【ショートショート】「超合金ロボ・ゴッチャン」
超合金ロボットのゴッチャンは物心ついた時からそのお店に居ます。
リサイクルショップというところです。
リサイクルショップの棚の上に飾られているゴッチャンは、そこからいろいろなお客さんが来るのを見て楽しく暮らしていました。
ある日、小さな男の子とお母さんが手を繋いでやって来ました。
男の子と目があったゴッチャン。
一目でこの男の子が気に入りました。
男の子も
「これが欲しい」
と言いました。
相思相愛です♡
リサイクルショップで売られているゴッチャンは少し古いため、安価で売られています。
男の子と一緒に居たお母さんは値札を見てすぐに頷きました。
お母さんにとってちょうどいい値だったようです。
こうしてゴッチャンは初めてリサイクルショップから外の世界へ踏み出しました。
男の子の名前はハルト君。
6歳、小学一年生です。
平均身長より背が低く、少し幼いところがあります。
ハルト君はおとなしい子で、学校でもなかなかお友達を作ることができずにいました。
学校から帰って来ると、ゴッチャンと遊びます。
ゴッチャンはハルト君と遊ぶ時間が一番幸せです。
ハルト君のお母さんはハルト君が3歳の時に夫と死別し、シングルマザーになりました。
毎日お勤めをして忙しそうですが、毎日きちんと家事をしています。
そしてゴッチャンにも優しいお母さんです。
ある時、ゴッチャンの腕がとれてしまいました。
超合金ロボのゴッチャン。
お裁縫で直すことはできません。
器用なお母さんはいろいろな工具を使って、見事に腕を直してくれました。
お母さんが交通事故で亡くなるまで、ゴッチャンはいつまでもこの家で楽しく暮らしたい、暮らせると思っていました。
そんなゴッチャンの願いは叶わなくなってしまったのです。
二年生になったハルト君は親戚の家に引き取られていきました。
できるだけ荷物を少なくするように言われたため、ゴッチャンはまたしてもリサイクルショップへ…お店の棚の上からいろいろな人を見る毎日です。
隣には新しい超合金ロボットが居ます。
超合金ロボットには流行があり、ゴッチャンはかなり古いタイプです。
そうなると当然、リサイクルショップでも新しいロボットから売れていきます。
ゴッチャンの超合金ロボ仲間は一人ずつ売られていき、棚の上にはゴッチャンだけが残ってしまいました。
そんな寂しい日々が続き、ハルト君とお別れしてから3年が経った頃、キレイで上品な女性がお店に現れました。
なんと!
その女性はゴッチャンを買ってくれたのです!!
大人の女性が超合金ロボットを買うことに、ゴッチャンは驚きました。
超合金ロボットは小さな男の子、または大人のマニアックな男性しか買わないと思っていたからです。
この女性は『女将さん』と言います。
リサイクルショップの店長がそう呼んでいました。
「旅館の女将さんだろうか?」
ゴッチャンは思いました。
ゴッチャンが女将さんに連れて行かれたところは広くて大きな男性がたくさん居る場所でした。
相撲部屋です。
数日経ってから事情を知りました。
女将さんは息子さんを小さい時に亡くし、それから親方と相撲部屋で若い力士たちを育て上げていたのですが、息子さんが好きだった超合金ロボットを見て息子さんを懐かしく思い出したそうです。
ゴッチャンは力士たちからも大切にされました。
中でも
「ごっつぁんです!」
と話しかけてくれる朝峰(あさみね)という力士は愛嬌があってとても優しく、ゴッチャンの一番の友達です。
朝峰関はまだまだ下っ端で、ちゃんこ鍋を作る係をしています。
作る側なので、なかなかちゃんこをお腹いっぱい食べることはできません。
先輩力士たちにいじられることも多いのですが、いつもニコニコしている優しい力士です。
ある日、先輩力士が朝峰関に意地悪をしようと考え、大事にしているゴッチャンをごみ置き場に捨ててしまったことがあります。
朝峰関の兄弟子の一人が気づいて、ゴッチャンをごみ置き場から救出してくれなければ、ゴッチャンはこの世から居なくなっていたかもしれません。
それ以来、朝峰関はゴッチャンの居場所を確保してくれるようになりました。
ゴッチャンは相撲部屋の神棚に祀られるようになったのです。
それからというもの、朝峰関はどんどん出世し、横綱になりました。
捨てられそうになったこともありましたが、ゴッチャンはとてもいい人生だったなと感じています。
錆や傷、手足がとれかけているゴッチャン。
そんな状態でも、ゴッチャンはとある相撲部屋の神棚で今も力士たちを見守り続けているのです。
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