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【ショートショート】「恋の予感」

高校生の頃に好きだった人が死んだ。

1つ上のサッカー部の先輩でとても人気のあった人だ。

いつもニコニコしていて頭脳明晰、スポーツ万能、そして顔もカッコいい。

嫌な面が一つもないという完璧な人。

そんな先輩が死んだという知らせは、高校の時のクラスメートからのLINEだった。

「同窓会したいね」

そんな話から自然と高校の時の話になり

「そういえば〇〇先輩、亡くなったんだって」

という流れになった。


私が先輩を好きだったことは誰にも言っていない。

電話や会って話をしたのではなくて良かった。

私はショックで対応できなかったことだろう。

LINEだったからこそ、スムーズに返信することができた。

「えっ!何で!?」

「バイク事故だったらしいよ」

そのクラスメートは友達の友達というように又聞きだったため、あまり詳しいことは知らないようだった。

LINEのやりとりを終えた夜、私はなかなか寝付くことができなかった。

先輩との思い出が蘇って……。

私が先輩を好きになったのは誰もが羨むほどの完璧人間だったからではない。

顔がカッコいいから、という理由だけでもない。

誰にも言っていないエピソードがあるからだ。

入学式の翌日、私は学校に遅刻しそうになった。

まだ仲の良い友達は居なかったので一人で登校。

駅から学校までの道を全速力で走る。

その時、後ろから走ってくる仲間が居た。

振り向くと、その人はニッコリ笑って

「キミも遅刻?」

と、息を切らしながら聞いてきた。

そう、それが先輩だったのだ。

頷くと

「近道しよう!」

と言って、先輩は横の道を示し、そちらに私を引っ張っていった。

そのお陰で私は遅刻せずに済んだし、チャイムギリギリで教室に駆け込んできた私を見たクラスメートたちに

「ギリだね~!」

と、いじられた。

それがきっかけでいろいろな人と喋れるようになった。

あの時のお礼を言うこともないまま、時は過ぎ、あの時の人が〇〇先輩だと知ったのは9月の文化祭の時。

先輩はステージで演奏をした。

友達とバンドを組んでいるらしい。

先輩はギター担当でとても上手だった。

その後もサッカー部での先輩の活躍ぶりや体育祭での活躍ぶり、いろいろなところで先輩を見る機会に恵まれた。

私が先輩を好きになるのは必然だったのかもしれない。

しかし、何も接点がないまま、先輩は卒業してしまった。

大学名は知っているが、私が入れるレベルではなく、大学卒業後はどこに就職したのか分からない。

私は現在、飲食店で働いている。

思い出に浸りながら、翌日、出勤した。

何となく気分が重い。

近くにオフィスビルがたくさんあるため、平日のランチ時間は混雑する。

ぼーっとしているわけにはいかない。

忙しく立ち働いていた時、一人のお客様に話しかけられた。

「何がおすすめですか?」

メニュー表を開いてその人の顔を見たら…。

○○先輩の生き写しのような人がそこに居た。

顔も声もそっくりで、しばらく見入ってしまった。

動悸が激しくなり、何をおすすめしたのかも覚えていない。

いつの間にか、その人は食事を終えて帰って行った。


ドキドキドキ…。

その日から私の動悸は止まらない。

また、あの人がお店にやって来る日が待ち遠しい。

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