがあるんですけども!
〇〇:うん...って僕も行くの?
ひかる:もちろんです、先輩の車だけが頼りですから!
〇〇:そういう事ね...とんでもない後輩だよまったく...支度して。
ひかる:やったー!ありがとうございます!えへへ…
ひかるは僕に抱きつくと満面の笑みでこちらを見る。さしずめ僕は父親か何かとでも思われているのだろう...悲しい。
ひかるが来たかったというのは近所のショッピングモール。成程、この様子だと荷物持ちかな...
ひかる:荷物持ちにしようとは思ってませんのでご安心を!
〇〇:心を読まれた...
ひかる:先輩は顔に全部書いてありますからすぐ分かりますよー?ふふふっ、行きましょ?
そう言って僕の手を取り、歩き出すひかる。
傍から見たらカップルのように見えるのだろうか...いや、余計な事を考えるとまたからかわれそうだからやめておこう..."顔に全部書いてある"らしいから。
程なくして到着したのは女性用下着店だった。
ひかる:さぁ先輩、行きますよ?
僕の腕を引っ張って店内に突撃しようとするひかるを流石に制止する。
〇〇:えっ!?僕も行くの!?
ひかる:当たり前じゃないですか!このために来てもらったんですから!
○○:…このため?
ひかる:そうです!...可愛いの選んでくださいね?
成程...自分が身に着ける下着を僕に選ばせる事でまた狼狽える姿が見たい、ということか...
ひかる...流石に嫌でしたか?
嫌だも何も女性用の下着店など入ったこともないし、当然男が来るような所ではない。
しかし悔しいことに毎度この上目遣いにやられてしまう。
○○:(…ええい、もうどうにでもなれ!)
僕は覚悟を決め、店内へと入っていった__
_______________
〇〇:まさか...2時間も悩むとは...
ひかる:えへへ...ごめんなさい...
長い長い下着選びを終えた僕らは、カフェで休憩。
ひかる:...でも先輩もすごく真剣でしたよ?
〇〇:だって…適当に選ぶわけにもいかないでしょ...
ひかる:もしかして...着けてるとことか想像しちゃいました?
〇〇:なっ...ししししてないしてない!断じて!!
ひかる:ぷっ...あはははははっ!先輩ってホントに面白いですね!
〇〇:あんまりからかうなよ...心臓に悪いから…
その後僕らは夕飯や日用品を買い、帰宅した。
ひかる:今日はありがとうございました、お陰で可愛いの買えましたよーほらほら。
ひかるは戦利品の下着を僕の前に掲げる。
〇〇:わかったわかった...あんまり見せなくていいから...
ひかる:もしかして恥ずかしいんです?
〇〇:そっ...そういう訳じゃ…ないけども…
ひかる:じゃあ...今日の下着どれがいいか選んでくれません...?
〇〇:.....はい?
ひかる:私は今からシャワーを浴びたいので、出た後に着ける下着を選んでくださいよ。1番お気に入りのでお願いしますね?
この後輩はどこまで僕をからかえば気が済むのだろうか...
僕は照れ隠しに俯き、買った下着の中から1つを指さす。
ひかる:おぉー、お目が高い!紫のレースとは...私も1番お気に入りなんですよー!流石ですね!
〇〇:…もう…早くシャワー浴びて来ちゃって...着替えはいつものとこに入ってるから…
ひかる:…はーい。
残りの下着を片付け、シャワーへと向かうひかる。僕は湧き上がる劣情を抑えるのに必死だった。
__僕はひかるにとって何なんだろう?
ただのゲーム友達?何でも言う事聞いてくれる先輩?...いずれにしても悲しい。
改めて慣れと言うものは本当に恐ろしい。最初はこの家にひかるがいることにも緊張したのに、今ではこれが普通になってしまっている。
…よく考えたら彼女でもない女の子が自分の家でシャワー浴びて寝泊まりしてるのはどう考えても普通じゃない。
しかもそれが…片想いの相手だなんて…
ひかるが僕にマイナスな感情をもっていないのは伝わってくる。
それでもやはり勇気が出ない。
___一線を越える勇気が。
まぁいいや...僕はいつも通り考えるのをやめ、ベッドに横になった。
ひかる:お先に頂きましたー。
考え事をしていると、風呂場からひかるが出てくる。
〇〇:いいえー、っておおおおい!
あろうことかひかるは下着姿だった。
流石にこれは目のやり場に困るどころの騒ぎじゃない。
〇〇:ちょっと!服着て服!
ひかる:...えー?恥ずかしいんですか?似合ってるか確かめて欲しくて...どうですか?
ひかるは僕が寝ているベッドの脇に腰掛ける。
一言で言うなら、とても綺麗だった。
風呂上がりだからか、少し紅潮した真っ白できれいな肌。華奢な身体つき。
目のやり場に困るとか思っていた自分はどこへやら...今はもう目の前のありえない光景から目が離せない。
そんな気持ちを知ってか知らずか、彼女は背中越しに振り返り、微笑む。
そのいつもとは明らかに違う表情に、僕を抑えていた理性は一瞬で吹き飛んだ。
ひかる:きゃっ!...先輩!?
〇〇:...ごめん、もう我慢できそうにない...
気付いた時にはひかるをベッドに押し倒していた。
ひかる:え?
〇〇:…僕…ひかるのこと...ずっと好きだった...でも言ったらもうここには来てくれなくなるかも知れないと思って...でもやっぱり好きだ…こんなんで言うのもなんだけど...
ひかる:...くくっ...ふふふふ...
こんな状況だというのに、ひかるはいつものように笑っていた。
__あぁそうか。またからかわれたのか僕は。
しかし気持ちは全部吐き出してしまった。
呆気なかったなぁ...僕の恋もここまでか...
ひかる:...それで…くくっ...私の返事聞かなくていいんですか?
〇〇:そんなの...聞かなくてもわかってるから…ごめんね、変なことして。
押し倒した体勢から起き上がろうとした僕の腕をひかるが掴んできた。
ひかる:...本当に?なら、このまま続きしてくださいよ。
〇〇:.......へっ?
ひかる:…私の返事わかってるんでしょ?
ひかるはその大きな目でじっとこちらを見ている。
〇〇:えっと...断られると思ってて...え?どういうこと?
ひかる:本当に先輩って鈍感ですよね!!!
ひかるはそう言うと僕を転がして、馬乗りになってきた。
〇〇:うわっ!ちょ...
ひかる:毎日毎日あんなにアピールして…今だってこんなことまでしてるのに...それでも断られると?どこまですればわかってくれます?私の気持ち。
頭が真っ白になる。え?もしかして…僕のこと…好きだったの?
...今までからかわれてると思っていたのは全部勘違いだったということか...
情けない。素直にそう思った。バツが悪くてひかるの顔を見ることができない。
〇〇:ごめん、ひかる...自分に自信がなかった...
ひかる:まったくです!草食系男子極めすぎですよ?普通好きでもない男性のお部屋に丸腰で行ったりしませんからね?
〇〇:ふふっ…そうだよね...
治まらない胸の鼓動を無視して、もう一度彼女の顔を見る。
○○:ひかる。今更だけど、僕と付き合って欲し...んんっ!?
ひかるは僕の言葉を待たず、僕に口付けた。
シャンプーの香りと...微かに甘い味。
ひかる:..."今の"が返事です…...私だって結構恥ずかしいんですからね...
さっきより紅潮した顔で目を逸らすひかるを抱きしめる。
〇〇:ごめん...随分待たせちゃって...
ひかる:大丈夫です。これから一生かけて埋め合わせしてもらいますから...
〇〇:一生か...それは大変だね…ふふっ…
ひかる:何楽しそうに笑ってるんですかー!さっきまで余裕なかったくせにー!
僕の腕の中で怒る彼女が愛おしい。
ひかる:とにかく今日は私が満足するまで付き合って貰いますからね...覚悟してくださいよ?
そう言って彼女は部屋の明かりを消すと、再び僕に口付けた__
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次の日の朝。陽の光で目が覚める。
隣にはひかるが寝ている。そういえば寝顔を見るのは初めてかも知れない。
〇〇:...可愛いな。
ひかる:...んん...先輩?もう朝ですか?
目覚めた彼女はモゾモゾと抱きついてくる。
ひかる:んー…眠い…あれれ?先輩ったら朝から随分お元気ですね?
〇〇:...朝は不可抗力なの。
ひかる:…本当に?
至近距離の上目遣いが昨夜の出来事が夢ではないと思い知らせる。
〇〇:…それだけじゃない...かも知れない...ね。
ひかる:えへへーそうでしょう?昨日はお楽しみでしたもんね?
〇〇:…なんで他人事なの...あっ、そうだ。
僕は唐突にベッドから起き上がり、引き出しから取りだした"あるもの"をひかるに渡す。
〇〇:これ、渡しておくよ。
ひかる:...これ...もしかして合鍵...ですか?
〇〇:...うん。これからは...その...いつ来てもいいから...
渡された合鍵を愛おしそうに眺めるひかる。
ひかる:やった...ふふふ...ありがとうございます...〇〇...さん。
僕の"彼女"は、とても愛らしく笑う人__
_________end.
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