【ショートショート】「生きているだけで丸儲け!」
ここは高齢者優遇の世界。
80歳になると毎月100万円を国から貰える。
一般的な80歳なら毎月100万円も使うことはないだろう。
つまり
「生きているだけで丸儲け!」
というわけだ。
90歳からは毎月110万円、100歳からは毎月120万円貰える。
実際に無駄遣いをせず、このお金を貯め込んでいる高齢者は多い。
老後のために取っておくのだ。
現在、最高年齢は120歳の女性。
この女性は毎月140万円を貰っている。
しかし、120歳ともなると足腰も弱り、ほとんど会話もできない。
この女性は施設に入っている。
もちろん、100歳を超えても元気で、息子や娘、孫たちと暮らしている人も居る。
彼らは家族に高齢者が居るだけでかなりの丸儲けだ。
場合によっては息子も娘も働かず、高齢者のお金だけで生活できることもある。
楽にお金を貰える世界。
とても素晴らしい世界と思えることだろう。
だが、欲に目がくらんでしまう人も居るのだ。
鳥井家の高齢者は99歳の喜美子さん。
喜美子さんは息子夫婦と暮らしている。
喜美子さんは数年前から病気がちだ。
ほとんど寝たきりだが、介護士に頼ることはない。
自分で排泄はできる。
自分で食事もできる。
ただ、足腰が弱っていて外へ出ることはできない。
生活空間は専ら自身の部屋の中だけだ。
だからといって、息子夫婦がしっかりと世話をしてくれているわけではない。
喜美子さんは毎日ただ寝ているだけ。
何の楽しみもない日々を送っている。
喜美子さんが100歳の誕生日を翌日に控えたその日。
喜美子さんの胸が急に苦しくなった。
「おふくろ!生きていてくれ!!」
息子が懸命に心臓マッサージをしてくれる。
「とりあえず明日まででも生きていてくれ!!」
…そう。
息子は喜美子さんが100歳を迎えることで毎月120万円になるお金が狙いなのだ。
息子の嫁も
「延命!延命!延命!」
と言いながら、喜美子さんの身体をさすってくれている。
二人の願いが通じたのか、喜美子さんは一命を取りとめた。
あと数時間で100歳を迎える夜。
喜美子さんは布団の中で
「死なせてください!死なせてください!死なせてください!」
と、となえていた。