【ショートショート】「夜回りヒーロー」
私の住む町は都心へ出やすいものの、夜は外灯が少なく人通りもない。
夜道は危ない。
ならば、夜回りをしようじゃないか!
そう、私は自称『夜回りヒーロー』。
地域の安全を守るため、今日も夜な夜な見回っている。
冬の夜は特に辛い。
防寒対策をバッチリして見回りに出る。
毎日いくつかコースを決めて歩く。
今日はAコースだ。
Aコースは比較的、外灯のある地域なので安心だ。
午前2時。
さすがにこの時間ともなると、あまり人は居ない。
夜道を歩いていると、前方から酔っ払いがやって来た。
千鳥足である。
見れば私とあまり見た目が変わらない中年のオッサン。
あっちへヨロヨロ、こっちへヨロヨロ…危なっかしい足取りだ。
夜回りヒーローとしてはきちんと自宅まで送り届けるべき!
オッサンの住所を聞いて肩を貸し、無事、自宅まで送り届けた。
次に出会ったのは若い女性。
化粧が派手で着るものも派手だ。
どうやら水商売の女性のようだ。
私と出会った女性は胡散臭そうに私を一瞥した。
「夜道は危険なので気を付けて!」
と声を掛けると、ジロッと睨みながら早足で過ぎ去ってしまった。
不審者と間違えられてしまったようだが、あのような早足ができるのなら危険はないだろう。
睨みもかなり凄みがあった。
私のパトロールは1時から4時頃までを予定している。
酔っ払いや夜の仕事をしている人と出会うことが多い。
痴漢を撃退したり、酔っぱらいを送り届けたり、いろいろと活動していると周囲にも私の存在が知られるようになってきた。
回覧板で
『不審者に注意!!』
と、私の似顔絵入りの注意書きが回ってきたのだ。
中年男性が夜中にウロウロしているので気をつけるように、と。
私はパトロールのつもりでも、周りからはそう見られていないらしい……。
それならば、夜回りパトロールをしているような格好をすればいいのだろうか?
私は通販で警察官の制服コスプレ商品を購入した。
これを着て歩けば問題ないはずだ。
実際に、警察官の格好をしていると睨まれることもなく、出会った人はみな一礼してくれたり、こちらの言うことを素直に聞いてくれたりする。
とても気分がいいものだ。
警察官の格好で夜回りパトロールを続けて1カ月。
私が、とある住宅の前でかがんでいると
「そこで何をしている!!」
と、声を掛けられた。
振り返ると本物の警察官が…。
私の手元を見た警察官は
「こいつが放火魔だ!!」
と叫び、私は手錠をかけられた。
私は『夜回りヒーロー』。
地域の空き家に火をつけ、無料で空き家処分をしている。