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【連作ショートショート】「ツ・チノコ 3」
前回のお話はこちらから。↓
双子を近所の公園で遊ばせていた琴子(ことこ)は、
ふと、双子の姿が見えないことに気づいた。
ベンチで読書に夢中になってしまっていたのだ。
キョロキョロと辺りを見回していると
「お兄ちゃーん、何これー!!」
と、下の子の声が聞こえてきた。
双子は男の子と女の子。
さくら幼稚園の年長さん。
お兄ちゃんはしっかり者で、妹の方は好奇心旺盛のお転婆さんだ。
琴子は声のする方へ行ってみることにした。
二人はしゃがんで何かを見ているようだ。
上から覗き込むと…。
琴子は悲鳴を上げて後ずさった。
琴子は爬虫類や両生類が苦手だ。
双子がツンツンと触っているのは、どう見てもそれらのたぐい…。
その場で失神しそうになったものの、何とか踏ん張り、
双子を両脇に抱えてその生物から離れさせた。
「おかーさーん、これ、なぁにぃ~?」
下の子が不思議そうに訊ねてくる。
琴子は答えることができない。
全く見たことのない生物。
頭がちょっと平たくて、胴体はヘビよりは太いもののトカゲのような…。
そうだ!
子どもの頃に見た絵本の挿絵にあったツチノコだ!!
「ツチノコ…」
琴子が思わずつぶやいたその時、
「ツ・チノコ!」
ツチノコが喋った。
「キャー!!」
琴子は今度こそ大きな声をあげた。
その声に驚いてお兄ちゃんの方が尻もちをついた。
「お兄ちゃん大丈夫ぅ~?」
下の子が心配そうにつぶやくと、ツチノコが今度は
「オ・ニイチャン」
と喋った。
琴子は夢を見ているのだろうか、
自分はおかしくなってしまったのだろうか…。
そんなふうに思っていたところ
双子がまたツ・チノコ(これは名前なのか?)に近づいて
楽しそうに笑っている。
「ツ・チノコ飼いたい!」
「おうちに連れて帰ろう!」
双子は口々に言って琴子を困らせた。
気づくと、双子は二人で上手にツ・チノコを抱いて
家に連れ帰ってしまった。
慌てて琴子も二人を追いかける。
…さて、どうしよう?
夫にバレたら大変だ!
琴子だけではなく、夫もこの手のものは苦手なのだ。
夫はこの日、出張で家を空けていた。
帰宅は翌日の夕方。
それまでに、ツ・チノコをどうにかしなくてはならない…。
喋るツチノコなんておかしいに決まっている…。
琴子は宇宙人やUFOといったSFを信じたことはないが、
今回ばかりは宇宙から来た生物なのではないかと思った。
見た目も気持ち悪い…。
双子たちは
「可愛い」
と言っているが、
琴子にはどうしても愛くるしく思えなかった…。
そして、双子たちが寝ている夜中に、
琴子は古くなったタオルでツ・チノコをくるみ、
外へ持ち出すことにした。
どこに捨てよう…。
そうだ、近所に竹藪がある!
とりあえず、そこにツ・チノコを捨てることにした。
朝起きた双子は大騒ぎ!
「ツ・チノコが居ない!」
「居なくなっちゃった!!」
特に下の子をなだめるのに苦労した。
琴子は、
自分が起きてきた時にはもう居なかった…。
そんなふうに説明した。
窓もしくは玄関などの隙間から外へ出て行ってしまったのだろう。
そんなふうに嘘をついた。
双子は幼稚園に行って何日かすると、
すっかりツ・チノコのことは忘れてしまったようだ。
出張から帰宅した夫が
双子に様々な御当地ゲームなどを買ってきたこともあり、
ゲームに夢中になる双子。
子どもの関心事はくるくる変わるものだ。
ツ・チノコのことは琴子もだんだんと忘れていった。
その後、
竹藪から変な生物が出てきた、
という話も聞かない。
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