【ショートショート】「オカン」
うちのオカンはいつも明るく元気だ。
そして声が大きい。
『オカン』と呼んでいるが我が家は別に関西人ではない。
何となく『お母さん』や『おふくろ』と呼ぶよりも言いやすいから『オカン』と呼んでいるだけだ。
思春期の頃から『オカン』と呼び始めた俺の真似をして、妹も『オカン』と呼ぶようになった。
教育的にいいのか悪いのか分からないが、オカン本人が不快に思っていないようなのでとりあえずいいだろう。
高校一年生の妹は反抗期中…。
最近はオカンとの諍いが絶えない。
「オカンうるさい!」「オカン来るな!」「オカンうざい!」といった罵声が聞こえる。
でもまぁ、これもあと数年も経てば終わるはず。
反抗期とはそういうものだ。
俺自身がそうだった。
俺は中学生の頃。
オカンと歩くのが嫌でたまらず、一緒に買い物に行くことのなかった中学時代。
だが、今は二人でも買い物に行く。
みんなそんなふうに成長していくものなのだろう。
今夜も妹の「オカン〇〇!」「オカン〇〇!」「オカン〇〇!」の罵声が聞こえてくる。
いい加減、近所迷惑になるからやめてもらいたい。
2階の自室に居た俺は罵声に耐えられず1階へ避難。
オトンの晩酌に付き合う。
ちなみに俺は20歳だ。
オトンは穏やかな人で、いつもオカンの明るい笑い声を聞くのが楽しいと言っているいい人だ。
冷酒を出そうとしたら
「寒いからお燗してくれるか?」とオトン。
…『お燗』『オカン』同じ響きだ。
お燗で二人しっぽりしていたら、ドタドタと階段を降りてくる足音が……妹だ。
「オカン!オカン!」
何やら叫びながら降りてきた。
オカンが倒れたのだろうかと心配になり2階に上がろうとする俺の腕を引っ張る妹。
そのまま俺が着ているパーカーを引っ張り、脱がせ、妹はそれに腕を通した。
よく見るとブルブルと震えているではないか。
オカンも2階から降りてきて
「2階はさぶいわー!」と。
妹は『悪寒』と言っていたことに気づく。
『オカン』『お燗』『悪寒』、日本語は難しい……。